テニスの王子様 [DREAM] | ナノ

ちょっとした機会を得て、実際に確認してみた。
本当に彼女が平古場くんの父親と兄妹にあたるのか、おばさんであるのか…そう、彼の父親に直接尋ねた。
すると彼はダイナミックに笑って「アイツは産まれる直前まで俺には知らされなかった」「病室で初対面の時は泣いた」と言った。
わざわざその当時の写真まで持ち出してくれて…そこにはしっかりと兄妹の対面する姿が写されていた。




生意気な彼女 〜 攻略法




「よくよく見れば似てますね」
「まだ言うか」
「違いますよ。あなたと平古場くんのお父様ですよ」
「ゲッ!あんな不肖・放蕩兄貴と一緒にしないで」

おやおや、産まれたばかりのあなたを自分の子供のように可愛がったと自負する彼に向かって失礼な。
対面写真だけでなく、成長記録のような写真も彼は大事にしていましたよ。勿論、平古場くんの写真と一緒にですが。
さすがにあんな写真を山ほど見せられたら信じざるを得ない。まさか親戚だったなんて…まあ、狭い地域ですからそんなものでしょうけど。

「まあ、勘当されたのはどうかと思いますが愛する人を選べたのは良かったのでは?」
「そんなこと私は知らないわよ。ただ凛が同級生なのが許せないだけよ」
「……産まれてすぐにオバサンになったから?」
「分かってるんなら聞くな」

癇癪持ちですね。でもその反応は返って面白い。本当に知られるのが嫌だったんだ、と痛感します。
だからこそ俺としてはソレを最大限利用させて頂いてもう少しお近付きになりましょうか。と、狡賢い自分が笑ったのを感じた。
何でしょうね…もう少し絵に描いたような、本にあるような痒い恋愛をすれば良いもののそうもいかない自分が居る。
平古場くんみたいに好きな人の前でモジモジしてみたり、甲斐くんみたいに虚勢を張ったり、知念くんみたいにひたすら愛でたり…
そういう風には出来ないものかと自分自身で思う。まるで他人事のように思う辺り、それでは納得しないのだろうけども。

身の上を知られた彼女は俺の横、何とも言えない表情でまた本の世界へと誘われていきそうだ。
その本好き、集中力には感服するものがあるが、今はそちらに行かれては困る。

「志月さんは古文とか詳しいですか?」
「……詳しくはないけど読める」
「ウチの蔵を整理した時、面白い古文書が出て来たんです。読む気はありませんか?」
「木手が干渉しないなら読んでもいいけど?」
「なら貸せませんね。忘れて下さい」
「……干渉するためのネタ振りなわけ?」
「他に何が?」
「干渉してくれなくて結構よ」
「そういうわけにはいきませんねえ」

あなたが好きだから、とアッサリ言い退ければ反応も薄く知らん顔をされる。これが平古場くんなら落ち込みますね。
でも俺は特にその反応に傷付くことなく切り返しも出来る。反応を楽しむ余裕くらいはあって、どう崩していくかを考えていて。
うまい攻略方法があるのならば…と考えるもやはり彼女はジェンガとは違う。かといって将棋崩しとも違う。なかなか手応えがなく攻略が難しい。

「古文書だけでなく小説もあったんですけど」
「そう、それは凄いね。あー凄い羨ましい」

棒読みに凄い凄いと連呼し、全く話を聞こうとしない彼女に苛立ちは感じない。彼女はそういう人だから。
そうと分かっていて尚、彼女と何らかの関係を持ちたいと思う気持ちは消えたりしない。
厭われても構わない、嫌な顔をされても構わない。ただ、彼女の中に自分という存在を残しておきたいと考えてしまう。

「なかなか難しいですね」
「……は?」
「君の攻略法ですよ。どうすれば手懐けれるんでしょう」
「知らない。知ってたって木手には教えないわよ」
「ですよね」


我ながら難しい恋をしている。


ぱらぱらとページをめくる姿が何とも言えない。その本に移された視線が鋭くもあり柔らかくもある。
今度のは万葉集ではないようで内容ある小説を読んでいるのでしょう。時折ふと変わる表情の変化にこちらが見惚れてしまう。
可愛げのない彼女、気性の激しい彼女、だけど感受性豊かな表情ある彼女。

「志月さん」
「……何さ」
「こっち向いて頂けませんか?」
「はあ?」

嫌々こちらを見た彼女は一気に現実に引き戻されてしまった。そんな感じがした。
もう少し愛嬌でもあれば良かったものの、でも、それがあったならばもしかしたら惹かれていなかったのかもしれないとも思う。
普通の女性では面白くない。綺麗なだけ、可愛いだけでの女性では物足りない。
強く強く…惹かれるだけの「何か」が欲しい。それがとてつもなくキツい「何か」であっても俺はそれを望んでいる。

「好きです」
「……は?」
「あなたが好きだと言ったんですよ」

彼女も知らない彼女の攻略法。俺も彼女の攻略法を知らない。
ならば駆け引きも何もあったものではなくて、ただ俺が「望んでいる方向へ」と進めなければいけない。

「……湧いてんの?」
「まさか。事実を述べただけです」


「悪趣味」


果たして本当にそうでしょうか?
少なくとも自分ではイイ趣味をしていると思いますし、あなたが少しだけ動揺を見せたところを見ると…悪くなかったようですよ。

以前から気になっていたのだけれども、彼女はどうもストレートな発言に弱いらしい。
自分があれだけドストレートに言葉を発しておきながら逆に同じ戦法を取られると動揺してしまう傾向が見られる。
髪に触れた時だってそう。真実を告げた彼女はいつも通りに言葉を発することが出来なくなってしまっていた。
今だってそう。ほら、もう本に集中することが出来なくなってしまっている。


「悪趣味なんて心外ですね」
「悪趣味に悪趣味って言って何が悪い」
「悪くはないですよ。でも少なくとも人が何と言おうとも俺は――…」


悪趣味なんかじゃない。それを踏まえて「君が好きですよ」と、もう一度告げれば彼女は硬直した。

……ああ、ここに攻略法アリ、ですね。
ピシピシッと凍りついたように動かなくなってしまった彼女の耳元へ敢えて近づいて、彼女だけに聞こえるくらいの小声で囁いた。


「今度、一緒に出掛けませんか?」



2010.07.30.


(8/10)
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