ONE PIECE [LC] | ナノ


島ギャルげっちゅー

ヴィーザル停泊すること4日目。
能力の使い過ぎでぶっ倒れた俺が意識を取り戻したのは今朝のこと。丸2日も眠りこけてたわけだが誰一人として文句は言わなかった。そう、それどころじゃない。ついに"その日が来た"と言っても過言じゃない。

「セトよ......とくと見るがいい。おれの生き様を!!」

俺を目の前にガッツポーズを決めるサッチに心底溜め息が出る。
ついこの間、真面目に俺の話を聞いて兄貴ぶったヤツは何処へ行ったんだろうか。今はただ目の前を過ぎてく水着の美女に鼻の下を伸ばすただのオッサンに成り下がってる。そう...驚異的な作業スピードにより皆さん念願の夏島へ、サッチの希望通り"水着ギャルげっちゅー"の日が到来した。昨日の晩にわざわざ時間決めて一陣、二陣、三陣...と此処へ来る割り当て表を作ったってのには驚いた。

「いいか、作戦はこうだ!女受けのいいお前とエースが先陣を切って女を引っ張る。そしてマルコとお――...」
「シン、エア。海にはくれぐれも近づくなよ」
「聞けよ!!」
「俺はナンパに興味ねえから三人で仲良くやれ」

というよりもサッチ以外全員が能力者で「一緒に泳ぎませんか?」なんざ無理に決まってる。せいぜい言えて「砂浜でお城作りませんか?」になる。そんなの誰がやるかってんだ。ついでに言えばこっちはシンもエアも居るんだ。サッチの子守とか冗談じゃない。

「あ、おれもパス。ぜんっぜん興味ねェ」
「エース!?」
「ならオッサンコンビでナンパして来いよ。ハート強くなるぜ?」
「......イイ度胸してるじゃねェかいセト」
「マルコじゃ撒き餌にもならねェよ!」
「シメるよいサッチ!!」

すでに水着で砂山を作り始めるシンとエアの横、同じく水着のエースが加担して遊び始める中、サッチとマルコの取っ組み合いが始まる。横目で遠巻きになる水着美女がどうやら見えていないらしくカッコ悪さ全開のサッチが悲鳴を上げてる。
正直、ただ暑いだけの夏島なんか用はないし自由行動になってんだから俺は来ることはないはずだったが...シンとエアが「いきたい」と言い出したからにはついて来ないわけにはいかないわけで。

「ちょっ、マルコ、ギブ、」
「あァ?聞こえねェよい!」
「よーしシン!エア!ここらでトンネルを掘ろう」
「「はーい」」

バラバラパーティだ。来るなら来るで出来ればもっと違うメンツと来たかった...
とにかく俺はガッカリだ。天下の"白ひげ海賊団"ともあろうメンバーがこんなんでいいんだろうか。一人は子供と遊び、一人は女に見惚れ、一人は...って、そういやマルコは俺と同じで普段着だ。とは言っても露出狂には変わりないが...泳げねえにしても此処は暑いしビーチだから水着でも良さそうなもんなのに。目的がいまいちハッキリしてないな。

「マルコは何があって此処に居るんだ?」
「てめェらの見張りだよい」
「......あっそ」

折角の休暇が台無しだな、お互いに。

春島・ヴィーザルに近接する夏島・エイルは"水着ギャルげっちゅー"の通り、海岸沿いでバカンスを楽しむ人が多い。その中には海賊だの何だのが入り混じっているが小競り合いはしないらしく、全く違うマークを背負う人たちが多少気にしつつも横に並ぶという何とも不思議な光景が広がる。当然、此処に居る"白ひげ海賊団"の三人も目立っているだろうが衝突は今のところない。小競り合いの多かったヴィーザルとは違うことから俺も少しは気が楽にならなくもない。

三人が砂山を作る傍らに俺も座り込み、ただ意味もなく周辺をぐるりと見渡す。
男も女も出し惜しみすることなく肌を露出させて海に入る人もいれば砂浜で日光浴する人もいる。サッチみたくナンパ目的の若いのもいれば、それを軽くあしらう美女もいる。ずっと秋島でひっそりと生きていた俺としてみれば無駄に元気なもんだと感心する。

「セト、おめェは水着にならねェのかい?」
「......水着なんざ持ってねえし脱ぐつもりもない」
「結構浮いてるよい」
「気にしてない」

これでも俺に出来る最大限の夏仕様で来てるんだ。目立とうが浮こうがこれ以上はどうしようもない。それに肌を露出させる趣味もなければこの日差しの中でわざわざ肌を焼こうなんて気もない。サッチ曰く、白い肌より黒い肌の方がカッコ良く見えるらしいが...俺はそうは思わない。日焼けっていうのは軽度の火傷だ、そこまでして肌を焼きたきゃエースに頼めばいい。

「楽しみにしてたんだがな、ジョズとかエースとか」
「尚更着ねえよ」

あれだけ酷い目を見てまだ病的なことを言ってんのかあいつ。
俺がぶっ倒れた後、隊員たちはエースそっちのけで俺を医務室に運んでくれたらしい。そして少しずつエース救出と言う名の積荷運びを行い、実際エースが助けられたのは数時間後だったとか。その元凶を作ったのは俺だってのにあいつときたら気にした様子もなく「やっと起きた」とか言って抱き付いて来たもんだからまたブッ飛ばした。どうも最近エースが俺の上司で隊長だってのを忘れ気味だ。

「そういや今日はアレ付けてねェんだな」

スッとマルコが指差した先は俺の胸元。服を買い替えた日から表に出すようにした..."片翼"のことを言ってるらしい。

「潮風に...晒さねえように中に仕舞ってるだけだ」

割と目聡い。そういうのってチェック入るようなもんなのか?と聞きたいところだが、何となく、探りを入れられてる気がする。
出来る限り、自分を露出したくねえと思ってるのに変えられない、捨てられないものが俺にはまだ残ってて...それが突如として表に出る。それを一部の人間が見逃さない。うまく交わしたつもりだがそれは俺がそう感じてるだけできっと標的は逸らせてない。
もしも、俺が何処かのスパイだと思われてるんなら彼らはすぐにでも片を付けるだろう。だけどそれをしないということは...

「セトちゃん、みてみて!」
「トンネルできた!」

二人が自分たちで作ったトンネルの向こうから手を振る。屈託のない笑顔、それに紛れてエースまで同じことをしてる...これにはマルコも溜め息だ。馬鹿というか間抜けというか...デカいのは図体だけで中身は二人と何ら変わりはない。

「......アレは昔からああなのか?」
「さァな。あいつはウチのクルーになってまだ一年しか経ってねェ」
「一年、なのか。それで隊長になれんのか?」
「何だかんだで強いからなァ。けど隊長になったのも最近っちゃ最近なんだよい」

単純にふーんと微妙な返事をしてしまう。
ただ単に手配書とにらめっこしかしてねえ俺としてはそういった経緯とかは何も知らねェわけで、ただ"白ひげ海賊団"に若くて強いのがいる、火拳のエースという名前、くらいの認識しかなかった。今もその程度しか仲間を知らない。

「マルコ」
「何だい」
「あんたはいつからこの船に居るんだ?」

突拍子のない質問。卑怯だと分かっていてそれでも...聞いてみたくなったこと。
自分のことは何も言わねえのに他人のことを聞こうとか本当は間違ってる気もするが...不思議と聞いてみたくなったんだ。

「もう...20年以上乗ってるよい」
「20年って...マジで本当にオッサンなんだな」
「うっせェよい!!」

マルコの年とか知らねェが20年以上となると人生の半分はこの海、この船の中で"海賊"として生きてることになるんだろう。
"白ひげ"は一般に被害を与えない海賊だが所詮、海賊は海賊だと誰もが思うだろう。賊という肩書きだけで人は避ける、怯える、怖がるだろう。俺はただ単純に...この船に乗り込んだが乗り続けるとは誓えねェ。だが乗った以上は恩はある、でも道を別つことだってある。矛盾したものを知っているから軽率なことは口が裂けても言えやしない。
気付いたら20年以上...だがその時間は決して短くない。此処に人生の半分を置く、それはどれほどの覚悟が必要だったんだろうか。

「20年は長えよな...」
「短いとは言えねェな」
「降りたいとか、思わなかったか?」



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