ONE PIECE [LC] | ナノ




「船長!何故立ち止まったんです!」
「はァ?」
「おれは...何があっても情報は漏らしません!捕まったとしても...っ」

「......おめェの為じゃねェよガキが!
おれァなァ、仲間を生かす為に立ち止まってるわけじゃねェ!
後ろに仲間がいるから逃げないんじゃねェ!
自分がそうしたくて立ち止まったら...その後ろに大事なヤツがいた。
仲間が居ただけよォ。たまたまなァ」



「おれァあの人からそう言われた時、後付けの屁理屈だと言った。けど...今なら分かる。
自分の意思で仲間を守るのって...その本人からすれば誰かの為でも所為でもないってこと」

例えば、おれはお嬢さんを攫った。
攫いたくて攫って来た。おれが放っておけねェなァって思って動いた。誰の意思でもねェ、おれの独断だ。そしたらお嬢さんの為になった。いや、正確にはまだなっちゃいないが...きっとお嬢さんはおれらに何ら感謝とか...思う事があると思う。

たまたま欲したもの。
奪った者から感謝されても困る。その後は...考えちゃねェんだから。

あの日の船長も、クルーを助けたくて立ち止まったわけじゃなかったと思う。
自分のクルーを怪我させた奴にブチ切れたんだろうなァと思う。船長の大事な...所有物がおれらなんだとレイリーさんも笑った。所有物なんて言い方酷くないか?とは思ったけど大事にされた。本当に。だから...大事なおれらを傷付けた野郎にブチ切れたんだきっと。たった一人で...

「けどなァ...あの人が居なくなっておれはやっぱそうはして欲しくなかったって思うんだ。
一緒に逃げて欲しかったし、一緒に負けても良かった。捕まっても良かった。それで一緒に泣いても良かった。お嬢さんも...そんなカンジだろ?」

全ての真意を、告げる事無く居なくなった。
船長は船長のまま、全てを残してこの世を去った。全ての始まりを作った。
おれらにも語らず...それが何か切なかったっけなァ。でも、少しずつおれらも船長に辿り着いてる気がしているんだ。だからお嬢さんも同じだ。

「まァ、真意は分かるさ。大丈夫、おれらが導こう」
「.........有難う、ございます」
「お、オイ!泣くのか?泣くな!別におれは!」

泣かせる為に乗せたわけじゃねェ。

「わ、私、嫌われてない、かな、...」

ただ、笑って欲しかった。

「.........おれが、
おれが"風花のセト"なら、お前を嫌うことはない」

そうだ、おそらく"風花のセト"も同じだ。
大事なお嬢さんに笑って生きて欲しかったんだ。何も苦しむ事無く笑って...幸せに。

涙を止められなくなったお嬢さんをあやすように頭を撫でる。
嫌がられない。本当は抱き締めたいところだが...今は恐怖なんて与えたくねェ。ただ、子供を慰めるように撫でた。

しばらくすると小さなノック音がした。

「お頭、情報を...って、また泣かせたのか?」

また、とか失礼な。
否定したかったが先にお嬢さんが否定したから何も言わなかった。交互におれらを見る。動揺しているのは明らかだった。

「まァいい。"セト"についての報告だ」
「早いな。続けてれ」

情報ルートは様々。仲間に聞く事もある。昔の仲間に聞く事もある。時には...変わったルートも使う。
割と"セト"について情報は集まっているがお嬢さんの表情は暗い。そりゃそうだ。今のところ全員男で"風花のセト"ではない。あ、ベンに女だって事を改めて伝えなきゃいけねェな。勘違いしてた、と。

どんどん情報を伝えるベン。
最後の一人の話をした時、お嬢さんは言った。

「.........その人です」

白ひげの新人、能力者"セト"。
不思議な力で大の男複数人をぶっ飛ばす少年...まァ、おれが想像するに少年と言われても仕方ないかもしれないなァ。そこそこのタッパもありそうだし、聞いた限りでは寡黙で冷静で人を寄せ付けそうもないしなァ。

「間違いありません。それが"セト"です」

それに、お嬢さんも断言した。これで決まりだ。


お嬢さんには今から段取りを考えると言って部屋を出てもらった。
華が無くなってむさ苦しいオッサンだけになっちまったが基本はこれだ。慣れてる。

「"白ひげ"かァ」
「あそこまで断言されると清々しいな。どうする?」
「勿論訪ねるさ。そこに居るなら」
「違う。その後だ」

ベンが紫煙を吐きながら言う。

「居るのは間違いないだろう。お嬢さんを白ひげに託すのか?」
「はァ?」
「再会させて引き離すのか?」

.........考えてなかった。
そうだ。引き合わせた後、二人がどうするのかどうしていくのかなんて分からない。"白ひげ"の下に居るということは..."風花のセト"はそこを選んでいる。そこを居場所だと決めたんだ。"白ひげ"は...仲間が傍に居るわけじゃねェ。全てが家族なのだから。

「そりゃ...お嬢さんたち次第だが...」
「恋人なんだろう?」

カウンターパンチを喰らった。

「は?ちょっ、お、おれはまだっ」
「.........セト同士が、だ」

あァ...そっちか。焦った。

「あァ...それは違った。"風花のセト"は女だった」
「そうか...良かったなお頭」
「なっ、何が、」
「初めてアンタが女を攫った。素姓も分からぬ女なのにだ」

.........

「何処に惹かれた?」
「.........目だ」

可愛らしいお嬢さんなのに...その目に宿る自棄を含んだ強い意思を見た。
叶う叶わないなんて厭わぬ強い願望。願望の為ならどうなってもいい、それが叶わなくてもいいと言っているような目に...確かにおれは惹かれた。

「ならいい。せいぜい考えるんだな」
「.........あァ」
「それと...しっかり守ってやれ。この船ではアンタ以外その責は負えない」

薄く笑ってベンは部屋を出て行った。
お嬢さんの素姓について聞き出した事もあったが...触れて来なかったところを見ると聞く気は無いらしい。

守ってやれ、かァ......
守れるものならばそうしたい。ただ、誰かの代わりにって言うんだったら少しだけ、ほんのちょっとだけ、癪な気持ちもある事に今更だが気付いた。


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