ONE PIECE [LC] | ナノ


出歯

午前5時頃、敵襲を知らせる声におれは起こされた。
寝てるのを叩き起こされて気分が悪い、まだ眠い、とまた布団に籠もろうかとしたらジョズが叩き起こしに来たもんだから更に気分が悪くなった。どうせ雑魚だろうと言う前に「雑魚だが面白いもんが見れるかもしれない」とジョズが笑って...更に一層気分が悪い。面白さより眠いが勝ってるから。

「おーい、エース持って来たぞ」
「あァ、御苦労さん」
「......何でおめェら戦闘に行かねェんだよ」
「いや、面白いもん見れそうだから」

甲板へは扉一枚、あと一歩のとこで集まってるのは隊長格の連中ばっかだ。甲板には...他のクルーと、デッキブラシを持ったセトが居た。

「あいつ...こんな時間から掃除してんのかよ」
「そうらしい。一日三回のうちの一回がこの時間だっておれも初めて知ったよい」
「真面目だなァ...」
「見習えよエース」

扉越しに今にも戦闘が始まりそうな甲板をただ見るおれら。
あちらさんは朝だってのに結構ヤル気らしくきったねェ笑い声だとか叫び声がする。その数ざっと...30人くらいか?それには少しウチのヤツら数名、引き気味にも見えるが、セトは涼しい顔して今にも溜め息を吐きそうなカンジだ。この表情はよく見るからな、おれにも分かる。

「何処だァ"白ひげ"!てめェの時代は終わりだァ!」

と、お決まりの文句を吐く敵の船長らしき男は......あァ、やっぱ雑魚だな。

「なァ...応戦しなくていいのか?」
「しない。きっと面白いもん見れるから」
「最低だなサッチ。おれ見損なったぞ」
「ならてめェが行けよい」
「嫌だ。めんどい」

どっちが最低だよい、とマルコが言ったが聞こえなかったフリをする。
今にも暴れるぞと言わんばかりだが口ばっかでなかなか戦闘に入らねェ雑魚にだんだんイラつく。こういうのが多いんだよな雑魚には。人数そこそこ居るってのに威嚇ばっかで実力が無い。だから沈められるんだってのを知らねェんだ。
「出て来い!"白ひげ"!!」と、喚く敵の前に静かに立ちはだかったのはセト。デッキブラシを持ったまま、それで敵の足元を指してる。

「......掃除したばかりなんだけど」
「何だてめェ」
「雑用。どうしてくれんの、コレ」
「あァ?ふざけてんのかてめェ!どうせ血で汚れるんだ、気にすんな雑魚が!!」
「......血は面倒だな」

うわ、度胸半端ねェなあいつ。こっちは大爆笑の渦だ。

「やべ!おれ、腹が攀じれる...!!」
「ああいうのは冷静にやられると逆上するよい」
「"何だてめェ"に"雑用"ってどんたけ真面目なんだ!!可笑しすぎて腹、いてェよ!!」

で、助け舟は出さねェつもりらしい。もちろん、おれも。
見た雰囲気ですぐ分かる。おれらが行かなくとも甲板の連中だけですんなり片付くだろうよ。わざわざ此処まで来てるのにも逆に謝れよ、くらいのレベルだ。当然、オヤジにも会えないまま藻屑になればいい。

「あァ...まずてめェから死ね!!」
「残念、でした――..."縛"!」

セトの左手が横一直線に空を切ると風があっさりと30人を捕獲した。
まるでロープみてェに風を操れるとは鍛錬してんなァ、賞金稼ぎは伊達じゃねェ。あれを炎で応用は...出来ねェか、その前に灰にしちまうな。流石にこの光景には一同「ほォ...」と感心してる。

「なっ、能力者!?」
「そのまま浮上してー...」
「お、おい!!」
「さよなら――..."流星槍"!」

指をパチンと鳴らしただけ、それだけで宙に浮遊していた30人の雑魚が自分たちの船目掛けて急速落下した。つまり自爆。
ぎゃあああ!の叫び声と船の大破する音は実に爽快なもので立派に水柱も上がった、虹も出来た。おれがいきなり敵船を燃やした時より綺麗だと思う。まァ、後片もないのはおれの方なんだが。

「だ、大丈夫でしたかセトさん!」
「.........床が汚れた。ついでに海も」

あくまでも掃除が大事なのか!そんなもんなのか!

「床!?あ、いや、おれらが掃除しますよ!!」
「いやいい。もう交代の時間だから寝た方がいい。朝からお疲れさんでした」

はあ...と溜め息を吐いてまた掃除を始めるセトに見張りをしてたヤツらがオロオロしつつも頭を下げて「お先します」と挨拶した。
「何であいつら新参者のセトに敬語なんだ?」と不思議がるジョズ。「力量の関係じゃねェかい?」と返事をするマルコ。「あいつの空気だろ。若ェけど威厳ありすぎ」とプラスするサッチ。いや、それは全部ハズレで実はおれが「俺の弟につき呼び捨てタメ口禁止!」って言ったからそうなってる。忠実に守られてることに安心した。

「ほんと、ああ見えて場数踏んでんなァ」
「もういっそサッチと隊長交代させたいくらいだよい」
「おれ!?」
「この中で交代出来るとしたらサッチくらいだろ。何なら一戦交えて決めるか?」
「......能力者には勝てねェよ」

そうだな。だけどあいつならフェアに挑みそうだぜ。やっぱ真面目だし律儀だしな。
サッチと交代うんぬんはさておき、とりあえず雑魚相手とはいえ一戦を観戦出来て結構満足してるマルコたち。まァ、おれとしても少し負担が軽減しそうだしイイものは見たと思ってる。少なくともこの時間帯の敵襲に関してはセトその他に任せられる。おれは寝てたい。

「.........何してるんだ?」
「ゲッ、セト!」

ゲッ、はないだろうサッチ...セトの眉間にシワ寄ったぞ。
よく考えりゃおれらまだ扉前から移動してないわけで掃除が終わったセトがやって来てもおかしくない。

「邪魔、なんだけど」
「あ、あァ...すまねえよい」

デッキブラシとバケツを抱えて左右に道を開けたおれらの前を何食わぬ顔で通るセト。
別段悪いことはしてねェけど応戦せず観戦しただけのおれらとしては少し後ろめたい気持ちがある。でも、こう、セトが何も気付いてないなら問題はないわけで......とか妙な言い訳を頭の中で考えてたらピタリ、セトの足が止まった。


「............出歯亀サイテー」


フン、と続きそうな冷たい声で呟かれてピシッとおれらは固まった。
振り返ることなく呟かれて、言うだけ言ったらスタスタと歩いてったから顔を見ることは無かったが...キレてんだろうか援護しなかったから。いや、援護するほどでも無かったわけだから単に此処で爆笑してたことにムカついたんだろうか。

真意は分からねェが...少なくともこの後しばらくは誰も口を利いてもらえなかったという。

08.5. 君の笑顔
09. 拝啓、初めての街にて

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