ONE PIECE [SHORT] | ナノ

3つのうち1つ

「ほう、珍しいもん持っておるのう」
「のわ!か、カク職長!?」
「お前さん甘いの嫌いじゃなかったか?」

ど、どっから出て来たんだろうこの人...気配なく人の背後に立たないで下さいよ。

いつもの時間、いつも通りにガレーラに出社したら何故か私宛の荷物が会社に届いてた。よくよく宛名を見ればおっちょこちょいな妹が住所を間違えてこっちに送ったらしく、それを開けながら事務所へと向かう途中、この人は出て来た。荷物の中身は何故か可愛らしくラッピングされたチョコが3個入ってて、それを見た職長は不思議に思ったらしい。私は甘いものが好きじゃないと公言してたから。
個人的にチョコとか好きじゃない私からすれば妹からの悪質な嫌がらせかとも思ったけど...おそらくそういうんじゃない。「見て見て頑張ってるでしょ?」と言いたいんだと思う。馬鹿みたいに海賊になったと知った時は殴ってやろうかと思ってたけど今はこうして普通...かどうかは分からないけどレストランで働く妹は、「私、改心したんだよ」と言いたいんだろう。

「得意ではないですけど...妹から届いたんです」
「ほう、妹がいたんじゃのう」
「はい。年の離れた妹なんですが...馬鹿みたいに海賊になって、壊滅させられて、捕虜になって...今はウエイトレスしてます」
「な、何かよく分からんが、生きておるなら良かったのう」

まあ...「そうですね」としか言いようがない。あのまま海賊として何処かで息絶えてしまうよりは良かったとは思うけど、もし、そんなので死んでたとしたら次に会った時には毎日毎日説教してやってとこだ。

事務所に用があるのか、工場は反対方向なのに職長は私の横で並んで歩いてる。
決して重くはない荷物だけど両手がソレで塞がれてるから歩調もゆっくりになってるのに、それに合わせて歩かれたら...何だか変なカンジがする。無意識かもしれないけど歩調合わせられると、なあ。それなりに勘違いしそうにはなるけどそれこそ勘違いだと自分で否定しとく。
チラッと横目で彼を見たけど何故か私の荷物を眺めて何か考え事でもしてるみたい。荷物...荷物の中に怪しいものはないはず、と私も中身に注目してみると...手紙が埋もれていた。

"お姉ちゃんへ"と書かれた封筒。昔みたいに馬鹿なマークは描かれてない。
どうにかそれを取ろうと片手で箱を抱きかかえて手を伸ばしていたら、職長が荷物を軽く取り上げて中から手紙を渡してくれた。

「あ、有難う御座います」
「落としたり盗ったりせんから安心していいぞ」
「そこは心配してませんよ」

手紙を開く、中には"お姉ちゃんへ"から始まる文章。
初めて自分で考えた企画が通ったこと、そのお陰で女性が来てくれるようになったこと、凄いデザートをイメージ画だけで作って貰えたこと、この荷物の中身がその企画のプレゼント用チョコだということ、名前が"天使のキッス"ってどうよと思ってること......が書かれているわけだけど、肝心の"何の企画"なのかは書かれてなくて、バレンタインという文字を書き忘れてる妹に相変わらずだと溜め息が出た。

「どうやらしっかり者のお前さんとは少し違うみたいじゃな。肝心のバレンタインの文字が欠けておる」
「ちょっ、勝手に覗かないで下さい!」
「身長差が悪かったのう、足元見て歩いてたら嫌でも見えてしまうじゃろ」
「前を見て歩いて下さい!」

落ち着いて後で読もう、と封筒に手紙を仕舞ってポンッと荷物の中にそれを投げ込んだ。まだ少し内容があったけど...あの子のことだから書いてあることは大体分かる。キツくても充実してるから心配いらないよ、とあるんだろう。

職長から荷物を返してもらうべく「有難う御座いました」と手を出せば、荷物を返してくれた......フリだけ!?
一瞬、荷物が触れたけど手の中に置かれず、職長が少し高い位置で抱えて歩いていく。

「カク職長!」
「ワシも事務所に用があるからそこまでじゃ」
「そこまで重くないんで自分で、」
「確かに重くない。だから心配いらん」

.........優しいなあ。
ガレーラの職人さんたちは基本的に優しいけど物腰柔らかで優しいのはカク職長くらいだ。パウリー職長は私を見る度に「ハレンチ」って言うし怖いし、ルッチ職長はハトがしゃべるし怖いし、ルル職長は寝癖あるし怖いし。あ、アイスバーグさんは怖くはないけど傍に居るカリファーさんが...美人なのにちょっとだけ怖いんだよね。高速足蹴り見た日からちょっと怯える。

「ベレッタ」
「はい?」

呼ばれたから返事をして彼を見れば何か言おうとしてる、みたいだけど。

「何でしょう、カク職長」
「......いや、やっぱ止めとくわい」

止められた。何となくそう来るような気はしたけどやっぱりそうだ。
こういうのってやられると逆に気になるし気になるし、眠れなくなるわけじゃないけど気になるし、ストレスだ。

「言い掛けはストレスの元になりますよ?」
「まァ...そうじゃのう」
「と、いうよりも私がストレスです」

そうきっぱり言えば職長は苦笑いして「なら言うかのう...」と呟く。
事務所までの距離はあと少しになってるけど職長が立ち止まったから私も一緒に立ち止まった。苦笑いして何を言うつもりなのか、内心ドキドキしないでもない。いかん、そういうのもまた勘違いだと否定しないと。多分...早くもメイクが崩れてるとか寝癖が付いてるとか、だ。もし、そんなんだったらすぐに化粧室に走り込まないといけない。

「ワシ、甘いの好きなんじゃ」
「.........はい?」
「ケーキとかチョコとか好きなんじゃけど、」
「.........ああ、最近は男性の方が好きな方多いですよね」
「お前さんは甘いの苦手じゃろ?」
「そうですね。得意ではありません」
「で、物は相談なんじゃが、」

職長、歯切れ悪すぎです。でも、私がおかしなことになってないみたいで安心した。

「これ、1つ欲しいんじゃが、ダメかのう」

荷物の中身、妹がくれたチョコのことらしい。なんだ、そんなことか。
いいか悪いかで言えば3つあるし別にいいけど、何故かサラッと「1つくれ」と言えなかった職長に首を傾げる。

「いいですよ。3つありますから」
「.........いいんじゃな?本当に問題ないんじゃな?」
「問題って...職長が欲しいんですよね?」

と言えば「どストレートに聞きおってからに...」と頭を掻く。
どストレートも何も、職長は甘いのが好き、私は好きではない。妹から届いたのは絶対甘いだろうチョコで何故か3つもある。物は相談、で職長はこれを1つ欲しいと言った。その相談に応じた結果、1つあげてもいいと私は回答した。これが一連の話の流れで問題点など無かったと思うんですけど何がいけなかったんだろう。

「.........そうじゃ、ワシが欲しいんじゃ」
「ですよね?だったらあげますよ」
「じゃから!それで問題ないか聞いておるんじゃ!」
「ですから!それの何が問題なんですか!」


「お前さんはワシのことが大好きで間違いないんじゃな!?」


「............はい?」
「手紙の最後にあったじゃろ"お姉ちゃんの大好きな人に渡してね"と」
「嘘!最後!?」

ちょっ、荷物、手紙、と確認したかったけど荷物は職長が持ってるし手紙はその中だし...
その内容がもし本当にあったとして...私が読むよりも先に職長の方が読んでしまっていたってこと、だよね。本気でガッツリ覗き見してたってことじゃないですか!うわ、もう、何か混乱してる。何書いてるんだあの子は!

「.........最後まで読んでおらんのか?」
「さ、最後まで勝手に読んだんです、ね?」
「すまん...読んでしもうたわい」


.........何だろう、この空気。


無言で荷物から手紙を出した職長はスッとそれを私に渡す。再度開けて中を見ると...確かに最後の最後に"追伸"の文字がある。その先には..."このチョコは1つはお姉ちゃんに。後はお世話になっている社長さんと、お姉ちゃんの大好きな人に渡してね"と。つまり1つは私、もう1つはアイスバーグさん、あと1つは..."お姉ちゃんの大好きな人"。
大好きな、人、とか、幅広い意味で考えるなら色々あるし、そりゃ、職長は、好き、だけども。

「改めて聞くが...1つ欲しいんじゃが、ダメかのう」

.........大好き、に、入って来るん、だけども。

「職長が、欲しいんです、か?」
「そうじゃ、ワシが欲しいんじゃ」
「.........問題は、」
「ない。"お姉ちゃんの大好きな人に渡してね"のやつが欲しいんじゃ。ワシはそれもこれも他のヤツに取られとうない」

.........大好き、なん、だけども。

馬鹿みたいに海賊になって、壊滅させられて、捕虜になって、何処ぞでウエイトレスなんかしてる馬鹿妹!ど、どうしてくれるんだ!
何かもう此処職場だし、毎日顔合わせるし、色んな人居るし、出来れば...言わずにいようとか思ってたのに!それに、言う日がもし来るとしたら制服とか職場の廊下とかそんなんじゃなくて、もう少し可愛くして別の場所とかで言おうとか考えてたのに!

脳内壊滅状態で言える言葉も見つかんなくて、

「.........3つ、あります、から」

としか、言えなくて、

「.........問題、ないんじゃな?」

頷くしか出来なかった。


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