賞金稼ぎは姐さんが怖いのです
下っ端は下っ端らしく掃除をしよう。朝からそう思っていたが思いの外、視線が妙に痛くてたまらない。
昨日の宴の後からだ。クルーの大半から怒りを買ってるらしく嫌がらせはされていないが挨拶はロクに出来てない気がする。これがまあ...俺が悪いと言われたなら謝るが絶対に俺は悪くない。悪いのは...マルコとナースの姐さんたちだ。
「よォ、一夜で嫌われたなセト」
「......」
「心配すんな。しばらくしたら元に戻るさ。コレが新参者の洗礼だよい」
「......」
「おいおい、マジで女性恐怖症だったのかい?」
「......放っとけ」
もうこれは否定しない。
船内を走り回るシンとエアを呼んで今度は甲板の掃除にでも行こう、と色々突っ込んで来るマルコをスルーして背を向けたら...にこにこしたディア姐が居た。思いっきり鳥肌が立った。
「......っ」
「マルコ!セトちゃん捕まえて!!」
「りょーかい」
「ぎゃあ!勘弁してくれ!頼むマルコ!」
「......そんなにか」
不憫そうに俺を見る割には突き出す気満々のマルコに心底ムカついた。
「逃げるのは卑怯でしょセトちゃん。約束の時間来てるのよ」
「ディアナ...喰うつもりなのか?コレ」
「ふふ、そこは想像にお任せするわ」
「任せんな!でも言うな!」
「あらあら注文多いわね。ほら、さっさと行くわよ」
......もういっそ、風でぶっ飛ばしてやろうか。
船内だと呼べる風も少ないかもしれないが壁をぶっ飛ばすくらいのヤツは集まるかもしれない。少し集中して風を呼び込もうとしたけど、
「......来ない」
「あ、セトちゃん知らないんだ。この手錠」
「はあ?いつの間に手錠なんか、しかも、風、」
「海楼石の手錠。悪魔の実の能力者から一時的に力を奪うことが出来るよい」
「そんなもんあんのかよ!」
「はいはい。こうなったらただの人。勝手に連れてくわよマルコ」
「......御愁傷様」
手を合わせて見送るマルコに更に怒りが込み上げるも謎の手錠の所為で何も出来やしない。
約束の時間...「あ、忘れてた」では済まなかったか......出来れば今件は交わしたかったが、もう遅い、な。
「ほんと、手のかかるコね」
「.........もう、腹は括ったさ」
連行される場所は分かってる。もう引き摺られたくなくて「放してくれ」と頼めば素直に手は放してくれた。
手錠を付けたまま船長室。まるで牢屋送りになる囚人みたいだ。
ディア姐さんがノックすると中からミネ姐さんの声が聞こえた。
どうやらオヤジの点滴交換の時間と被ったらしい。でもまあ...他に変なのさえ居なきゃいいか。
「おはようセトちゃん...って、手錠掛けちゃったの?」
「だって逃げようとしたんですもの」
「グララララ!そこそこ往生際の悪いヤツだ」
悪くもなる。賞金稼ぎやってて往生際のいい捕まり方したヤツなんざ見たことねえし。
「......もう腹は括ったさ」
「さっきも同じこと言ったわよ」
「......うっせえよ」
手錠されて突き出されて、それでもふてぶてしい態度を取る俺もアレだが、そこを全く気にしてないオヤジは寛大だ。
そういえばシンとエアが「おじーちゃん」と呼んだ時も笑ってただけだったな。しかも初対面なのに膝に乗せて可愛がった。
「さて"娘"よ」
「......初っ端から"娘"は止めてくれ」
「うすうす気付いちゃいたがこいつらが言わなかったら忘れるとこだったぜ」
「忘れてくれた方が良かった」
「そうかそうか。グララララ!」
自分でも、忘れようと思っていたんだ。
「生き抜くには"娘"はキツかったか?」
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