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危なっかしいサンタさん



「あ、若くん!」
「……何、やってるんですか?」

帰り道、冬休みになって浮かれた子供たちが「サンタさんサンタさん」と騒いでいるのを聞いて何となく振り返った。
そんなもの日本で存在しているわけがないことを知りつつ、何かのオブジェでも出たのか?とその程度で見ただけだった。しかし、

「良かったらケーキ買ってかない?残り2箱なんだけど」

一応、そこにはサンタは居た。正確には、サンタのコスプレをしてケーキ即売をしている人、だが。

「……バイトですか?」
「うん。今日だけの短期バイト。これが結構イイんだわ」
「それで、ソレですか?」
「ソレ?ああ、この衣装?可愛いでしょー」

……呆れて、物が言えないというのはこのことだ。

彼女は近所に住む幼馴染み的な人で先輩。とはいえ、3つも年上だと気付いたのは…俺が小学中学年になったくらいだったろうか。
何となく傍に居て遊ぶことが多かった彼女は随分と身近な存在だったのだが、年齢の差に気付いたのは彼女は中学へと進学したことからだった。
名前以外、特にお互いが何となく気にしなかった事から年齢を知らずして遊んでいた。煩わしいもののない仲だった。
ただ、彼女が進学することで昔のように遊ぶことは無くなってしまったが家は近所。こうして話すこともある…という仲に変わってしまったけど。

「で、ケーキ買ってかない?」
「それがラストなんですか?」
「そう。これが終わったらノルマ達成で給料ゲットよ」

ふふふ、と笑う彼女にはもうすでに手に入るバイト代のことしか頭にないらしい。
大方欲しいものでもあるんでしょうけど、それにしても危なっかしい。彼女を知ってるからこそ余計に危なっかしい。
いや、そういう心配を年下のヤツにしてもらうような年齢でないかもしれないが…彼女はいつもそんな気持ちに俺をさせる。今もだ。

理由その一、単独でコスプレして即売なんかしてる。普通は二人一組でこういうのはするんじゃないのか?と聞きたい。
理由その二、そのコスプレを見てニヤニヤしている野郎共に気付いていない。これは教えたとこで笑いながら否定されるから敢えて言わない。
理由その三、目先のバイト代のことばかりでそんな野郎共に連れ込まれそうなオーラが出ている。要は、警戒心が欠けているということ。
理由その四、連れ込まれなかったにしても浮かれ過ぎて帰宅時に――…

「若くんってば!」
「あ…すみません」
「折角だから買ってってよ。損はしないよー」

にこにこと営業する彼女には溜め息ものだが、このまま置いといても上記の理由でどのみち心配するだけ、か。

「残り全部買いますよ」
「え?」

彼女の存在に気付かなきゃ良かった。だけど、気付かずに後々知って後悔するくらいなら気付けて良かった。
学生服のポケットから財布を出して2箱分の料金を支払って…って、自分で営業しておきながら硬直してるぜこの人。

「それ売り終わったら帰れるんでしょう?送りますよ」
「いや、でも片付けとか…」
「手伝いますよ。ですからお金を受け取ってレジ閉めして下さい」
「わ、若くん?」

多少強引だったかもしれない。でも、

「本当に…危なっかしくて放っておけない人ですね」


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