ONE PIECE [SHORT] | ナノ

ストン、と落ちる

「ようこそ、おれの部屋へ」

と、言われましても見える景色は今アナタが閉めたドアかアナタの背中・腰・お尻・足元だけで、しかも未だに逆さま風景です。

「よく考えたらお前来たことなかったよなァ」

用件がなければ個人様のお部屋に入ることはありません。それは誰だって同じでしょうに。
てか、そろそろ天地を戻してくれないと頭に血がのぼるから。

「大丈夫かい?」
「.........心配してくれる、なら、降ろして」

米俵のように担がれたのはいいけど(いや、よくはないけど)、まさかの両手共に自分の体の真下に入り込むなんて最悪ですよ。
お陰で上手に抵抗も出来なければ下手に動かして腕の肉が引き摺られるような挟まれるような...とにかく痛いし。

「逃げねェなら降ろすよい」
「.........一応、約束する」
「不確かだねい」

そりゃそうですよ。こんな展開になるとは思ってもいなかったから。
さっきの話が本気の本気で、本気でマルコに襲われたら私だって全力で回避するに決まってる。だって意味分からないもの、急に子供産んでくれって何。子供が欲しければマルコの子供を産みたい人にジャンジャン産んでもらえばいいことでしょうに。

「.........私が死んでもいいわけ?」
「そりゃ困るよい」

と、ようやくマルコの腕がゆっくりと私を解放して地に足が付いた。
若干の目眩が起きているけど...多分すぐに治ってくれる。そしたら全力で回避出来る。多分、不確かだけど。

「さて、心の準備は出来たかいベレッタ」
「.........出来るわけないでしょ」

馬鹿なの死ぬの?マルコのために犠牲になれと?私はまだそういうのを考えたことないわ。

「そうかい。でもまァ、今日の数発で出来るわけじゃねェ。これから毎日続けば出来るよい」
「そうじゃない!」
「大丈夫、おれもお前もタフだから死にゃしないよい」
「だからそうじゃないってば!」
「さすがに睡眠時間を大幅に削ることは出来ねェけど、何だったら昼間でも合間に――...」
「お、落ち着いてマルコ!!」

何さらりと行為について語り始めてるのよ!馬鹿なの?本当に馬鹿なの?
少なくとも参謀きどりで頭が冴えてて物事を冷静に見れるアンタが何わけわかんないことツラツラ語り出してるわけ?そんなに子供子供ってなってるのなら、マルコの子供を産みたいっていうナースを探して毎日毎日日替わりと言わず時間割で事を成していけばいいじゃない。数打ちゃ当たる理論なら十中八九、そっちの方が効率が......って私も何考えてるんだ。

「ちょっと落ち着こう...」
「おれは落ち着いてるがねい」
「分かった。とりあえずそこの椅子に座って」

たまたまテーブルと椅子があって椅子はテーブルを対面に二脚。そこへ促せば普通にマルコは腰掛けたから安堵して対面に腰掛けた。
平然としてるマルコとは裏腹にどうしようかと未だ錯乱気味の私だけど色々と危機が迫っている...気がする。

「えっと、多少質問していい?」
「子供は男女一人ずつが好ましい。最低でも間隔は3年」
「そんなこと聞いてない!本当に馬鹿になっちゃったの?今は質問だけに答えて」

マルコの希望とか聞きたくて質問してるわけじゃない。

「さっき、私と家庭を作りたいって話をしたけど...それって何で?」
「おれらを足して割る2した子供は可愛いと思うから」

違う。それはさっき聞いた。そうじゃない。

「じゃあ何で私と足して割る2したの?」
「はァ?普通に可愛い子になると思ったからだよい」

違う。そうじゃないそうじゃないんだよマルコくん。

「.........えっと、」
「おれからも質問」
「え?」
「何でおれの子供産みたくないだい?」

えええ...じゃあ私はいつマルコの子供産みたいって言ったんですか。

「何でって...普通、好きでもない人の子供を急に産みたいって考えると思う?」
「え、何、お前おれが嫌いなのかい?」
「嫌いじゃないけど、そういう恋愛感情が発生したことはない。マルコもそういう感情ないでしょ?」

この船に乗った時からマルコはすでに一番隊に居た。
始めこそ噂の不死鳥マルコに怯えていたけど、思ったり気さくだったから話せるようになった。
後はずーっと仲間として仲良くしてもらったし、自分からも歩み寄るようにしていたつもり。そこにはそういう感情はなかった。

「おれはそういう感情でしかお前を見たことがない」
「え?そうなの?」
「お前が10代でこの船に乗った時からそうだ」
「.........それって私以外にもあった感情じゃないの?」
「無い」
「それって...本当に恋愛感情?」

家族として仲間としてっていうのは家族愛ではあるけど恋愛ではないよ。

「傍観して欲情はしても寝込みを襲わないように努力はしてたよい。まァ...寝顔にキスくらいはしたことはある」
「!?」

な、なんだと!?それってどういう......

「大丈夫。顔には触れたが体には触れてないよい」
「そういう問題じゃないよ!はあ?いつそんな...」
「宴会の時、酔ったお前を部屋まで連れてくのはおれじゃなかったか?」
「.........あ、」

そうです。そうでした。いつもマルコが何だかんだで運んでくれてました。
今日みたいに米俵抱えるみたいじゃなく肩をお借りしてました。その節はどうも...と言いたいけど、何、運んだ後にそんなことしてたっていうの?

「我慢強い方ではあるが、さすがにああいう時はヤッちまうよなァ」
「その言い方!誤解を招く!あああもう禁酒する!!」
「別に勝手にイッたりイカせたりしたわけじゃねェから禁酒しなくても」
「その言い方もやめて!そんなことしてたら何もかも磨り潰して繁殖機能切断してるよ!!」

って、乙女に何言わせてんだ!!
ぎゃんぎゃん騒ぐなとマルコは冷静に言うけど私的には叫ばないとやっていけない。もう色々と危ないことになってたとは...信じられない!

「.........なるほどねい」
「.........何が」
「どうやら話し合いが必要だったようだねい」
「!?最初から私はそう言ってるじゃない!!」

本当に馬鹿なの?この人...本当にパパの右腕なの?

「落ち着けよい」
「はあ?落ち着きたいわよ!」

今件の最初から今まで、私の血圧を上げてるのはマルコしかいない。
エースでもサッチでもなくマルコです。アナタが意味不明なことさえ言わなければ...私は落ち着いてました!

「まァ...改めて言うが、おれはベレッタが好きだ。ヤマシイ感情を持って」
「や、ヤマシイ言うな!」
「けどお前は...現状おれをや...いや、邪な目で見てない」
「言い方変えても同じだよ!見てないよ、そんな目で」
「だったらお前の気持ちをおれの方に引っ張るしかないよい」

対面したテーブルの向こう側でマルコは笑った。背筋がゾワッとするほどには余裕の笑みだ...けど何か腹黒い。

「そういうのは得意じゃねェけど、まァ...お前はおれのものになるよいベレッタ」

スッと伸ばして来た手が私の頬を撫でてまた戻っていくのを私は息を飲んでみてしまった。
自意識過剰!変態ナルシスト!と叫んでやりたかったのに唇がわなわな震えるだけで何も言えないのは...この微笑みの所為。

「攫うしかねェなら攫うよい」

微笑みの中にあるマルコの本気を目の当たりにして...私は心底恐怖に怯えた。
この人は...本気で私を攫うつもりだ。そのために手段を選ばないと言われたら......私はどうやって逃げればいいのか、そんなことを考えていた。


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