EVENT | ナノ

#13

近くで、カタン...という音を聞いた。

何かが床に置かれた、ような音。ベットからスマホでも落としただろうか。
いや待て...ウチではベットからスマホを落とした時に音はしない。よく落とすからその位置に割と分厚めのマットを置いてるから。これで液晶は割れない!と胸を張れるクラスのやつをわざわざ置いてるんだから、そんな音はしない、はず...

「......んっ」

肩が、痛い。ついでに首も。
変な違和感を覚えながら目を開けると群青色が見えた。これは...カーテンだ。群青色の、カーテン。

「......あ、」

ここ、ウチじゃない!!

「やばっ、寝てた!」
「うん。よく寝てたね」
「マジか...まだまだやりたい事が...って!?」

独り言の返事に気付いてサッと頭を上げたら、目の前に家主の姿が見えた。

「あ、急に起きたら目眩起きるよ?」
「いや...大丈夫、です...でした?」
「そう。それにしても半日でかなり綺麗にしちゃったねー」

え?そうでもない。現状見える範囲のみしか掃除してない。
彼らは見えていないのだろうか...ベランダに放置されたゴミ袋(大)×5とリサイクル袋×3という驚異のゴミが。それをきちんと捨てて初めて「綺麗になった」と言えるんだけど...(個人的には、だけど)

「カーテン、いい色だね」
「...まともなのがコレしかなくて」

てか、勝手に取り替えてすみませんと言うべきだろうか。
チラッと彼の表情を窺ったけど怒っているようには見えず、むしろ嬉しそうにしているところを見ると気に入ってもらえたようだ。

「あ、レシート確認したよ。諸経費も含めて返すね」
「え?諸経費?」
「袋とか掃除道具とかは自前だったでしょ?その分」
「あー...」

そうですそうです。
それも後で申告しようと思ってはいたけど申告ナシで返って来るとは思いませんでした...って!ちょっと待って待ってっ!!

「ちょっ、多くないですか!?」

ハイ、と目の前に突き付けられたお札が異様に多いです!何ですか!?私のゴミ袋(大)はそんな価値はありませんよ!?フツーの指定ゴミ袋でワンコイン程度で購入出来ますよ!?ついでに素敵ウエットシートだってお買い得製品でそれこそゴミ袋よりお安いワンコインで2つは買えます!!え?まさか...もう給料が出るんですか?後日清算するって話でしたよね!?

「え?多い?」
「多いです!」
「えー?まー...うん、問題ない」
「問題しかないですけど!?その半分で十分です!!」

というより、半分受け取っても多い。
え?何この人...金持ちなの?富豪なの?御曹司的なやつなの?
でもこのマンション...そんなに家賃高くなかったよね。築年数が結構いってるからって理由で借り手が少ないらしく改修とか無理だからって家賃下げて...みたいな話を不動産屋さんから聞いたんですけど。

「じゃあさ、残り半分は晩飯ってことで」
「へ?」

現在の時刻は、午後8時半を周ったとの事。

「奢るから食いに行こう」
「は、い?」
「良かった。じゃあ行こうか」
「はい!?」

中途半端な返事が「肯定」とみなされたらしく、急に手を引かれて鞄を取る事も出来ないまま、私は彼と共に夜の街へと繰り出したのであった。

2019/12/13
(13/13)
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