ONE PIECE [SHORT] | ナノ

トランキライザー

各地から採取した薬草を手に不足する薬を調合する作業を黙々とする。
部屋の前には"調合中、立ち入り禁止"の紙を張り付けているにも関わらず...聞こえて来る足音に何となく嫌な予感はしてた。

「ベレッタ!新しい島に着いた!今すぐ降りるぞ!!」
「.........張り紙なんて本当に意味ないのね」

ベックマンの言う通りだ。
張り付けてる時に「おれらはともかく、お頭は絶対気付かないぜ」と笑われて無駄だと言い切った彼が正解だった。私的には「気付きはするだろう」と思っていたんだけど...目の前で「張り紙って何だ?」と天真爛漫に言って退けた船長に心底呆れた。

「ベレッタ、新しい島だぞ!今すぐ降りよう!!」
「私は遠慮するわ。調合で忙しいの」
「そうか......でも行こう!絶対面白いモンがあるぞ!」
「.........言葉も通じないのね」

私、船医としてかなりのリスクを負ってこの船に乗り込んだはず。探索要員でも戦闘要員でもないわよね?
新しい島に着けば時間帯を問わず扉を蹴破りそうな勢いでやって来て、冒険だの探索だの宝探しだの...勧誘に来られても結構困る。基本、引きこもりだから体力ないのよって言っても全く聞いてもらえず今まで何度死に掛けたことか。

「船長...」
「相変わらず律儀だなァ。シャンクスでいいって何度言ったら分かるんだ?」
「呼び方はどうでもいいの。とにかく今日は薬の調合があるんで行きませんから」
「調合は後からでも出来る!冒険は今しか出来ない!」
「行かないっていう私の意思は尊重出来ないものなの?」

目を輝かせて...まるで無邪気な子供と同じだ。それでも四皇なんて呼ばれて恐れられてるとか...有り得ない。

「はあ......って、何やってるの!?」
「ん?足が根付いてるみてェだから小脇に抱えて行こうかと思って」
「抱えないでよ!私、本当に行きたくないんですけど!!」

爽やかに荷物を抱えるみたいに持ち上げないで下さい。此処から連れ出さないで下さい!

笑顔で人の部屋の扉を蹴り開けてスタスタと船内を闊歩して甲板に出ようとする船長に必死に抵抗するものの全てが無駄で、バーンと甲板に出れば準備万端の探索組が特に驚いた様子もなくサラリと「メンツが揃ったな」と手を挙げた。
私は船医、医務室で怪我とか診るだけの人材、なのに何時から探索組のメンツになったんだと問いたい。

「ちょっ、私は置いてって!」
「いや、連れてく」
「サラッと言わないで!ねえ!ベックマンもヤソップも...何とかこの人説得して!」
「悪ィがベレッタ、それは無理だ」
「無理!?」
「お頭は連れてくって言ってんだぜ?おれらにゃ止められねェよ。何ならまた"例の薬"使ったらどうだ?」

プッ、と探索組が笑って...思いっきり悔しくなる。
医者として色んな知識を以って色んな薬を作って来て...船医になってからもそれは変わらなくて"効く薬"を作って来た。馬鹿にされないだけのものを作って役立って来たのは間違いない。それなのに唯一、船長専用に作ったこの薬だけは何故か効かない。強化しても調合を変えても効かない。それことをヤソップは言ってるんだと気付かないわけがない。

「強化しても効かないって皆知ってるじゃない!信じられない!」
「なら諦めるんだな」

豪快に笑われて思いっきり唇を噛む。此処には私の味方は居ないのかと思うと悔しい。
嫌だ、本当に行きたくないし引きこもりたい、筋肉痛になりたくないし日焼けもしたくない、私は船医だから冒険もしたくない。

逃走防止に小脇に抱えられたまま船から強制的に降ろされて...何とも言えない森の中とかに連れ出されてしまった。



森に入った頃、抱えられていた私は降ろされて自分で歩き出した。微妙な歌を聞きながら俯き歩く。
虫とかが死ぬほど嫌いだというわけじゃないけど好んで見たいとか思ったこともなくて、足場の悪い地面を同じく歩くムカデに溜め息が出た。

「おいおい溜め息とか吐くなよ」
「.........誰の所為よ」
「おれかァ?いいじゃねェかこれも体力作りだ」
「船医にそこまでの体力は必要ありません」

ムキムキで戦えちゃいそうな医者なんて今まで見たことない。ましてや自分がそんな風になるのは嫌。
置かれた現状に溜め息吐きたくなるのは当たり前、ブツブツ文句も言いたくなる気持ちを抑えて歩いてることを逆に褒めて欲しい。

「おれは船医も体力勝負だと思うぞ?」

初めて聞きました、船医も体力勝負だなんて。
何処ぞの皆さんばりに体力が必要っていうんなら私、次の街で船を降りてもいいところです。

「例えばそうだなァ.........ま、その辺はさておくか」
「.........頑張って馬鹿に効く薬を開発しないといけないわ。早急に」
「お前なァ...馬鹿だから薬が効かねェんだ。まず馬鹿を治す薬を作っとけ」
「馬鹿は死んでも治らないのよ」
「じゃあ頑張っても効く薬は無理だな」
「おいおい、まさかその馬鹿ってのはおれのことじゃねェだろうな?」

他に該当する人が居たら全員で船長を見たりしません。

はあ、とまた盛大な溜め息を吐いて嫌になるような野道を歩く。途中途中で薬になりそうなものは採取してるけど出掛ける予定はなかったから準備不足もいいところだ。そろそろ手いっぱいになったから袋とか欲しい。というか、もう船に戻りたい。

「ねえベックマン。私、帰りたいんだけど」
「そりゃお頭に言ってくれ」
「言っても無駄だから言ってるのよ。もう材料も持ち切れないし」
「あァ、それだったら...」

向こうを見てみろ、と指差された方向に目をやればニカッと笑う船長がきらきらした目で大きな袋を持ってる。なんて顔だろう、自分は完璧だと言わんばかりにイイ顔してる。また溜め息が出た。

「よし!コレを使うんだベレッタ!責任を持っておれが持つから」

そう言われてもなあ、何準備してくれてんだ。

「.........有難う、って、何かすでに変なもの入ってるけど?」
「おれが採取した植物たちだ。使え」
「.........」

どうしよう、使えるものがない。こんな高確率で使えないものばかり集める人も珍しい。

「ん?どうかしたか?」

ついでに素敵な毒草まで入れてある。普通、毒々しい紫の草とか危険すぎて触らないわよね。
確かコレは素手で持つとかぶれちゃうようなものだったはずなんだけど...彼を見る限り大丈夫らしい。なんて丈夫な人なんだろう。今日、何度かも分からない溜め息がまた出てしまった。

「.........とりあえずコレ全部を"あの薬"に調合してあげる」
「あァ、おれ専用の何とか剤な。ま、適当に頼む」


.........適当、ですって?


「船長専用って精神安定剤!鎮静剤よ!そのよく分かんないテイション下げるための薬!なんでコレだけ効かないのよ!!」
「はは。そりゃおれの精神がずーっと安定してるんだろうなァ」
「笑うな!そのハイテイションが安定とかそもそも異常なのよ!事例がないのよ!?」
「そうかァ?まァ、おれとしては何でもいい」
「良くないわよ!それに振り回される方の身にもなりなさいよ!!」



トランキライザー


「ベレッタが来てからだよなァ、お頭のこのテイション」
「ある意味病気だ。馬鹿とコレは医者でも治せねェっていうが...どうやら本当らしい」


[tranquilizer]=鎮痛剤、精神安定剤
title by 悪魔とワルツを

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