テニスの王子様 [DREAM] | ナノ

夜は夜の魅力があるネオン街。嫌でも隣にコイツが居たら目立つわけで…こんなに殺気を浴びながら歩くのは久しぶり。
それを自覚してるのかしてないのか、相も変わらず私の手を取ったまま平然と歩く跡部の気が知れない。
「離したら逃げるんだろ、どうせ」とか明らかに私が逃走すると予測したヤツは勝手な理由で手を握ってるわけだけど…
どうしてだろうか。握る手は物凄く優しいものに感じて、酷く熱を帯びているように感じた。



3年8ヶ月
-空白期間-



いい加減、行くアテもないようなら解放して欲しいんだけど。内心、そんなことを思いながら溜め息を吐く。
もう随分長いこと無駄に歩かされてる気がするのは私の気の所為なら、こんなに足が痛くなったりしないと思う。

「ねえ、何処まで歩くつもり?」
「さあな」
「って、明日も仕事なんだけど!」
「俺だって仕事だぜ?」

んなこと知るかよ!って叫んでやりたかったけど少し自粛。ただでさえ目立ってるのに叫んだら余計に目立つ。
それに此処で跡部に罵声なんて浴びせたら横を擦り抜ける女の人、前後左右から見つめる女の人に殺されそうな勢いだわ。
何たってコイツは相変わらず小奇麗な顔してんのか…嫌になる。少しはオッサンになっててもいいものの。

「……何見つめてんだ志月」
「見つめちゃないわよ」
「そうか?結構視線が熱かったぜ?」
「……寝言は寝て言いなさいよ」

顔を見てたのは確かに事実。そこは認めてあげるけど少なくとも熱く見つめた覚えはない。
と、いうよりも…何を好き好んでこんな目立つヤツと一緒に歩かなきゃいけないんだか。また溜め息出てしまった。
下手に同僚と飲みに行くよりもキツいんだけどコレ。特に楽しく会話なんかもしてないわけで。

握られている手の熱がどんどん移っていく。私が熱くなっているのか、跡部が熱くなっているのか分からない。
ただ自然と手は繋がれていて、でも手を引かれるように歩く私はまるで子供のように思える。
多少の抵抗は残っていて、足取りは決して軽いわけでもなくて、下手したらうな垂れて歩いているようなもので。

「……!ちょっと跡部!」
「アーン?」
「手!ちょっと手!」

ぼんやりと溜め息混じりに歩きながら不意に変わっていった手の握り方に異議を申し立てようとすれば、
跡部は冷静に、そして昔と変わらぬ何とも意地の悪い笑みを浮かべて笑った。口先だけの笑い、鼻で笑うってヤツ。
どう考えたって無駄に手を繋ぐこと自体が有り得ないってのに、何たって…指を絡ませる必要があるのか。
付き合いたてホヤホヤもカップルはしても、友達未満でしかない私がコイツにされる理由はない。
それを主張してやろうかと思えば軽く言葉を被せられてこっちの意見も聞きやしないときた。

「何でこんな繋ぎ方――…」
「こっちの方が楽だろ?逃げられる確率も低い」
「逃げるとか言――…」
「何だ?照れてんのかよ」
「そういう問題じゃな――…」
「そうだよな。お前、相変わらず幸薄いヤツだしな」

幸薄いヤツで悪かったな!てか、昔から幸薄かったわけじゃないし!アンタの幸が濃かっただけじゃない。
トラックに山積みにされてく誕生日プレゼントやらバレンタインのチョコやら、濃すぎにもほどがあるって!
会社に勤め始めてもまだソレなのか?って言ってやりたかったけど「当然だろ?」って言われるのが癪だから聞かない。

ほら、また周囲の女性の注目度が上がってく…殺気が更に恐ろしいものに変わってるのが分からないのか?
「え?あの子の彼氏なわけ?」「かなり不似合いなんですけど」みたいな目とかされてる方の身にもなりやがれよ!
視線が痛いのを感じてるのは少なくとも私だけ。跡部は平然と歩いて……って何処まで歩かされるんだよ。

「幸が薄いのは分かった。仕方ない」
「あ?今、こうして幸上げてやってんのに気付いたのかよ」
「逆に下がってるっつーの!そうじゃなくて!何処まで歩く気なわけ?」

ネオン街は少しずつ遠ざかって、少しずつ明るい場所から離れている気だけはしている。
何ていうの?千鳥足で帰路に着こうとしている酔っ払いが道端で吐いちゃうような場所に突入しそうな…
こんなのでも夜道は危ないっていうからこの辺は絶対に歩かずタクシー捕まえるって気持ちの場所だよ。

「……お前、自分んちの道も知らねえのかよ」
「は?」
「このまま真っ直ぐ行って右の通り、その奥のボロマンションがてめえの家だろ?」
「ボロとか言うな!」

不動産で低家賃かつ少しだけ便利の良いとこって探してたら丁度良いのがあっただけでボロとかそんなの関係ない。
いや、確かにボロかもしれないけど住めば都。好き放題出来る時点で天国みたいな住処なんだよ。

「……何で家、知ってんのよ」
「俺のマンションがたまたま向かいにある」
「向かい…って、あのウチの日当たりを極端に悪くしてるアレか!」
「知らねえな。てめえの家の日当たりなんざ」

大通りに面した場所にある高層マンション、家賃は計り知れないと思われる物件。
その裏手裏通りに位置してるのが低層にして築何十年だよって話の私の住むマンション。家賃数万の物件。
お互いに向き合うようにしてベランダがあるわけだけど、高層マンションの所為で日当たりは最悪。
随時カーテン引いてないと向こうから見えるっていう話で…んなとこに跡部が居たとは…

「ちょっと待って。跡部が住んでるのは分かったけど何で私…」
「お前、よく寝坊して慌ててゴミ出ししてんだろ」
「は?」
「けたたましく動いてるヤツを見てみればお前だった」

そこまで弾けてゴミ出しなんかしてないわ!けたたましいとか…何変なとこ見つけてんのよ!
確かに月曜日の可燃ゴミの日は前日が休みなもんだから寝坊気味で、少しだけ慌ててゴミ出しはするけども…
決してけたたましく動いてるわけじゃないし!多少は慌てててもそんなけたたましいとかは!

「仕切り直しは俺の部屋にするぞ」
「はあ?何で…」
「じゃあ、お前の部屋でもいいのかよ」
「そういう問題?」

てか、何でアンタと二人で仕切り直しとかする必要があるのかって話で…眉を顰めて跡部を見るものの表情は変わらない。
正直言って募る話もなければ話題なんかも特に提供出来るような共通点だって無い、気がする。
首を捻って頭を傾げて。そして何となくあの場から逃げ出したかったのかも、という考えに発展したのは例のマンションに着く頃。
というよりも…本当に私のマンションの向かいに住んでたわけね。目と鼻の先ってこういうのを言うんだなーなんて。

「酒はある程度あるし、つまみになるようなモンも――…」
「ちょっと待て」
「あ?」

何上がってくことを決定事項にしてんのよ。私は一言だって了承してない、と跡部に訴えてもまあ無駄で。

「別に襲うとか有り得ねえし」
「んな心配はしてないし」
「だったら別に気にすんな」
「いや、だからそうじゃなくってね」

気にする気にしないの問題じゃないんだってば。私、明日は仕事。跡部も明日仕事なんでしょう?
無駄に労力使う必要なんかなくて家でのんびり過ごしたり、早く寝たりとかしてもいいわけで…

「……お前、忍足が結婚したのとか知ってるか?」
「嘘!」
「本当だ。ついでにお前と仲良かった笹川――…」
「祐希?祐希も結婚?」
「いや、婚約したらしい。俺の会社のヤツと」
「嘘!私まだその話聞いてないんだけど!」

え?何その話題。いや、そろそろそんな話も浮上してもおかしくは無い年頃なのかもしれないけど…え、何で跡部経由なわけ?
物凄く驚いてたら「とりあえず俺のとこに来て飲みながら話そうぜ」って流れになって。

「オラ、入れよ」

私の部屋の日当たりを悪くした高層マンションの最上階、案内されるがままにやって来てしまった跡部の部屋。
一歩踏み込めば入ることが可能なのにその一歩が何故か踏み込めずに立ち尽くす。息を飲む思いで。

「……チッ。ガキじゃあるまいし」

未だ繋がれたままだった手が引かれてバタン、という音を背中で聞いて私は跡部のエリアに踏み込んでしまった。
私の一か月分の給料でも住めないようなマンションの一室。跡部が更に手を引くもんだからどんどん中へと入っていく。
え?何かおかしくはないかい?私、人数集めの合コンに呼ばれて、何故か跡部が居て、何故かそれに連れられて店を出て。
どんだけ展開すれば気が済むんだろう。あまりに展開が速すぎて今更ながらに頭が回っていない気がする。

「適当に座れよ」

一人で住むには広すぎるだろ贅沢な!と言ってやりたくなるような部屋に案内された私。
落ち着いて座るには本当に広すぎて綺麗すぎて生活感なさすぎて…そのままボーッと突っ立ってて…怒られた。





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