ONE PIECE [LC] | ナノ


Thank You.



「新しい年の始まりだァ!あ、ついでにエース、誕生日おめでとう」
「.........ついでかよ」
「まァ、ついでっちゃついでだ。好きなだけ食えよい」
「ケッ」

サッチの一言から始まった年の始めの宴会。グラスがぶつかり合う音。まばらに聞こえる「おめでとう」の声。
この船に乗って初めて祝われるようになった自分の誕生日は、何処かいつもより冷めた感覚、波も起きない感覚で傍観していた。ぶっちゃけ誕生日だとか興味ないし。ただケーキ食えたりイイもんが食えるからそこだけ有難く思うだけで後は何も感じることない。ただ年取るわけだし。

「それでもまだ未成年かァ、羨ましいぜ」
「オッサンだもんなサッチは」

てか、サッチに限らず此処のクルーでおれより若いのって少ねェからほぼオッサンなんだけどな。
誕生日...誕生日、かァ。年取るだけって言っても向こうでオヤジに挨拶してるセトに近付くって意味では悪くはねェかもしれない。同じ十代かと思えばしれっとあいつ二十歳越えてて(まァ納得は出来たけど)、何か距離とか感じないわけじゃなかったし。
大人びたあいつに一歩近づいた。それを祝う日とか思うようにしようか。

「年始めに生まれたんだなエース」
「セト」

オヤジへの挨拶が済んだのか、気付けば真っ直ぐ歩いて来たセト。

「おめでとう未成年。知らなかったから何も用意してねえぞ」
「.........ちぇっ」

グラスを手にアメとムチ。いや、少しだけ笑ったからアメの方が多いか。差し出されたグラスを合わせれは小さな音がした。

少しずつ、少しずつ表情を見せるセトにホッとする反面、正直焦り始めてる。
黙って立ってるだけなら華のあるディナたちと比べりゃセトは落ちる。いや、ディナたちに対抗してくれりゃ断然上を行くかもしれねェけど...まァ、そこは置いといて。相変わらず口は悪ィけど態度も冷たいけど...面倒見のいいセトは下っ端連中から慕われてる。
一人で生きて来て、子供たちと共に生きて来た所為なのか、頼り甲斐はあるわ判断力はあるわ隊長たちにも意見するわで連中からすればキラキラした存在に見えるんだろう。男とか女とかでなく惹かれる、それが連中の中でいつ、どう変わるかとか考えたら...焦るんだ。

おれが最初なんだ。おれが最初に惹かれたヤツなんだ。おれ以外、触れる権利はやれねェ。

「折角の誕生日だ。何か取って来てやろうか?」
「.........いらね。子供じゃあるめェし」
「だよな」

フッと笑って遠くに目をやってる。その視線の先にはオヤジの膝で遊ぶ二人の子供。
優しい母親ってのは...ほんとにこんなもんなんだろうなァって見てて思う。おれの母親はすぐに死んでおれには分からねェけど、こんな人であったなら...おれはこうはなってなかったかもしれねェ。いや、もしかしたら余計荒れてたかもしれねェ、な。おれは、おれの血を今も恨んでるから。

「.........エース?」
「そういやセトの誕生日は?」
「は?」
「お前、何月生まれだ?」
「.........さあ」

少しだけ心配そうな色で見たセトに話題を振れば、今度はその色がセトに移った。
伏せ目がちにぼんやりと考えて口にしたのは「知らない」という言葉。

「俺は政府データ上"死亡"。すでにデータは抹消済。ほんとに覚えてねえから分かんねえ」

そう、だった。セトは故郷が無い。あの場は全滅、知る人もいない。
「確か...暖かい時だったような、いや、半袖だった気も...」とセトが首を傾げる。ヤバイ、余計なこと聞いちまった。
おれは...残ってる。残ってるし、ジジイが立ち合った話も聞いた、だから知ってる。でも、セトは――...

「.........っつ、」
「一応言っとくが、年はサバ読んでねえから」

ぴしっとデコピンされて顔を上げればセトは...笑ってた。
ヤバイ、いや、ヤバくはないんだけど、何か、ヤバイ。無意識に笑ってんのかもしれねェけど、ヤバイ、抱き締めたいん、だが。

「んなこと、思ってねェよ!」

落ち付け落ち着け。年明け早々、しかも自分の誕生日に強烈な踵落としは喰らいたくねェ。
とりあえず心の中で深呼吸して自己暗示がてら落ち着け落ち着けと念じていれば、またセトは子供たちを見てた。

「あいつらも同じだから...拾った日にカウントするようにした」
「拾った日?」
「12月13日。本当は思い出させたくない日なんだが...でも始まりの日だ」

生きてく糧を見つけた日、それが始まりの日。

「一応、シェフに頼んでケーキ焼いてもらったが...皆には言うの忘れてたな」

.........始まりの日。だったら、

「じゃあセトの誕生日は決まってねェんだ」
「言葉に語弊があるな。生まれた日が不明なだけで誕生日はあったと思う」
「よし、じゃお前も今日が誕生日だな!」

今日も、始まりの日だ。

「.........は?」
「だって、考えてねェんだろ?だったら今日にしようぜ」
「しよう、とかそういう問題なのか?」
「新しい年の始め...それこそ始まりの日だ。悪くねェじゃん」

自分の誕生日なんざどうでもいい。でも、同じ誕生日ならどうでも良くなくなる。
絶対忘れないし、おれも初めて...良かったと思えるかもしれねェ。本心で「有難う」と言えるかもしれねェ。

「おめでとうセト!」
「.........強引にも程があるが、まあ、有難う」
「おれ、お前らに会えて良かったぞ!」



「.........バーカ」



「おれも、会えて良かった。感謝するエース」
「.........へ?」
「あー...間違えた。エースの親にだった。お前が生まれて来なかったらおれらはあのままだったからな」



おれがいなかったら、



「ぐうっ、ちょっ、エースっ、」
「好きだ」
「く、るしいぞっ」



そうか。おれは、そのために生まれて来たのかもしれねェ。



「.........さんきゅ」







Birth - 始まりの日 -



「よし!これで年の差は三つだな!」
「.........(よ、ようやく解放された)今日が誕生日ならまた一つ離れることになるが?」
「!?前回はいつカウントしたんだ!?」
「さあ。何となくのカウントだからな...多分、春だ」
「そっちノーカンにしろよセト!」
「ノーカンにしたらサバ読むことになるから断る」
「んなとこ真面目に考えなくていいじゃん!」
「勝手に誕生日決めたヤツに言われたくねえぞ」




12月13日は双子の日。11月25日はいい双子の日らしいんですが正式じゃないとか。


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