ONE PIECE [LC] | ナノ


理由を、他でも無いおれは知りたい



寝かせようとしたが結局彼女はおれのシャツを掴んだまま離そうとしなかった。
だからおれは彼女を抱き締めたまま、ソファーに腰掛けていた。そして、頭を抱えた。

これが初めて見る奴隷じゃねェ。
今までに何度も見たことはあった。だが、こんなに若い女性は初めてだった。
辛かっただろう。だが想像もつかない。生きているだけ良かった?果たして彼女はそう思い、生きているのだろうか、と。

「.........死に抵抗はありません。ただ、死ねない理由があるだけで」

そうか...あの時の言葉はこれがあった所為か。
そして、彼女を生かしているのは..."風使い"のセト。こいつもまた、同じなのか?
姉さんは少なくとも事情を知っているようだった。だから...彼女に、彼女たちに手を貸そうとしていたに違いない。

おれにはそういう経験はないが、おれが出会った誰一人として...そのことは話さなかった。いや、話そうとしても...すぐに崩れ落ちた。
それほどの恐怖と絶望――...きっと聞いたところで理解出来る日は来ない。同じ目に遭わない以上は。

「......ん、」

可哀想に。ただ可哀想だ。
付けられた傷は一生残るんだ。自分が望まなかったら尚更に深く、深く残ってしまう。忘れたくても忘れられない、恐ろしい記憶となって残されていくんだ。
もう遠い昔に止めることさえ出来なかった、おれの大事な人が笑って処刑された時と同じように...

「気付いたか?」

声を掛けた瞬間、彼女は慌てておれの膝の上から降りてキョロキョロっと周囲を見渡して頭を下げた。
スケベ心を出すならおれの膝の上でこのまま話しても良かったが...そういうわけにはいかないらしい。まァ、そうだろうが。

「あの、すみません、でした」

はたしてこれはどれに対しての謝罪だろうか。
取り乱したこと、気絶したこと、ここまでおれが連れて来たこと、おれに抱きついたままでいたこと...全てにおいて謝る必要はない、大したことはない。

「まァ...アレだ。気にすんな。ウチのも気安く触っちまったから」

とりあえずはこの件はこっちに置いてといて。

「今後は気安く触らせねェように指示を出した。心配いらねェぞ」
「.........すみません」

とは言ったものの...あいつら馴れ馴れしいとこあるからなァ。改めて釘は打っておかないと。接近禁止令と接触禁止令と...緘口令。そこに関しては今頃、ベンがうまく通達し直してるだろう。あいつも確かに...見たはずだから。

「けどなァ...」

このまま何も無かった事にはならねェ。
示しが付かない。おれもお前も。船ってのはそういうので、仲間ってのもそういうもんだ。おれは一向に気にしないタイプではあるが...他は違う。おれも頭やってる以上、そういうわけにはいかないんだ。

「それなりにワケを教えてくれねェか?」

少なくともおれだけが事情を知っているってだけで十分なんだ。
まァ...ベンにもおれから話す事にはなるが、奴の口の堅さは一級品だから心配は無い。勿論、おれもわざわざ言ったりしない。

「分かった!これはおれとお前の内緒話だ。誰にも言ったりしねェ、な?」

戸惑っているのが分かったが了承してくれた。但し、誰にも言わない事が条件。
誰にだって知られたくない事はある...が、その中でもお嬢さんの過去はもう思い出したくも無い事かもしれねェ。けど...あァなっちまった以上は、知る必要があるんだ。それが何となくでも...お嬢さんに伝わったんだと思った。


お嬢さんが口を開く。
それは...壮絶な物語の始まり。


――私は、私たち二人は奴隷、でした。


具体的には話しちゃくれねェが...想像は出来る。二人の幼子が受けた奴隷としての拷問、折檻、おそらく...そういうのもあっただろう。周囲の大人は誰も助けちゃくれねェ。いや、周囲もまた同じ仕打ちをされていたに違いなくて...助けも来ない。助かる事も無い。泣いても叫んでも...いや、そうすれば間違いなく殺される。だから、静かに全てが終わるのを待つだけの時間。

おれが同じくらいの頃はどうしてた?確か海賊に憧れて...船に乗った。
馬鹿みたいにドンちゃん騒ぎして、馬鹿みたいにバギーとやり合って。楽しい事もあった、辛い事は皆で乗り越えた。色んな感情が入り乱れる日々を過ごした。まァ...レイリーさんにオンナ盗られた時はどうしてやろうかと思ったのも懐かしい。

.........懐かしむ過去なんて、ないって事だよなァ。

"風花のセト"という存在以外は。
義兄妹みてェな関係というわけか。いや、年齢がよく分からねェから姉弟かもしれねェ。

「傍にあの人が居ないと息も出来ず私は死んでたと思うくらい、大事な人...」

いやいやちょっと待て。恋人じゃねェか!
そんな風に想われてて置いてく神経がおれには分からねェな。理由があったとしてもこんなに可愛いお嬢さんを置いて...って、おれは何を考えてるんだ!落ち着け。話を聞こう。



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