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の世界

Ubrall sonst die Raserei.
――それ以外は、狂気の沙汰。



泣いて、鳴いて、もっと啼いて。
相手の意に反してでも欲しいものを奪うのが海賊。拒絶を受け入れず連れ去るのが海賊。それが海賊道理と最初に教えたはずだよい。それが例え、仲間同士であったとしても。

恋、焦がれたらその後どうなる?
焼き付いた感情は焦がれすぎて狂気に変わる。縛って、繋いで、塞いで...雁字搦めにしても胸は痛まない。逆に痛むのは...流れる涙を見た瞬間、相手の拒絶によるおれの胸だけ。


「どうして付いて行ったんだい?」
「.........」
「船内待機。そう伝えたはず」
「.........」
「エースと買い出し、なんて頼んだ覚えは無いよい」
「.........っ」

隊員に仕事を頼む事は隊長としては当たり前の事。隊員はそれに素直に従ってさえいれば何も咎は無い。叱られる事も無ければ、こんな風に説教を喰らう事も無い。全ては自身が招いた結果、そう彼女に話すのはよく考えたら初めてかもしれない。

「船内待機が不服だったかい?」
「.........う、」
「そう。不服だったとは知らなかったよい」
「.........っ、」

基本的には従順に仕事はこなすし態度も問題は無くこれまで過ごして来た。
多少、大雑把なところもあるが逆に此処で繊細なヤツを見た事が無いので仕方ない。愛想も愛嬌もある。皆とも...仲良く過ごしている。そう、家族として。

「きちんと自分の意見は言った方がいい」
「っ、んっ、」
「.........あァ、そうだったねい」

忘れてた。轡をしてたんだったねい。

「はっ、はあ...はあ...」
「悪かった。忘れてたよいソレ」
「.........なん、で」
「質問してるのはこっち。船内待機、不服だったかい?」

彼女は首を小さく横に振った。つまり、不服は無かったということ。
だとしたら...大人しく甲板掃除や棚掃除、倉庫整理に室内清掃などなど色々な仕事が出来たはず。勿論、わざわざそんな事は命令しなくても今までだってきちんとして来た。彼女も分かっていたはず。

「た、たいちょ...」
「不服じゃなかったとして、何故エースと買い出しに?」
「それ...は...頼まれて...」

そう。確かにエースに買い出しを頼んだ。でも一人で抱えれない量じゃなかった。
付き人の必要は無かった。案内も必要としない規模の町で当然、おれも見つけてしまった。もっと大きな町であれば気付かなかっただろうに。そう、もっと大きな、人混みに紛れられるくらいの町だったなら...おれは気付かなかったよい。

「わ、たし......」
「優しいっていうのは残酷だねい」
「.........っ」

あァ...泣いてる。
さっきまでは涙一つ零さずにいたっていうのにどうしたんだろうねい。会話を少ししただけだっていうのに泣かれたのは初めてだよい。ぽろぽろ、零れる。拭う事も出来ない。

「.........なん、で」
「あァ、その質問はどれに対しての疑問だい?」
「......あ...っ」
「おれが怒ってる理由?出歩いた事を知っている理由?それとも...」

いきなり身柄を拘束して、おれの部屋に連れ込んで、両手両足を椅子に縛り付けて、しゃべれないように轡を付けて数時間も此処に置いている、理由かい?

そう告げた時、彼女の体が震えた。
まるで...勝てない敵と対峙しているような目。怯えているのがよく分かる。けど分かってないねい。おれは、敵でもなければ意味もなくお前を殺すような事は無い。だってそうだろう、仲間、なのだから。

「理由は簡単。約束を破ったからだよい」
「.........ごめんなさいっ」
「まァそれは怒ってる理由だけなんだけどねい」
「え......?」

カタカタ、体が震えている。
手を伸ばして触れた頬は温かいから...別に寒いわけじゃないみたいだねい。じゃあ、何故震えてるんだい?怯えた目をしたまま、おれはもう怒った顔なんてしてないのに。

「.........」

そうか。おれがこうして縛り付けたのは初めてだったねい。
いつだって決まっておれはこうして生きて来た。こうして...大事なものは閉じ込めてきたって事を彼女は知らない。宝物は宝箱にあるのが普通。宝石は宝石箱にあるのが普通。金は金庫室にあるのが普通。それと同じ、おれは大事なものを同じように大事に仕舞う。

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