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#17

時の流れは残酷なものだと誰かが言った。

その誰かって言うのは4月から異動して来たサッチである。前の田舎店舗にいても出会いが無いとか何とか言ってマルコを困らせた果ての異動だという。
丁度、大学生バイトがこぞって普通に就職して辞めちまったから助かったんだけど、逆に大変な事になりそうな予感がするから早急に再異動をおれが申請したい。勿論、サッチの。

あれから岳ちゃんと宍戸っちはたまーに店に来てくれるけど、あの子の情報は何も無かった。
学部が違うから全く分からないんだそう。ついでに彼らはすぐにテニスサークルに入って夜な夜なまで騒いでいるらしく、宍戸っちですら最近姿を見てないんだとか。

「まぁ、元気してると思いますよ」
「痴漢とか変態とか撃退してそーだよな」

ハハッと苦笑。ぶっちゃけ痴漢にも変態にも遭遇して欲しくねェんだけど。
大学は義務教育じゃねェから自分の好きなように授業組んで楽しく過ごせるって聞いてたけど…彼女もそうして時間を過ごしてるんだろうか。サークルとか友達と一緒に入ってキャッキャして…地獄のような受験(多分)から解放されておれとか忘れちまってるんだろうか。

「そういえば、何か駅前に新店舗出来るらしいですね」
「そう。今、色々改装中。で、おれそこの店長になるわ」

あれから考えた。
年更新の社員から正社員へ、新たな店舗の店長へ、何故おれが?おれじゃなくても他に沢山の人材がいるのに何故おれなんだ?おれじゃなくても、おれみたいなのが、おれなんかが…と考えている内にふと気付いた。そんな「おれ」にオヤジは任せたいと考えてくれたって事に気付いて…急に視野が開いた。

ごちゃごちゃ考えずに進もう。
あの子も前に進んでる。おれも同じくらい前に進んで胸を張って会える日を待とう、と。

「いつオープンですか?」
「オヤジがめちゃくちゃ張り切ってなァ…急ピッチで進めてるらしいから5月中にはオープンするかも」
「え?早くないっスか?」
「無茶すんだよオヤジは」

なァ!と厨房にいるサッチに声を掛けると笑って肯定した。
一度決めたら必ず実行する。決定したら迅速に動く。それがオヤジのやり方で、ついていく方の身にもなれよ、と誰もが笑うんだ。だけど誰もついていかないなんて事はない。

「求人とか出てるんですかね?」
「多分出てる。何だったらバイト来るか?」

即採用するぞ、と笑えば二人とも静かに首を振る。

「……俺らは無理だと思う。なぁ、岳人」
「……まず無理だな」

そんな時間があるなら休みたいらしい。

「ま、オープンしたら一回は来てくれよ。一杯だけ奢るよ」
「あー…まだまだ未成年なんでノンアルっすね」

あ、そうか。
高校を卒業したからといって成人したわけじゃないんだった。
今の言葉が無かったら確実に未成年にすすめちゃいけねェビールを出してたわ。あっぶねェ。

「ならソフトドリンクにお通し付けてやろう」
「マジか、やった」
「今言った事、忘れないで下さいよエースさん」

大丈夫だ、多分。
そう言ったら心配性の岳ちゃんがスマホを取り出して「もう一回言って」と笑う。仕方ねェから「初回限定で一杯とお通しをご馳走します」と言質を与えてやった。

2019/11/20
(19/19)
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