ONE PIECE [SHORT] | ナノ

静まれ心臓

何かが変わった。取り巻く環境とか。
何気なく、何気なく過ごす一日の中にふわりとマルコ隊長が存在していることに気付いた。本当にふわり、気付いたら何気なく傍に居て、何気ない会話をしているような気がする。

今までは目で追ってた。見つけたら自然と目が行く存在だった。色んな意味で目立つし。こっちに気付いたら...穏やかな表情を見せてくれた。そんな優しいような切ないような時間を過ごしていた。

今は、ちょっと違う。

洗濯物を干していたら傍に来て...手伝ってくれるのかと思ったら「隊長に雑用させんなよい」と笑って、そのまま傍に居た。ありふれた日常会話をした。

食糧庫に材料を取りに行った日も気付いたら傍に居て...秘密のお菓子を貰った。どうもサッチ隊長がしれっと隠してたやつらしい。「共犯だからねい」と笑ってた。

室内清掃でシーツを集めていた時は隊長とぶつかった。私が前が見えない状態で歩いててぽすんとぶつかった。「おいおい、ちゃんと前見て歩かねェと怪我するよい」と、やっぱり笑っていた。

今までは捜していた。今は捜していない。
気付けばふわりと傍に居るから...ちょっとずつ、ちょっとずつ、動揺し始めてる自分が居る。


「ベレッタ?」
「は、はい!」

ゆらゆら揺れる水面を眺めながらぼんやりしていると大好きな人の声がした。
やっぱりふわりと隊長が傍に居て、私の心臓が徐々にどきどきの速度を上げている。たまたま、ではないんじゃないか?と気付いた日からどんどん自分だけが意識していく。

「体調悪いのかい?」

どきどき、どきどき。この音は人には決して聞こえない。
それでも必死で静めたい気持ちがある。だって、隊長はいつも通りで私だけが意識してるみたいだから。

「いや、そういうわけじゃないです!大丈夫です!」
「......それならいいよい」

彼は穏やかに笑う。それだけでまた速度が上がった。

「そうだ。ちょっと手ェ貸してくれるかい?」
「手?」
「部屋の荷物を移動させたいと思ったんだがエースに逃げられてねい」

隊長は、仕事を采配するのもの。
これが初めてじゃないけど、何かどきどきした。大丈夫なのか私の心臓、と心配になるくらい。

「あ、その...私でお役に立てるなら!」
「そんなに重いもんじゃねェから」

また笑って、隊長が頭を撫でてくれた。
その瞬間、ドンッと心臓に衝撃が走ったような気がした。まるで雷に打たれたみたいに...いや、今まで一度も打たれた事は無いけど。

自分が勝手に意識してるんだった事に気付いてる。
隊長も、私が嫌いじゃないから傍に居るんだって思ってる。
そうしたら心臓がばっくばくに跳ねて...どきどきしてるって気付く。
でもこれはきっと、私だけ。彼は、大人なのだ。

「ずっと借りっぱなしだった本がいよいよ反乱を起こしてねい」
「反乱...ですか?」
「そう。読んだら床に置いて上に重ねてたんだが全部崩れちまった」
「変なとこで無精するからですよ」

出来れば...同じくらい大人になりたいと思うようになった。
ゆっくりでいいって言ってもらったけど、何だか早く大人になりたいと思うようになった。

「じゃあ反乱軍を鎮圧して捕虜にすればいいんですね」
「ぷっ...そうだねい。捕虜にして牢屋に入れる」
「了解です」

でも、ゆっくりでいいっていうのは今のままでいいって事。
急いで釣り合う人になりたいと願う自分とそのままを望む隊長と、その矛盾が何とも言えない。

考えても仕方ない。
今は隊長の手助けをしないと!と意気込めば何故か苦笑された。考えているより反乱は起きてないって事だろうか。隊長に招かれるがまま彼の部屋へ...あ、よく考えたら初めて入るかもしれない。隊長はシーツ交換の日はきちんとドア前に出してくれるから入る必要がない。

なんか不思議な気持ちで一歩、恐縮しながら進んだ。

「失礼します...」

.........私の部屋なんか比較にならない程広かった。
当然と言えば当然。隊長だもの。一介の雑魚海賊で雑用なんかと一緒に出来ないのは分かるけど...二倍?三倍?はある。すっごい本棚にすっごい本の量。でも神経質なのかな、すっごく綺麗に並んでる...

「?」

うん。すっごい綺麗に並んでる。しかも本棚に余力あるし、まだまだ買っても問題無さそう。まあ、心配なのは床、くらい...って、きちんと清掃されてる。私の部屋とは大違い...

「......あの、」
「どうしたんだい?」
「反乱、起きてないですよ?」

足の踏み場もないくらい本が転がっているもんだと思ってた。
あまりにも掛け離れた光景に驚いて確認したら隊長はまた吹き出して笑った。

「まァ...今朝鎮圧したからねい」

意味が分からなくて、ん?となっている私の前には隊長がいる。
その隊長が手を伸ばしたなーと思ったらまた頭をくしゃくしゃっと撫でて、そのまま私の頭を自分の方へと寄せて来た。当たり前だけど体がそっちに行く。当たり前だけど...隊長により近くなった。

「.........っ」

また、ドンッと心臓に衝撃が走った。
どきどきとかばっくばくとか...そんなんじゃない。ドドドドドッて心臓が異様な心拍を奏でてる。

「最近...何か悩んでるんじゃねェかい?」
「......え?」
「ぼんやりする回数と俯く回数、」
「は、はい?」

か、回数?

「それから目を逸らす回数、増えてるよい」
「そっ...そんな、事はっ」
「明らかに動揺してる。別に怒りゃしねェし誰にも言わねェし茶化したりもしねェから」

話してみろ、と隊長は静かに言った。
隊長の声がきちんと耳に入っているのにドドドド音も相変わらず耳に響く。何処まで速くなるのかというくらいに。隊長にも聞こえそうなくらいに。

「あの...ですね...」
「あァ」

どうしよう。心臓がうるさくて自分の声が大きいのか小さいのかも分からない。
伝わっているのか伝わっていないのか、優しく頭を撫でてくれるけど今は正直全てが逆効果です。余計に胸が苦しくなるし恥ずかしいし何かもう色々ごちゃごちゃしてるし...

......そう、あなたの所為です、なんて、言えない。

title by 悪魔とワルツを

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