ONE PIECE [SHORT] | ナノ

心地よい無言

ごく稀に数日間の休暇が手に入ることがある。
当然、その期間は海軍本部へと戻ることとなり自由行動が出来る。誰にも邪魔されない時間...怪我の治療をする者もいれば愛する人の元へ駆ける者もいる。とにかく遊び回る者もいるが制限はない。

「あれ?スモーカーさん?」

中には...することないからと雑務をこなす者もいる。

「髪切ったんだな」
「あ、はい」

おれや......彼女みたいに。

「お休みになられた方が良くないですか?」
「あ?」
「昨日も仕事されてましたよね?見掛けました」

そういうお前はデータ整理をしていたな。
新世界での天候を別紙にまとめつつ、検挙した海賊団の照合と引き渡しに関する報告書を自分の航海日誌を見ながら片付けていたの見掛けた。声を掛けようか迷ったが、真剣に取り組む様を見せつけれ、黙ってその場を去ったのが昨日のことだ。

「始末書を書いてただけだ」
「あ...そういえば立ち入り禁止区域に無断で出入りしましたね」
「その件と部下の尻拭いだ」

本部を出て海へ出れば、おれたちは無法者と変わらぬやり方で正義を貫けるが、こうして戻れば突き付けられるのは犬としての雑務ばかり。だが、これをしなければ...自分の正義は貫けねェ。クソみてェな組織だ。

「海賊への不当な拷問行為に関しての始末書は私が片付けましょう」
「.........悪いが頼んだ」
「では、別室で...」
「此処で構わねェ。そっちのデスクを使え」
「了解」

正義を身に纏う間は彼女は上官に逆らうことはない。
揺れる、正義の文字。今、その己の内にある正義はきちんと全う出来ているのだろうか。

「G-5も悪くはねェだろ?」
「.........どうでしょう。やることはあまり変わりはありませんよ」
「だが肩の荷は降りた。違うか?」
「確かに。あとは...同性の仲間がいるのは嬉しいものです」

ペンを走らせる音が響く。おれの手は最初から止まっていて、今音を立てているのは彼女だけ。
立ち入り禁止区域への無断入船に関しての始末書なんざ書き慣れてたもんで今まで通りに書いてすでにサインまで終わっていた。だからわざわざ彼女に始末書を書かせなくても良かったが...と、彼女を眺める。

短くなった髪、初めて会った頃もそれくらいだったか。
一時期はヒナくらいまで伸びたというのにあっさりと切り捨てたのは戦闘時に邪魔になるからだと言っていたな。長い髪は敵に利用されやすい。敵前で切り捨てたこともあったのを思い出す。散らばった髪がまるで羽根のように舞うのを唖然と見たあの日。

「その髪型、似合ってる」
「え?あー...有難う御座います」
「お世辞じゃねェぞ」
「あ...私の心の声、バレました?」

彼女の正義は、正義に不要なものを一切排除することで貫かれる。
服装も髪型も...ある程度の地位まで上がれば自由だというのに、今もあの頃のままだ。

「心の声が分かるなら苦労はしない」

だから、おれの持つ邪な感情すら排除されている気がしてならない。

「ベレッタ」

彼女の傍に近付くのは容易い。だが、彼女の心に入り込むのは難しいと知る。
これだけ近くなったというのに幾度となく交わされている。いや、近くなったらなったでおれが臆病になっているのかもしれねェ。

「わっ、び、びっくりさせないで下さい」
「.........」
「スモーカーさん?」
「お前の心が分かるなら本当に苦労はしねェな」

初めて彼女の頬に触れてみた。今までに一度だって触れたことはない。初めて、触れた。
それに驚いた所為か、いつもの冷たい視線ではなく随分と間抜けな視線でおれを見ている。が、この表情に見覚えがある。

「お前を愛してると言ったら笑うか?」
「.........ら、らしくは、ないかと、」
「あァそうだな。だが、そろそろ実力行使せざるを得ないが構わねェか?」

この一言で一気に顔色が熟れたトマトのようになっていく。

「お前はおれをどう思う?」

好きとか嫌いで言うんなら嫌われちゃねェとは思ってる。
おれらは同期の仲間であり、今は上司と部下だ。そういった意味合いでも嫌われてたならあの日の誘いは断られていたはず。だがこうして同じ配属先に居る、今はここまで傍に居る、嫌いだったらまずないだろう。次はその感情の分類だ。仲間としてなのか、男としてなのか...

「おれはなァ、昔からお前を抱きたいと思ってる」
「だ、抱きっ、」
「あァ、もっと分かり易く言うならセッ、」
「言わなくていいです!そこまで言わなくていいです!」
「お前は?おれに抱かれてもいいと思うことはあるか?」
「そ、れ、は...」

.........まァ、普通に考えたら、んなこと考えたこともねェ、か。

「言い方を変えよう。おれに抱かれてェか否か」
「いや、あの、」
「是か否かだ。別に今すぐ喰ったりしねェよ」
「あの、今は、ちょっと、考えが、その、」
「歯切れ悪ィな、オイ」

どんどん顔が赤くなってく様を見るのは悪くねェが、返事が相変わらずハッキリしねェのは好きじゃない。
詰め寄って言葉を待つ。これじゃまるで尋問だ。分かっててこうでもしねェと言葉は返って来ないことを知ってる。

「あの、あのですね」
「.........あァ」
「あの、私、その、昔、より、」

これが時の覇者でG-5に所属する少将だと誰が信じるだろうか。
同期の連中はどう見るだろうか。これがおれらを滅多打ちにし、どん底まで叩き落として頂点に立った奴と思えるだろうか。

「ドキドキ、する、ことが、増え、ました」
「それは誰に対してだ?」
「.........す、スモーカー、さん、に、」

その鼓動がどんな感情によって動かされているかなんて、おれには関係ない。

「.........その言葉が返事だとすれば、おれは勝手な解釈をするが構わねェか?」
「.........構いません」





心地よい無言



しばらくどちらも言葉を発することが出来なかった。
だが、それもほんの数秒。タイミングの悪いたしぎが走り込んで来やがった所為で近くなったはずの距離が遠のいた。

... title by 超絶頭突き式新企画

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