テニスの王子様 [DREAM] | ナノ

出逢うべき人 02



随分とあっさりした遠征のような大会を終えて沖縄に戻れば…学校では物凄いお祭り沙汰になってて驚いた。
26年ぶりの全国大会出場だと今更だけど知らされて、学校の壁には大弾幕が下げられていた。

「……派手ですね」
「派手というより…凄いと思います」
「まあ…志月さんの居た立海は常連校。こんなのは無かったでしょう?」

何のこと?と首を傾げれば、本当に何も知らないのか?と呆れた顔で木手くんが説明してくれた。
私の居た立海はテニスでは負け知らずの学校だってこと、それに関しては本当に全国区で有名なんだってこと。
そして…その立海が九州大会と同じ日に、青学という学校に負けたということ…

「今年は激戦になりそうな予感がしますよ」
「そう…」
「下手したら初戦で当たる可能性もありますね。その時は…どうします?」
「え?」
「俺たちを応援しますか?それとも向こうを応援しますか?」

なんて、残酷なことを聞くんだろうこの人。真面目な顔をしてる分、タチの悪い質問。
その質問はおかしい。だって、知っている人だったら応援するでしょう?敵であれ味方であれ、それで普通じゃない?
それが例え…木手くんの言う初戦で当たったとしても、私は…どちらも応援するに、決まってる。

「……嫌な質問するのね」
「興味本位ですよ。そこに全てはあるでしょうし」
「全てなんて…ないよ」
「そうでしょうか?少なくとも俺は――…」

俺は、何よ。何が言いたいのかジッと見つめていれば、彼は溜め息を吐いて首を横に振った。
そこまで言い掛けて止めるとか…と、逆に苛立った私が問い詰めようと口を開こうとすればサラリと視野に何かが映る。
真っ黒な私の髪じゃない、もっとサラサラとした金色の髪、だ。

「永四郎はいつも志月をイジメるさ」
「イジメてなんかいませんよ。失礼なこと言わないで下さい」

両肩に少しの重みとぬくもりと…頭上から流れる金色の髪が何となくの距離感を表してた。
近い、んだよね?そう瞬時に悟れば「平古場くん」と彼の名を呼べたものの上を向くことが出来ない。
何か…変な感覚がする。何処かが痛いような、痒いような、もっとこう…とにかく何かが変だ。

「志月も永四郎にイジメられたら叫んでいいんだぜ?」
「……何て叫べばいいの?」
「ふらかー!ってな。そしたら永四郎は――…」
「ゴーヤね、平古場くん」

フン、と冷たい眼差しを平古場くんにくれた木手くんがスーッと私たちの横を通り過ぎてく。
「あーあ」と呟いた平古場くんは、というと肩から手を放して少しだけ私から離れてくれたみたいで。
そこでようやく振り返れば…どうしたんだろう、と思わずにはいられないくらい複雑そうな表情に驚いた。
らしくない、と思う。知り合ってそんなに時間は経ってないけど、話だって最近まともに出来るようになったけど。

「やぁは本当に鈍いんだな」
「え?」
「そういうんがイイんだろな、ウン」
「何が?」
「いいさ、やぁはそのまんまで」

笑って…ただ笑って私の頭を撫でる平古場くん。
今になって気付くことがあって、私はそれに対しての謝罪を未だにしていない。
いや、今になって謝られても逆に困らせることにはなるかとは思ってる。だけど、心に引っ掛かるはあの日のこと。
相手のことを何も知らなかったのは確かでも、無知は時として罪。知らなかったでは済まされない言葉を吐いた。
そんな私に笑い掛けてくれる彼は、寛大な人だと思う。私はただそれに甘えているだけ。

「これで一歩近付いた」
「え?」
「へ?あ、ああ…こっちのことさー」

何か変なカンジがずっと続いてる気がする。
それは何となく平古場くんの所為なんだろうとは思うけど…それが何を意味するのかは分からない。
何気なく気付けば傍に居て、何かとフォローをしてくれている彼。どんどん当たり前になってく。
「もう、関わらないで」と一度ならず二度三度と口にした私の傍に、何でこの人は居るのだろう。

「あ、永四郎の言うことは気にすんなよ」
「……」
「どっち応援したって構わないさ。まだ心は向こうになるんだろ?」

ズキリ、痛む心。

「わんは勝つことで心を持って来させる勢いで戦うつもりさ」
「平古場くん…」
「やぁがどっち応援しても比嘉中は勝つ。それが目標だからな」



……本当に、何でこの人は私の味方をしてくれるんだろう。



続々と部員たちが集まるなか、私はただほんやりとコート内で準備を始めた。
同じように準備をしている木手くんは決して遅刻をしたわけでもない皆に「遅い」と冷たく言い放っていた。
平古場くんは…どうやら倉庫へネットを取りに行ってるらしく今は姿が見えない。

「遅い…って凛も来てないじゃん」
「おや。生憎、平古場くんはもうすでに来ていますよ?」
「ええ?」
「それだけ本気、なんでしょうね」

またズキリ、痛む心。

「その本気はさーもっと前から欲しかったなー」
「同感です。そうすれば我々も早くから活躍出来たでしょうに」
「ま、その辺は神の思し召し、だよな。」

皆の会話はそこからもう聞こえなくなってしまった。
分かっていたつもりで何一つ分かっちゃいなかった。皆、本気で挑んでいくんだ。こんなに軽い言葉に聞こえるのに、重い。

「……志月?」

本当に、私は何でこの場にいるんだろう。
何も知らず何も出来ず、ただ自分のために此処に居る私は彼らがどんな思いでいるかを知らない。
どんな志を持って臨んでいるのかを知らない。どんな苦労をして来たのかを、知らない。

「志月を一回、向こうまで連れて行ってやる」
「わんが必ず連れてくから、その時は――…」

平古場くんと交わした約束…いや、これを約束だと言っていいのだろうか。
それだけのことで私はここに居ることを誰も知らないのに…

「……目眩でもしましたか?」
「今日も強烈だからなー平気か?」

優しさが痛かった。単に痛い。
その優しさは今の私には毒のようなもので、どんどん私の中のドロドロを浮かび上がらせていくもの。
空っぽの心に浸透するには温かすぎる優しさは何とも言えない味がした。



次でいきなし全国へ飛ばしますかー(早

2009.05.22.



(9/15)
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