つい最近まで今のままでも十分だと思ってた。このまま時間が流れて「いずれ」でもいいと思ってた。
はぐらかす彼女は先を見ることをせず、それならそれで動くまで我慢しようかとも思った。
だけど、満足出来なかった。今も俺だけのために待つ彼女が居るにも関わらず、だ。
それが唐突な決意の始まりで、俺は今からもう一つの正念場を迎える――…
俺が選んだドレスに身を包んだ彼女は、欲目でも無く美しかった。
敢えて選んだ純白のドレスは意外にもよく合って…思惑通り、ウエディングを匂わせるものとなった。
なのに彼女といえば「日頃、黒スーツばっかだからたまにはいいね」で終わらせてしまった。
だが、今はもう…そんなことすら浮かんでないだろう。
「……いつまで泣いてるつもりだ?」
驚かれることは覚悟してた。もしかしたら反論するんじゃねえかとも思った。
だけど実際、アクション起こして分かったことは想像とは全く違う彼女の行動。昔のままの彼女がそこにはいた。
怯むことなく立ち向かう姿勢は遠い昔に怒鳴り散らしたあの時と同じで…だから、その場で決めた。
「泣くほど唐突だったか?」
俺にはコイツしかいねえ。忍足の言う通り、運命があるとしたら彼女しかいない。
「そりゃ…悪かったとは思っちゃいるけどな」
本当は順番にこなしていくつもりではいたんだ。まだ挨拶にも行ってねえし両親にも会わせちゃない。
もっと言えばまだまともに二人で出掛けた例もなくて、ワガママの一つも聞いてやってねえ。
ずっと持っておいた指輪の出番もまだまだ先の予定で、時にはその予定すら危ういんじゃねえかとも思ってたくらいだ。
期間が違う。時間が違う。ようやく同じ時間を共にし始めたばっかだったことくらい分かってた。それでも…
「俺にはお前しかいない。だから受け取れ」
セーブが利かないんだ。頭で分かっていながらセーブするだけのブレーキが壊れちまってる。
スーツのポケットに仕舞い込んでた指輪は飾らない彼女をイメージしたもの。
それを目の前に置いて彼女が受け取るのをただ待つ。
俯いてタオルを顔に当てたまま、肩は揺れてる。情けないしゃっくりは狭い部屋に響く。
「ゆい」
この部屋に不似合いな格好で相手は泣いてて、それでも必死にプロポーズする俺はどう見えるだろうか。
「……け、ご」
「俺はあの場ですぐに式を挙げたいと思った」
「……けいご」
「怯まないって言ったお前は最高にカッコよかった」
「……っ」
「だからこの先もお前と共に過ごしたいと思った」
いや、どう見えても構わない。どうでもいい。ただ、欲しいものは絶対に手に入れる。
「わ、たしっ、こわ、かった…っ」
「あの場所か?もう二度とあんなとこには出さねえよ」
「ちがう、先…景吾の、横、わたし、違うって…思っ」
「落ち着け。ゆっくり話せ」
零れる声がしゃっくりに阻まれて言葉になってない。
まだ泣いてるのか、顔をタオルで乱暴に拭いて大きく深呼吸する彼女は、まだ一度も俺を見てない。
「ゆい」
「……この先、景吾の横にいるのは、私、じゃないと、思ってた」
「何でだ?」
「分からない、から、この先は、誰も」
「……バーカ」
乱暴に掴んだのは彼女の手と彼女自身に取ってもらいたかった指輪。
無理やりに押し込んでやる。とはいえ、寝てる間に測らせてもらったから間違いなく彼女の薬指に合うはず。
「俺には分かってる」
ほらな、大きくも小さくもない。ただピタリとはまった指輪を見たら一目瞭然じゃねえか?
「この指輪が証拠だ。この先、俺の隣にいるのはお前しかいない」
ようやく顔を上げた彼女はボロボロになってた。化粧も流れて…普段、台所に立つ時と同じ顔。
狭いシングルベッドの中で抱き締めて眠る、いつもの彼女。
「忘れてねえだろうな。俺の誕生日だぜ?」
「……ん」
「俺の隣に一生いて…毎年この日祝えよ」
そのためだったら何でもする。約束通り家事も手伝う。死ぬまでずっと。
「景吾…」
「何だ」
「誕生日、おめでとう、」
「有難う」
「……私、を」
「ああ」
「これからも、隣、に、置いてて」
――やっと、聞けた。
「長い…期間だった」
それでも諦められなかったもの。ようやく手に入れた彼女を抱き寄せれば甘い香りがした。
初めて触れた時と同じ。思っていたよりも温かくて柔らかい彼女をやっと捕まえた。
「……それ、前も聞いた」
「お前に惹かれたのは13の時だ。そっから考えたら長すぎるだろ」
もう離すことはない。
気付けばそのまま彼女をベッドに引き摺りこんでいた。
Let's congratulate it by the best!
主要メンツ誕生祭2011 「未来から先へ」
2011.10.21. みるくさまへ捧げます。
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