ONE PIECE [LC] | ナノ


必要だとすぐに気付いた



「レイリーさん!」

いつもの半戦闘の光景が見られるかと期待して扉を開けるとそこは随分と静かだった。
珍しくカウンターに付いた姉さんが一人の客を相手してるだけ...そこにはレイリーさんの姿はない。とは言っても、大人しく此処にいることの方が珍しくって会えることの方が少ない。放浪癖なんだよなァあの人。

「あら......アナタだったのね」

随分と警戒されてたらしい。
コロリと表情を変えた姉さんが「いらっしゃい」とも言わずこちらを確認した。

「ん?あァ、タチの悪い客だと期待させちまったか?」
「まあそんなとこ」

笑顔で肯定か。でもまァ、此処の客層は大体悪いもんなァ。
ただ、暴れる輩はこの店の事を何も知らねェ輩だけ。姉さんだけでも相当なのにレイリーさんまで揃ってたら間違いなく潰される。それこそ軍艦一隻の中に大将を揃えとかねェと勝機はない。おれらでも勝てるかどうかって話だ。そう、こんな場所で店をやってられるのはこういう人だけ。

「残念ね、レイさんならちょっと前に出掛けたから...」
「じゃあ数日は会えねェなァ」
「ふふ、そうね。そのうち帰っては来るでしょうけど」

それにしても...此処もこの夫婦も相変わらずだ。ドライに生きてる。その空気がおれは好きだ。
何だろう、干渉するだけが付き合いじゃねェっていうのを感じさせてくれるし、信頼してるからこそ自由にやれるし縛ったりしない。それが見えるこの場所は何か居心地がいいんだ。と、そんなことを考えて姉さんを見ていたら近場にあった何かをおれ目掛けて投げて来た。

「適当に飲んでちょうだい。カウンターにもお客さんいるから静かにね」

ポーンと投げられたのはおれの好きな酒。普段だったら投げられることはねェんだが...珍しく姉さんがカウンターから動く気配がない。
いつもだったらカウンターだろうがテーブル席だろうが姉さんはやって来て根掘り葉掘り、色んな情報を収集してくんだが...

「おー...って、珍しいなァ。普段はそんなこと言わねェのに」
「こっちのお客さんはカタギなの。アナタを見たら怯えちゃうわ」

カウンターに座る一人の客。顔を隠すためにデカいフードを被ってる。多分...女だ。
「ふーん」とだけ返事して適当に貰った酒を開けて、飲みながら次の航路について考えるかァなんて思った。ほんとだったらレイリーさんと色んな話したり、姉さんと最近の情報を交換するために来たんだけどな。

けど、正直、カウンターでの内緒話にも興味があってこっそり盗み聞きしてみたり。だって姉さんが女子会してるとか見たことねェし。

「で、これからどうするの?」

ふーん、この子は観光客か。だったら遊園地がオススメだよなァ。けど、姉さんが遊園地で遊ぶとか有り得ねェな。レイリーさんはああいうとこが意外と好きでよく行ってるらしいけどソレに姉さんが付いてったことはないらしい。まァ、店もあるし。

「.........船を、」

ん?

「奪います。それで海へ」

強奪宣言!あ、いかん、鼻から酒飛び出すとこだった。

「あらあら"奪う"だなんて貴女らしくないわね」
「だって買う余裕はありませんし...それにある程度ならば可能です」

.........冷静だ姉さん。てか、んな細っこい体で船奪えるくれェ強いのか?
でも姉さんとレイリーさんの友達なら有り得なくもねェけど、それでも武器っていう武器も持ってなさげなんだが。

「うーん...その時は手を貸すけど、」

珍しいの連発だ。姉さんが手を貸すとか。
勝手に聞き耳立てといてアレだが、随分と穏やかじゃねェな。船奪うって...おそらく海賊船の類を分捕るってことだろう?此処まで辿り着いた海賊ってのはそんなに弱い連中じゃねェ。それと一戦交えるとか下手したら騒ぎになって海軍とか出て来ちまう。

「その後は?」
「ログポースもありますし何とか渡れるはず」

たった一人で?
この海域に達する前に志半ばで死んだヤツなんざ五万と居る。運良く辿り着いてもそっから先で死んだヤツも五万と居るだろう。沢山の仲間と共に旅立っても...消えてく仲間だって少なくない。それが、この海。


「.........海はそんなに甘いもんじゃねェよお嬢さん」


何だ、この感覚。口を割らずにはいられねェ。


「たった一人で航海出来るヤツは知識と経験、運、腕っぷしがある。それが出来ねェから仲間がいるんだ。
見たところお嬢さんは色々欠けてる。そんなんじゃ目的地に達するどころか出てすぐ死ぬぞ。若い身空で死ぬのは嫌だろう?」


死に急ぐオーラ。それがフードの女から見える。
おれは、生きたくても生きれなかった人を沢山見て来た。生きれないと悟って笑って自らの幕を引いた人を見て来た。命は大事だ、それを粗末にするヤツは嫌いだ。おれは...自分より若い連中が無茶して死に急ぐことをすんのが、死ぬほど嫌いだ。



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