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VIRUS

世にも珍しい事が起きた。

「ベレッタさんが風邪で寝込んだァ?」
「っ、声でけーよい」
「大丈夫なのか!?」
「あァ。寝てりゃ治るってさ」

あのベレッタさんが寝込んでる。
体調管理と丈夫さと気丈さが売りのベレッタさんが?そんなのおれが此処に来て以来初めての事だ。

「ここ最近は強くなったと思ってたんだがねい」
「え?」
「あいつ、昔はよく風邪で寝込んでた」
「......昔?」
「軟弱でよく交代で看病したもんだ」

そんな事想像もつかない。
てか、問題はそこじゃない。交代で看病って...付きっきりで?ベレッタさんの世話してたのか?ご飯食べさせたり着替えさせたり添い寝したり...?おれのベレッタさんに甘えられてたって事か?

「マルコお前、ベレッタさんに手ェ出してねェだろうな!」
「......ハッ。誰があんなのに」
「あんなのって言うな!」
「何人かで看病してただけだ。寂しいって言うからな」

誰もあいつに手ェ出すとかしてねェよ、ってマルコは呆れ顔で溜め息を吐いた。

ベレッタさんは、おれよりも前にこの船に乗っていた。
両親は幼い彼女を残して死んで、ある程度は守られて生きたらしいけど...見捨てられた。たまたま見捨てられた現場にオヤジが居て船に乗せた。その頃はただの弱っちい女の子だったのだろう。拾われた後、此処でどんな風に過ごしていたのか、我儘が言えたのか...だけど分かっている事は大事に育てられたという事。

我儘...我儘かァ。
風邪ひいた時しか言えなかったんだろうな。頭ん中はいっつも「しっかりしなきゃ」でいっぱいだし。

で、やって来ましたはベレッタさんの部屋。
軽くノックしたけど返事は無い。寝てるんだろうとは思うけど...勝手にソッと中に入らせてもらった。

「......ベレッタ、さん?」

返事は無い。だけど、ベッドが膨らんでいるのが見える。
そーっと近付いて覗いてみれば、顔を真っ赤にして浅い呼吸を繰り返しながら眠るベレッタさんの姿があった。

「......」

どう見てもしんどそうで、汗掻いてて、呼吸がほんとに浅くて...
けど何だろう、何かヤラしい。いや待て。ヤラしいって何だよ!けどなァ...何かヤラしい。ぐったりしてて顔が赤くて呼吸が荒くして...まるでヤッた後、みたいな、

「......エース?」
「え、あっ...だ、大丈夫かベレッタさん」
「......うん」

セーフ...セーフだ。危うく襲っちまうとこだった、多分。

「あの、あれだ、何か飲むか?」
「......いい」
「えっと、じゃあ、何か食うか?」
「......いい」

虚ろな目でおれを見てるベレッタさんが、マジでおれを誘ってるように見える。
いや、違うって分かってるんだけどな!ベレッタさん処女だし、そんな高等技術は持ち合わせてねェだろうし、だけど...やっぱ、何か、見てるだけで...

「......エース」
「うわっ、は、はい!」

ベッドの裾から白い手が少しだけ出てる。

「手...繋いでて」
「へ?」
「......手、」

ベレッタさんが、おれに甘えてる。
ヤバイ。ぶっちゃけコレだけで勃つしヌケる自信がある。けどダメだ。今は違う。そういうんじゃない。それだけは分かる。だから、ベレッタさんの手を取ってベッドの端に腰かけた。

「あァ。熱が下がるまで傍にいるから」

そう言うとベレッタさんは少しだけ笑って、再び目を閉じた。


甘えた愛おしい人

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