つい先日までは嫌いではないと思っていた女性でしたが、実は「好きなんだ」ということが判明して。
それ以来、どうやら自分の中でスッキリしないことが多くなってずっとアプローチを掛けているんですが…
そんな彼女から俺に声を掛けて来た。珍しいですね。雨が降らないと良いのですが。
生意気な彼女 〜 賭け
「……どうしました?」
「イライラする。じゃんけんで私が勝ったらフルぼっこさせろ」
……フルぼっこ、ですか?
それってフルパワーでボコボコに殴らせろの略だと踏みました。そんなの考えなくても答えは一つ。
「嫌です。メリットありませんから」
「……だよね。でも勝ったらフルぼっこさせろ」
「無理です。そんなの平古場くんとなさいな」
「とか言いながらアンタ、平古場に威圧掛けたろ?逃げてくんだけど」
とてつもなく不満げにトゲトゲしい言葉を放つ彼女に「そんなことありません」と一言告げれば微妙な表情で溜め息を吐かれる。
そう、平古場くんとやればいいと口にはしたものの、よくよく考えれば彼にはゴーヤを盾に忠告をしていたんでした。
随分親しげにしているようでしたからね。それなりに手を打ってそれなりに理解して頂いた。まあ、それを威圧と呼ばれても困りますが。
「日頃の行いじゃないんですか?」
「んなことないし。平古場とは買い食い仲間なのに」
「……ふーん」
それは知らなかった。では平古場くんにはまたお願いしないといけませんね。
と、いうよりもどんな接点があって彼女と仲が良いのかも聞かせて頂くことにしましょうか。時間はありますし、ねえ。
それはさておき、随分と不機嫌そうな顔で睨まれていますが…どうしましょうか。じゃんけんなんて運沙汰じゃないですか。
勝って得なしで負けて痛い目を見る。それが1/2…いや、あいこがあるから1/3ですね。その確率ともなればやはりどうかと。
「そもそも何をイライラしてるんです?」
「それ、木手が言う?アンタの所為でしょ」
「ほう…では責任でも取りましょうか?別の方法で」
「気持ち悪い言い方するな。フルぼっこ以外で責任なんて取られたくない」
「それは残念」
くすくす笑えばそれが癇に障ったらしく表情が歪んでいる。
惜しいですね。正直なところ、そんな顔をする貴女を見てもやはり嫌いにはなれないようです。我ながら重症ですね。
気付かぬうちに更に惹かれていることに彼女は気付かない。もしかしたら今もまだ冗談とでも思っていらっしゃるのでしょうか。
初めは、口の利き方のなってない女性だと思っていました。
何か言えば倍で返って来て、何か間違っているような発言を俺がすれば「異議あり」と言わんばかりに言葉を放つ。
ですが、その言葉は嫌がらせや嫌味の類ではなく、単に指摘・助言だと分かるまでにそう時間は掛からなくて…
とても珍しかったのを覚えている。真っ向挑まれた試しはそうありませんから。ましてや女性でなんて一度もなかった。
それから意識してみれば、彼女は思いのほか沢山の本を読んでいて…その姿は見惚れるものがあった。
サラサラと降りてくる前髪を耳に掛ける仕草。それにはグッとくるものがあって――…
「では、三回勝負にしませんか?」
「……はあ?」
「三回勝負して、先に勝った方が願いを叶えられる」
「フルぼっこでもいいわけ?」
「いいでしょう。ですが、もし、俺が勝ったら…」
……その手、その髪、その頬に、触れたい衝動に駆られる。
そのことに彼女は気付くこともなく平気な顔をして本を読み続けているんです。
「志月さんに触れさせて下さい」
「なっ…」
「下手なことは勿論しませんよ。ただ、髪くらい触ってもいいでしょう?」
「……分かった」
そうまでして他人をボコボコにしたい衝動に駆られているのか、彼女は険しい顔のまま条件を飲んだ。
とはいえ、こちらはこちらで命懸けの勝負だってことはきちんと把握してるのでしょうか。
「じゃ、いくよ?」
「ええ――…」
傾向と対策というものは、ホンの数分で練れるものだとは思いませんでした。
1/3の確立。出す目は3通り。にも関わらず彼女の出すパターンは1通り…それに気付かないわけがない。
勝負の結果は3勝2敗、7引き分け。その間に彼女がワンパターンな出し方をすれば自ずと勝ち方も分かるというもの。
「思ったより固い髪質ですね」
「……」
「ですが随分綺麗なものです」
「……」
「これより長くされないんですか?」
結べるか、結べないかの瀬戸際で揺れる髪に触れれば彼女は見て取れるくらいに身を逸らす。
そうしてまで嫌がっているのが分かってて、彼女の髪を束で掴んではいじる俺は意地が悪いとでも思っているのでしょうか。
「志月さん?」
「……髪に気安く触れる男ってのは、タラシが多いって知ってる?」
知ってるも何も、そういう謂れがあることは一応知っていますよ。ですが、全部が全部そうじゃない。だって、
「触れたいと思うのは貴女だけですから」
御題配布元 taskmaster
選択式311〜410より 「賭け」
2009.07.27. 書きたくなった分にて
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