テニスの王子様 [DREAM] | ナノ

どんなんなんやろか。志月ゆいとおる時の自分っちゅうんは。

最近、岳人がえらい突っ掛かって来るんや。何かに付けてホンマうざいくらいに。てか気付いたら毎日のように。
何や知らんけど俺が俺らしゅうないらしく、岳人から見たらめっちゃ恐ろしいもんがあるんやて。
そう言われてもなあ、俺がアイツと話よる時に鏡なんか見ることあれへんし、持ち歩いとらんし、見れるわけあれへん。
ちゅうか、話よる最中にいきなし鏡持ち出して自分の顔見るほうがよっぽと怪しいと思えへんか?
そう岳人に言うてんけど…まあ、俺の話とか全く聞いてへんくて。せやから俺もスルーすることにしたんやけど…



君と居る時の自分



「ねえ、忍足忍足!」
「……ん?」

うん、岳人が言うたことが気になって…何や調子が出えへん。返事すんのに間空いてしもたやんか。
今目の前におるんは噂の志月ゆい、や。仲ええクラスメイトで映画鑑賞が趣味っちゅう俺と共通点ある子や。

とりあえず返事遅れてしもたんを気にした様子もなく、志月はえらい興奮した様子で俺に寄って来よった。
何なん珍しいやん、そこまで興奮しとるとか。何にそない興奮しとんのやろー思いながら、とりあえずは深呼吸させとく。
吸うてー吐いてーて、目の前で深呼吸させて落ち着いたとこ見計らって「どないしたん?」て聞いたら、
何や手に持ったもんをヒラヒラさせて……ちゅうかソレ、俺に見せたいんやろか、せやったら振るのやめーやって話で。

「抽選当たっちゃった!」
「は?何のやねん」
「新作映画の試写会のチケット!ほら、テレビで宣伝あってるやつの…」

……ああ、ちょい前から試写会チケットの宣伝ありよったな。ほんで志月と話したんやったわ。観たいなー言うて。
当然、俺の好きなラブロマ路線のヤツでちょお切なめな雰囲気でええカンジやん、て盛り上がったアレな。
はがきでご応募下さい、言うとったんやけど…わざわざ書いて出したんかいな。なかなか根性あるなあ、志月は。

「へえ、当てたんや。凄いやん」
「でしょ?余った年賀状5枚使って当たったんだよ!もう嬉しくって!」

笑顔大放出、相当嬉しいんやろな。今にもぴょんぴょん跳ねて床に穴開けそな勢いで喜んどる。
その笑顔、ええな。むちゃくちゃ可愛えて思う。何や微笑ましゅうて俺が当てたわけやあれへんのに俺まで嬉しなってくる。
結構、こういうん多いんよな。志月と話しよると自分のことでもあれへんのに感情が志月方面へと移入してく。
今みたく嬉しい時は俺も嬉しなって、悲しい時はどうにかして笑わせたいとか思うことがある。悲しそうな顔とか似合わんしな。
悩んどる言うんやったら話くらい聞いたるし、何やろか…ポジションで言うたら友達、か?いや、何かソレちゃうな。
キョウダイ…それともちゃう気するけど、友達よりはこっちが近い気はするな。何となく、やけど。

「良かったなー」

とりあえず、喜んどる志月の頭撫でて頷いて同じ喜びとか噛み締めといて。
感想とか後で聞かせてもらおか、くらい言うつもりやってんけど…ふと気付いた。確かその試写会チケット、ペアやなかった、か?
頭撫でながら彼女の手元にあるチケット眺めてみれば、やっぱそうやん。ペアチケットやんか。誰と行くつもりなんやろ…
女友達と行くんやろか。このテの映画は女の子も好きやし。それとも彼氏、とか…居てんやろか。聞いたことあれへんけど。

――ドクン。
何や色んなもんが混じってごっちゃになったよな、そんな複雑な気持ちになりよって心臓跳ねた。
え?何なんコレ…よう分からんもんが押し寄せて来よる気すんねんけど、え?何なんやろか。心臓がバクバクしよる…
何考えとるんやろ俺。何か胸ん中がぐちゃぐちゃになりよる。ペアチケットっちゅうことに気付いただけやのに。
その映画、俺も観たいねんけど…女友達と行くんやろか、とか、彼氏は…おれへんよな、とか、それやったらいっそ――…

「ありがと。でね、これがさペアチケットなんだよ」
「……ああ」

言えんやろ普通。「せやったら俺を誘ってーな」とか言えへんやろ。かといって「誰と行くん?」とも聞きたない、とか。
どないしてんやろ俺、どっかで頭でも打ったやろか。そんな記憶とか全くあれへんねやけど…不整脈もするし、病院行くべきなんか?
にこにこ笑うとる志月を目の前に、俺が勝手に動揺しよる気する。なあ、ペアやから何やねん。何言うつもりなん?
俺らしくもない。返事すんのにまた間作ってしもた。けど、そないなことにも気付かんと彼女は嬉しそうにしとって。

「暇だったら忍足一緒に行かない?」

――ドクン。
さっきよりもっとデカい…比較対象にもなれへんくらいデカイ音立てて心臓が跳ねた。

「……ええんか?友達とか、誘わんで」
「んー多分、友達で興味ある子居ないと思うし」
「ほなら…他に、おらんの?誘いたいヤツとか…」
「いや、だから忍足誘ったんだけど……迷惑だった?」

――ドキドキ、する。
迷惑とかそんなん完全に有り得んくて、俺かてその映画観たかったわけやし…そないな話は前にしとったよな。
ちゅうか今何て言うた?俺は「誘いたいヤツおれんの?」て半端やってんけど聞いて、志月は「だから忍足を…」て言うてくれて。

「迷惑、ちゃうけど…俺を誘うてくれるん?」
「うん。忍足も観たいって言ってたしね」

にこってホンマ素直に笑う志月は……欲目やのうて可愛えと思うた。
あかん、そないに無邪気に笑わんといて欲しいんやけど…変な気分すんねん。胸詰まるような変なカンジがする。
動悸しよる、何や息苦しいくらいに胸とかつっかえるんや。何の意味もあれへんのに口元を手で押さえてまうくらいに何かが来る。
何、何が来よるんやろか。さっぱり分からへん。やっぱアレか、俺、病院行くべきなんか?

「……どうかした?忍足」
「いや…誘うてくれて、おおきにな」
「うん。あ、で日程なんだけど――…」

彼女の声が身近で響いて、俺の方が遥かに背が高い所為か今はふんわり揺れる髪が見えとって…
前髪を耳に掛ける仕草にまたドキッてなった。見た目と同じくらいふんわりとした口調で紡ぐ言葉がめっちゃ心地ええ。
何なんやろ、ちょお落ち着きとか無くなってまうくらいに何処かが慌しく動いてる気する。

コレか、コレが俺らしゅうないっちゅう何かなんか?ちゅうか、今までこないな慌しい感情とかあれへんかったと思うんやけど。
岳人が変なこと言うたからやろか。無駄に変な気とか遣ってしもて、ちょお意識してもうとるだけ、なんやんな。
分からん。よう分からんけど…何や調子出えへんのは絶対岳人の所為や。余計なことしてくさりおってからに…
ああもう、志月の話も聞こえんくらい何かがうるさなってんねんけど。何なんこれ…

「……たり?ねえ、忍足ってば!」
「はっ?」
「話、聞いてなかったね?そこまで喜ぶとは…」

ああ…せやね。俺らしゅうないくらい喜んどったんかもしれへん。志月に言われて初めてそう思うとかどないなってるんやろ俺。
変、変や俺。今まで理解しとったはずの自分が分からんくなり始めとる。たった一つの事で、ちょお「映画に行こ」て誘われただけやのに。
心臓がえらい激しく動いとる気する。せ、せや、これは観たい映画観れるっちゅう喜びから来とるんやんな、きっと。

「本当にイチオシの映画なんだね」

ドクンッて一番おっきな音がして、どっかから心臓出て来るんやないかっちゅうくらいの衝撃が走った。
何ちゅうか…ポーカフェイスでほんま良かったて思うくらい、受けた衝撃は大きゅうて凄まじゅうてどないかなってしまいそうや。
ドキドキしよるんとか、まだ先の話やのに嬉しゅうて楽しみでたまらんとか、そんなん俺らしゅうないさかい知られたない。
単に映画に誘われただけやん。そないなこと今までだってあって、ただ一回もそれに乗ったことはあれへんけど茶飯事的なことで。

ほな…何でこないに動揺しよるんやろ俺は。しかも予定とか何も考える間もなくオーケー出してしもたんやろか。
いや、予定とかはないねんで確かに。で、観たい映画っちゅうんも間違いあれへんし、そないな話を志月とも何回かはしたで。間違いないわ。
それを瞬時に考えてオーケー出した…わけでも、あれへんよ、なあ。

「忍足?」
「あ、ああ…めっちゃイチオシやわ。宣伝見る限りは、な」
「じゃあ動揺もするか。とりあえず日曜、駅前で十時集合ね」
「ん。分かった」

俺の返事を聞いて安心した様子で席へと戻ってく彼女の背中を見て、心ん中がほんわかなったんが自分でも分かった。
不思議な力持っとるんやと思う、志月は。何でやろか…ほんまにそないな風に思う自分がおったんや。




て、そん後、何や色んなもんが混合してえらい落ち着きあれへんくなってしもたさかい、その辺におった宍戸捕まえて話でも聞いてもらおう思うとったら、
どっから出て来たんか跡部とか避けとった岳人とか…もうええ、いつもメンツまで揃うてしもて丁度今が一番居心地悪い空気になってん。
俺がそこまでの経緯を話した直後やで?何か相槌くらい打ってもええはずやのにシーンとしてくさりおって…!

「……何か言えや」

映画のことでもええ、日曜日の予定がとりあえず埋まったんやなーくらいでもええさかい、とりあえず口開いて何か言えて。
ほんまに揃いも揃って呆けてしもて何やねんっちゅう話や。俺は何もおかしなことは言うてへんし、ホゲーッとされることとかも言うてへんやろーに。
場の空気、ほんまに悪い。ノリのええはずの岳人も宍戸もだんまりや。跡部、鳳とかに至っては何や頭抱え始め……か、樺地まで!
俺か?俺が何か変なことでも言うたんか?いや、そないなことあれへん。俺は普通に話しよっただけで……

「忍足」
「な、何や跡部」
「いっぺん死ね。そんで別のモンに生まれ変われ」
「はあー?」

冷静に落ち着いた表情と静かな口調で何恐ろしいこと言うとんねん!死ぬんもあれやけど、別のもんになれるわけあれへんやん。
そない簡単に変われるんやったとしても俺は俺でええっちゅうねん!十分、自分自身に満足しとるがな!
ようやく口開いたなー思いよったらそないな言葉もろて、当然やけどなー全然嬉しないわ。どっちか言うたら不愉快や。不愉快としか言いようがあれへんわ。

「何で俺が別のモンとかにならなあかんねや!」
「馬鹿だからだ。死なねえと治んねえだろが」
「馬鹿言うな!自分、殺されんで!」
「その前に俺様が直々に返り討ちにしてやるぜ?」

フン!って鼻で笑うみたくした跡部と同時に鳳が苦笑いで顔引き攣らせ、日吉は肩で呼吸なんか溜め息なんかを吐いてくさりおった。
癇に障るんやけど…どうもこの場には俺の味方はおれへんらしく反撃のしようがない。ちゅうか、絶対俺は変なこと言うてへんって自信あんねんで?
せやのにこないな態度取られる理由が分からん。全然分からん。分からへんのに…誰も核心突かんとかどないやねんて。
ぶっすーて顔顰めて、もうほんま何も分からへんねんでーて顔したら教えてくれるんやろかコイツら。もうほんま意味分からん、分からんわ。

「……おい忍足」
「何やねん」
「もっと自分を見つめ直せ」
「見つめ直せ、て…」
「ほら侑士!俺がいっつも言ってることじゃん!」

……岳人がいつも言いよること?

「侑士、ぜってー志月の前じゃキャラ違うし、病気だよ病気!」
「てかさー何で分かんねーわけ?侑士は絶対アレだよなー」

志月、なんか?岳人がいっつも言うことから連想してって、俺自身見直すために必要なもんっちゅうんは。
自分ではよう分からへんとこなんやけど……確かにさっきまでの話の内容は志月んことで、やっぱ志月が関係しとって、ほんで俺は――…

「そない言われてもよう分からんわ」

分からへんて、何で俺自身見つめ直すんに志月が必要なんか、とか、そもそも何で俺がそないなことせなあかんのか、とか。
俺の口から零れた言葉に誰もが愕然と頭を垂れる中、何でか跡部だけはニヤリていつもの嫌な表情を浮かべてこっち見とる。
ニヤニヤしながらこっち見とって……ほんで口だけが軽く文字を紡ぐ。音も無く、ただ動いただけの唇の文字を拾い上げれば――…

「マジありえねーよ侑士」
「馬鹿と天才は紙一重なんですよ、向日さん」
「激ダサ」
「忍足さんが自分に疎いとは思いませんでしたね」
「……ウス」

何や色々言われよる最中、そん悪態吐いた言葉よりも気になった無音の跡部の言葉。
嘘、や。そんなん絶対違うて言うてもええ。今日はたまたま調子悪かってんで俺。岳人がいらんこと言うたさかい、ほんで調子悪いねん。
せやから…そんなんおかしい、て。そないなことあるはずがないて、やって俺らは共通の趣味持つ友達、なんやで?

「……どうかしたか?侑士」
「……何でもあれへん」

こんだけ心で否定しても何でやろか納得出来ひんくて何度も何度もまた否定しよるけど…それでも心に何かが残る。
嫌なしこりみたいなもんや。酷う引っ掛かって、まるで蜘蛛の巣が体のどっかに引っ付いたみたいな感覚や。気持ち悪い。
せやけど…やっぱ何か違うて、おかしいて思いよるさかい変な気分や。友達やのに、いや、友達としては……そう、なんやろうけど。


話は知らん間に一段落ついたみたく、それ以上の続きみたいなのは無かった。
大体、適当に相槌くらいでええ話やってんから別にここまで引き伸ばすこともあれへんかってんな、て思いながらも考える。
なあ…どないやねんな、志月とおる時の自分て。どんなんなんやろか。志月ゆいとおる時の自分っちゅうんは。
人として逸脱したよなもんになるわけでもあれへんやろーに。せやけど…俺らしゅうないん、やろか。

どんどん話題は流れてって、そん中で適当な相槌を俺は打ちよるけど頭ん中はそればっか。
岳人の所為で調子悪くなったはずやのに……今は跡部の言葉でプラスして余計に調子悪なった気するわ。

日曜…日曜な。まだちょい時間あるさかい、それまで自分なりに考えるやろか。
ちゅうか、ただ映画観るだけなんやけど何着てけばええんやろか。いくら持ってけばええかいな。お礼も…何かしたらんとあかん、よな。
色んなもんがグルグル回って、色んな感情がグルグル回りよるわ。こんなん、初めてやないか?

ふと、視線が急に現実に戻って来たような感覚と共に見えた跡部の顔。
まだニヤニヤ笑うとって、それにムカッてした自分がおったわけやけど…コイツがまた無音の言葉を投げ付けたさかい首を小さく横に振ったった。



――すきなくせに。



2008.09.16.
リライト 「君と居る時の自分」
氷帝三年R誕生祭3、出展作品


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