ONE PIECE [LC] | ナノ


不納得極まりない手配書



今朝、マルコとサッチが珍しく真面目な顔をして俺に頼み事をして来た。
船の仕事ならば部隊は違えど二人は隊長だからヘラヘラして頼もうが眉間にシワを寄せて頼もうが俺には否定する権利はない。が、どうもそういうことではないらしい雰囲気だったがとにかく真剣に頼まれた。

「......話は聞く」
「単刀直入に言うぞ。エースとデートして来てくれ」

と、サッチは拝むように手を合わせて頭を下げた。このポーズは色んな場面でよく見る。
例えばジョズとかに金を借りる時、エースに姐さんの情報を探らせようとする時、俺にシンとエアを引き取るよう頼む時など。そういう頼み事をする時のポーズだ。あ、あと謝罪のポーズはこの体勢からすぐさま土下座に変わる。

「エースとデート...何か呪いの呪文みてえだな」
「突っ込むとこはそこじゃねェ。で、受けてくれんのかセト」

と、マルコがいつも通りに腕組みしたまま問うた。これもまたよく見るポーズだ。で、俺は聞いた。

「まず...そのデートが何かを説明して欲しい」
「「!?」」




不納得極まりない手配書




「お前そんなことも知らないのかよ」な顔に対して「知らねえから聞いてるんだ」の顔をする。
威張って言うこともねえけど知らないものは知らない。分からないことは分からない。今まで生きて来た道のりの中でそんな単語は一度だって出て来たことはねえ。出て来ない単語を知る術は当然ねえし、出て来たならば聞くしか知る方法はない。だからさっさと説明してくれればいいものの二人は目をパチパチさせて驚いてやがった。

「何か重要なことだったのか?」
「いや、でもまァ...いや、いい」

いいのか悪いのか結局分からない言葉を並べただけの阿呆サッチ。

「あー...デートってのは、二人っきりで買い物とか行くことのこと、かい?」

説明した風味だが結局語尾が疑問文になる尻拭いのマルコ。

「聞かれても困る。で、エースと俺に買い出しに行けと?」
「ニュアンスが違うよい!でも間違ってねェ気がするのが悔しいよい!」
「こりゃ苦労するなァ...」

とか何とか言ってマルコとサッチが頭を抱えた。
いや、理解に苦しんでるのは俺だし何だかんだでハッキリしない二人に俺だって苦労してるって言えると思うが。とにかく「分かりやすく詳しく説明してくれ」と頼めば二人は顔を見合わせて話を始めた。

「あのなァ...とりあえずエースと二人で町に買い物に行くわけだ」
「エースと二人で町へ買い出し」

「で、まァ...買い物の後は適当な店とか入って食事をする」
「小腹がすいたら飯屋で腹ごしらえ」

「で、アレだ。少し町の中を手とか繋いで散歩なんかして話をしてだな...」
「エースと手ェ組んで町を闊歩しながら合体技なんかを論議、で?」

「ちょっ、おま、ワザト言ってんのか!?」
「ニュアンスどころか色々解釈間違ってないかい!?」



と、まあそんなやり取りを経て本当によく分からないまま俺はエースと町の散策に来た。
因みに何の買い出しに出掛けたのかはまるで分かってねえし聞いてもねえ。多分、エースが知ってるだろうし金も預かってんだろうくらいの適当さで俺はいる。要は...エースがまともに買い出しも出来ねェと踏んでの布石ってやつなんだろう。でもこんなのでも一人で買い出しくらい出来ると思うんだが...そこはどうなんだろう。いや、でもエースだしなあ...

「なあエース、」

船を降りて歩き始めて数分経つか経たないか。
とりあえず俺が把握しねえともしかしたら手ぶらで帰るハメになるかもしれないと踏んでエースに声を掛けた。

「こっから何処に行くんだ?」
「町だ」
「いや、それは俺も把握してるんだが......何か紙とか預かってねえのか?」

買い出し用のメモとかあるんだったら俺にも見せとけと言ったが...何故かエースは持ってる風なんだが見せようとはしない。
俺に見られたくない品物も含まれているのか...まあ、無いとは限らないから無理に見ようとは思わないがきちんと話してもらわないと困る。マルコたちに頭下げられてるからな。結局俺がエースに付いてっても意味なかった、じゃ立場がねえ。

「お前...おれと買い出しに行けって言われたのか?」
「いいや。えっと...エースとラード?いや、何か違うな。エースと、」
「デート」
「それだソレ。で、買い出しに行けみたいな」

あと腹ごしらえと町内闊歩で会話な。今の状況が闊歩と会話で腹は減ってないから後は買い出しだけと俺は判断してる。

「お前...デート、したことねェのか?」
「ん?今してんだろ?」
「違う。その、おれ以外、とか、」

何どもってるんだ?買い出しくらい色んなヤツと行ってることくらいエースだって知ってるだろう?ただ、買い出しとそのデートとやらが違うニュアンスのものならエース以外ではないことにはなるが...

「マルコたちにも聞いたが、まずそのデートが何かを説明して欲しい」
「!?」
「.........あいつらと同じリアクションするなよ」

はあ、と溜め息を吐けばエースが立ち止まったから俺も立ち止まった。
マルコたちでもまともに答えられなかったデートの説明でもしてくれんのかと思えば、かなり真面目な顔して...小さく俺の名前を呼んだ。そこまで重要なことなら、と俺も真面目に聞こうと構えれば目を逸らされた。何だこいつ。

「あの、あの...な、」
「ああ」

.........珍しい光景かもしれない。エースがここまでどもるのは。

「前にも何度も言って来たんだが、その、今日はマジで、」

マジで、何だよ。本当に歯切れが悪い。それに...どうやら運も悪そうだ。


「オイ、火拳だ!火拳のエースだ!」
「隣のは何だ?新しい白ひげのクルーか?」
「何でも構わん。どっちも捕らえろ!」


.........最悪。捕まえるならエースだけにして欲しかった。
何処の島にも海軍基地が存在してるわけじゃないが、こうやって巡回してるってことは...此処には基地があるってことだ。それで隊長たちは町に降りなかったのか、と納得した。この島に着いて船を降りたのは俺らと他の買い出しをする新人ばかりでそれ以外は甲板にすら出なかった。

「くそっ、折角言おうとしてたのにっ」



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