ONE PIECE [LC] | ナノ




"風使い"の...セト。
たったそれだけの情報で彼らは動き出してくれた。
この広い世界、沢山の人が存在する世界で何処にでもいる名前...ただ普通じゃないのが悪魔の実の能力者だということ。それでもきっと見つけるのは容易じゃないと思う。広い狭いじゃない、あの人は能力通り...風みたいな人だから。



再び並べてめくり始めたカード。その中にはあの人の揺れ動く正の感情と負の感情が見える。
いつもなら無でありながら黒を連想させられるカードが出るのに少し変化が表れているということはどういうことなんだろう。そのカードの横にある水晶を眺めれば無数の星のようなものも見える。暗闇に浮かぶ幾多の星...これも今まで見たこともない。

と、その時、水晶にヌッと映り込んで来たのは赤い髪。でも、その横には...白い、髪?

「なーんか見えたか?」
「.........シャンクスさんが、見えました」
「そりゃそうだろ。今、目の前に居るからなァ」

違う。きっとそんな理由じゃない。
あの人の行く先にこの船も関わりがある...この船に私が乗り込んだことであの人に格段に近づいた、ということ。

「お嬢さん?」
「全ては...そういう運命だった、」
「は?」

シャボンディ諸島の方向に"風花"が向いたのはあの人がそこに居るわけじゃなく、この人に会うために向いてたんだと気付いた。
こんな綺麗な赤い髪を持つ人はいない。だけど対する白い髪の人物は...どれほど存在するだろうか。

「.........いいえ、何でもないです」
「そうか。まァいい。ウチの副船長が捜索部隊を選出したんでそいつらに説明してくれるか?」

"風使い"の...セトについて。
私の脳内にはあの日の姿しかないけど...きっと変わってないはず。

「身長は...シャンクスさんより10センチくらいは小さくて細身でした」
「他は?」
「黒っぽいような青っぽいような短髪で似た色の目」
「ふむふむ」
「服装にこだわりはなくて...ただどんなに暑くても肌を見せませんでした」

それには...勿論、理由がある。それは、言えない。
肌を見せないのは彼女だけじゃない。私だって同じ。同じ場所...幾重にも布を重ねても晒されているような感覚がしてまた覆う。一度は焼き払い、浮かばぬようにしたとしても...消えない。

「武器を所持している場合は弓」

とは言ってもコレもほとんど使ったりしないと思う。百発百中じゃないことが気に入らなかったみたいだから。
私も同じように習ったけど私に至っては的にすら当たらず戦闘員としての道はすぐに閉ざされた。その才はなくとも別の才があると言ってくれたのは...他でもない彼女。

「それから...基本的に人と関わりを持つタイプじゃない、です」

だから捜すのは難しいと思う。そう、口にした語尾がどんどん小さくなった。

捜して、捜して、捜して...
会いたいのに見つからないままどんどん時間が過ぎてしまった時、私はどう諦めたらいいんだろう。途中で死ねたら本望だけど会えないまま死んでいくのも生きてくのは...嫌。どうしても、是が非でも、私は会いたいのに。例え、あの人が会いたくないと言ったとしても。

「見つかるさ」
「.........」
「なァ、おれに出来なかったことはあるかァ?」

ない!!と、船員たちが叫んだかと思えばワーワー騒ぎ始めた。
とある島で自分たちの比ではない大きさの動物を食いてェというお頭の一言で仕留めた、とか、とある町で弱い者いじめをしてた海軍基地を面白おかしくぶっ潰した、とか......武勇伝だと思われる話がポンポン飛び交う。有言実行の海賊団、とでも言いたいんだと思う。だから...見つかる、と。

「.........よろしく、お願いします」

決して大きな声では言えなかったけど、少なくとも私の傍に居る人には聞こえるくらいの声を張って頭を下げた。
この願い...頼みはただの私の我儘でこの海賊団は何の関係もないもの。きっとこの頼みに意味はなく頭を下げても彼らには何の得もない。ただ気まぐれに彼が力を貸すと言ってくれたから......

「.........」
「まァ、おれらに任せとけって!」

誰かが私に触れた感触が、した。全身に悪寒が走る感覚も、した。



――パキン、と音がした。



「い、いやあああああぁぁぁぁ!」



「お嬢さん!?」
「さ、わらないでっ、わたしに、さわらないで!!」

触れた、手。大きな、手。振り払うことすら出来なかった、手。
記憶。膨大な闇。あの日の、私。捕まらなければ良かったのに、逃げ切れたら良かったのに、そしたら、繋がれなかったのに、

「おい!大丈夫か?おれが見えるかお嬢さん!」
「いやっ、もう、やだぁ!」
「落ち着けよお嬢さん!」

フラッシュバック。割れる脳。色んな思考が巡る。そんな中で感じた、ぬくもり。

「落ち着け!とりあえず落ち着け。ゆっくりでいい、深呼吸しろ」

荒い口調、でも優しい声がする。

「............セト?」
「あー...何か違ェけど、まァいい。とりあえず落ち着け」

背を優しく叩く、音。優しい、...セト、...セトがいる。
崩れてく私を抱き締めて背を撫でる。落ち着くまで何度も告げる。大丈夫だって、言って。

「大丈夫、大丈夫だ」

.........きっと同じだろうに、
それでも私の為に何度も肩を抱いてくれた。独りの夜が怖すぎて眠れなかった時も寄り添ってくれた。

何も残ってなかった。それでもただ居てくれたら安心出来た。


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