VIRUS
頼む。何処か遠くへ連れてってくれ...
と、何度思った事だろう。
別に助けてくれなんて思っていない。大人しくしておけば明日には何とかなる。寂しいとかそういうのは無い。熱にうなされるかもしれないが、決して独りになりたくないとか思っていない。
「大丈夫か?水飲むか?」
数分おきだ。数分おきに水を与えようとする。
確かに熱で喉がカラカラになった時は必要だが、小分けに水分補給しているからいらない、と最初の数回までは返事したはずだ。今はもう面倒になって無視しているが。
「メシは?何か食わねェか?」
それは数十分おきだ。
少なくとも三時間前に昼飯にサッチが作ってくれたリゾットを食べたばかりだ。もう胃に食べ物が入る余力は無い。と、これも最初の数回までは返事したはずだ。今はもう面倒になって無視しているが。
「熱は?少しは下がったか?」
これに関しては水と同じくらい聞かれている。
もし、もしも仮に、俺の熱が数分おきに変動して下がって上がって下がって下がって...としていたら、もはやそれは人とは言えないだろう。数分おきに変動とか...と、これに関しては一度だけ返事したはずだ。今はもう面倒になって無視しているが。
ぼんやりとした視界に微妙に見えるは、エースの顔。
心配してくれているのは分かる。何かしてやりたいと思ってる事も分かってる。馬鹿はひかないという定義も知ってる。その馬鹿の定義に忠実な男がエースだという事も分かってる。
......が、限界だ。
「!?起きるのか?平気か?」
ぐらぐらする。
「立てるか?おれ、後ろから支えて...」
扉が歪んで見えているが、今はその歪んだ扉が救いの扉にも見える。
「ベレッタ?」
真っ直ぐに歩行出来てるかも分からないが、歪んだ扉のノブに手が届いた。
熱で手の力感覚がよく分からなくなってる...が、渾身の力でその扉を開けて思いっきり空気を胸いっぱいに吸い込んだ。そして、今できる最大の気合いで、叫んでた。
「この馬鹿を撤去しろ!!!!」
......あ、ダメだ。脳が揺れた。
「ベレッタ!?」
ぼやけた視界が更に白んでグニャグニャ船自体が歪んで...目の前が一気に黒くなった。
病人は安静に。
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