テニスの王子様 [不定期] | ナノ

違う色 (1/2)



昔、本当に小さい頃のこと。母親はよく良かれと思ってか、いつも同じものを私たちに買い与えた。
同じ洋服、バック、筆箱、鉛筆…全てがお揃いで全てが同じもので、間違わないようにと互いの名前を刻んだ。
それがいつからか嫌になって、私は彼女を目の前に主張していた。「色だけでも別のにして」と。
その時の驚いた二人の顔、私は忘れない。忘れることはないだろう。
そして…いつからか、私たちは同じものを身に付けないようになっていた。





朝起きるとすでにゆきは朝食を済ませ、準備を終えたらしく玄関先で靴を履いていた。
私の存在に気づくことなく鼻歌なんか歌いながら、振り返ることもなく元気よく挨拶をして出て行く。
そんな姿を私はただ、黙って見送った。声を掛けることもなく、返事を返すことなく…
もしも、彼女が振り返っていたならば…
少なくとも私は自己嫌悪に陥ったかもしれない。罪悪感に沈んだかもしれない。

――登校を共にする義理は、ない。

誰よりも真っ黒な私がそう囁いていたから。天使とか悪魔とかのレベルじゃない、真っ黒な私が。
目をキツく閉じて、唇を固く結んで、奥歯を酷く噛み締めて。
真っ黒な自分の囁きを受け入れた自分自身の追い討ちに、何とも言えない感情が体中に駆け巡る。
それなりの自己嫌悪、罪悪感、劣等感…全てが入り混じって私を蝕んでいく。


「……おはよ」
「ああ、おはよう!もうゆきは出ちゃったわよ」
「みたいだね」

リビングには私の朝食だけが用意された状態になっていた。
先に食事を終えたという残骸はなく、ただシンプルに私の朝食だけが残されている。

「早く食べて学校行きなさいよ」
「……わかってる」

いつから準備されていたのか、少し冷めちゃっている朝食を変な気持ちで食べていく。
待ってたのかな。準備した後もしばらく待っていたのかな…なんて、またも変な罪悪感に襲われる。
そんな感情を持ち合わせているちっぽけな自分に笑えた。あまりにも滑稽で笑えた。

「ご馳走様」

食べ終わった食器をそのまま残してリビングを去ろうとした時、母親は呟いた。
「ゆきは片付けてくれたのに…ゆいは片付けないんだから」と。
聞こえていながら返答することもなく、私は聞こえなかったフリをして廊下へと進んだ。



食べた朝食が美味しかったのか、そんなことはもうわからない。
自分がまるで機械のように準備していても、そのことだって気になることもない。
私の心は、何処か遠くで…自分自身を見ているような…そんな感覚がしていた。
まるで他人事のように、客観的に自分自身を眺めて、ダメ出しを始める。

――ゆきみたいに振舞ってみれば?





遅れて登校すること数十分。当然だけど、彼女の姿は何処にもなく、すでに校内に入ったんだと思う。
どうしてだろうか、そのことに酷くホッとした。
そう。一緒に居なければ、余計な想いをしなくて済むだなんて…考えてた。

私はどう足掻いたってゆきのように振舞うことは出来ない。
いや、頑張って振舞うことは出来るかもしれない。だけど、それが返って自分を惨めにする。
自分自身を更に追い詰める、焦らせて、鎖で縛りこんで、追い込んでしまう。


「おっはよーゆい」
「あ…ブンちゃん」
「何だー?めっちゃ暗いじゃん!」

校門の手前、相変わらずガムなんか噛みながら登校するブンちゃんと遭遇。
で、気付いた。彼が無意識に私の左右を確認したこと。それはきっと…

「ゆきなら先に行ったわよ」

私とワンセットだと考えているゆきを捜していたんだと思う。登校時は一緒の方が多いから。
こんな些細な動きですら敏感になって、拭い去れないゆきの姿に私は怯えている。
怯えてる…そうか。私はゆきという存在に怯えているのかもしれない。

「ふーん。珍しいのな」
「たまには、アリでしょ」
「まーな」

私の内心をよそにブンちゃんは延々とゆきの話を振ってくる。内心なんて、読めるものじゃないけど。
ゆきの家でのこと、休日の過ごし方、そして…彼女自身のこと。
そう。今の私には少しキツい質問が多くて、答えるたびに苦で苦で苦で――…

「あーもう、お前暗すぎ」
「……悪かったわね」「ほれ、コレやるから元気出せよ!」


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