テニスの王子様 [DREAM] | ナノ

嫌いじゃないと思いました。




生意気な彼女




基本的に気の強すぎる女性には手を焼くので好きではない。
間違いなく俺とは馬が合わず、確実に喧嘩は確定し、どちらが折れることもなく平行線のまま。
そんなやり取りを過ごすくらいならば、最初から接触しなければいいだけの話。
それだけ明確になっておきながら…何故でしょうか。嫌いじゃない女性が目の前にいる。

「何?ジロジロ見られても出す金ないよ」
「……俺は地上げ屋ですか」
「そんな人相してる木手が悪いでしょ」

人相をとやかく言われる筋合いなどない、そう言ったならば彼女はまた言葉を返すと思う。
負けず嫌い…とでも言うのでしょうか。それとも俺に敵対心でもあるのでしょうか。
接触すれば火花が散る。それが分かっておきながら回避することをしない自分が最近分からない。
ただ、分かっていることがあるならば…そう、俺は彼女をさほど嫌いじゃないということ。

「……可愛げのない人だ」
「それは良かった。可愛いなんて言われた日には死を覚悟しなければと思っていたところでした」

今の台詞、棒読みも棒読み。本当に可愛げのない人だ。
その堂々たる態度といったら普通の女性にはありませんね。少なくとも俺の知る中には。
不意に知念くんが言っていた言葉を思い出す。「木手にそんな口聞けるヤツが新鮮なんだろう」と。
確かに、新鮮と言われれば新鮮なのかもしれない。他にいませんから。
少なくとも、俺は女性に避けられている節がありますし、俺自身も迂闊には近寄らない。
強いて近寄ると人と言えば…志月ゆい、彼女ただ一人だけ。

「で、私に何か用でもあるの?」
「……もう少し優しく言葉は発しなさいよ」
「ジロジロ人の顔を見るような輩に優しい言葉必要ないわ」

大きな溜め息など吐きながら俺の顔など見ることもなく、ただ分厚い本だけに集中して目線が動いていく。
邪魔なんでしょうか、サラサラと降りてくる前髪を耳に掛ける仕草。内容が面白いからでしょうか、次々にページをめくっていく。
そのしなやかな動きは俺の視線を捕らえて離させない。それくらい洗礼された動きに見えるのが不思議だ。
口を開けばああなのに。鋭い視線は異性を寄せ付けないものがあるというのに。

「木手」

傍にあった可愛げもないシンプルな栞を本に挟んで、バタンと言わんばかりに本を閉じたかと思えば、
そのまま本は手元から急降下して机に叩き付けられた。思いっきり、教室に響かんばかりの音を立てて。
いくら私物とは言えども大事な本じゃないんでしょうかね。手荒いところもまた改善した方がいいようですね。

「いい加減にして」
「何がでしょう」
「隣の席だからってジロジロ見んなって話よ」
「……いけませんか?」
「顔の肉が減る。こっち向くな」
「おや、まだ減らせる肉もあるようですが?」
「悪いね。以上減らす理由もないもんでね」

ああ言えばこう言う。確かに比は俺にあるのかもしれませんが、気にしなければいいだけの話でしょう?
俺は何となく見ていたいんですよ、貴女の横顔。自分でも不思議なくらい見ていたい、と。
それを行うにあたって貴女の許可は必要ありませんし、却下されても自然にそうしたくなるんです。
……そう言えば、きっと貴女は納得はしないでしょうけども。
本当に不思議ですね。何故でしょうか。好きなタイプでないのに嫌いじゃない女性が目の前にいる。
「新鮮だから」とか「物珍しいから」とか…そんな理由で俺は彼女を見ているわけじゃない気もします。
その辺も良く分からないことですが、ま、何と言われようとも見てしまうんでしょうね。

「もう一度言う。こっち見んな」
「本当に可愛げのない人だ」
「それは良かった。可愛いなんて言われた日には死を覚悟しなければと思っていたところでした」
「同じ台詞を二度も言わなくて結構です」

……囚われた、とでも言うのでしょうか。

「どうでもイイから見んな」
「いけませんか?」
「集中力が切れるんだよ」
「元より集中力が足りないんじゃないですか?」

……いいや、そんなことはあるはずがない。
ただ、好きなタイプではないけれども嫌いじゃないだけ。嫌いにならない、なれないだけのこと。

「アンタ、私に喧嘩売ってんの?」
「いいえ。そういうつもりはありませんよ。ただ…」

強いて言うならば、ただ貴女に見惚れて…声を掛けているだけ、です。
ふと、その言葉を口に出した時に不意に気付かされた想いに…思わず自分が驚いた。



御題配布元 リライト 組込課題・台詞
「…お前、可愛くないぞー」「それはよかった。可愛いなんて言われた日には死を覚悟しなければと思っていたところでした」



(2/10)
[ 戻る付箋 ]

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -