テニスの王子様 [DREAM] | ナノ

Primavera

「仁王知ってる?この雨が上がると格段にあったかくなるんだって」

と、下足箱で偶然出くわした同級生と他愛もない会話を持ち掛けた。
外ではザアザアと激しい音を立てて雨が降り、少なくとも私は立ち往生している状況。あれだけ傘を持つようテレビで言ってたのに信じなかったのは少なくとも朝の時点ではカンカン照りだったから。急に天気が変わるなんてないと思ってたからだ。

「知っちょるよ。気象予報士がこぞって言っとったからのう」
「やっぱ知ってるか」

と、いうことは彼も午後から雨になるだろうことを朝から知ってたわけだ。

「俺が何処の部におるか知っててソレ聞きよるんか?」
「あー...そういえばそうだね」

鞄から折り畳み傘を出してポンッと開く彼は運動部で当然、今日は何も出来ずに帰るんだろう。
シンプルな傘、目の前でクルクルと回す行動に何か意味があるんだろうか、とか思いながら見ていたら彼がニヤリと笑った。

「志月。お前、傘持って来なかったんじゃろ」
「うっ、」
「大方、傘を持った友達が通り掛からないかなーって思って待っとるんじゃろ?」
「ううっ、」

そう、まさにその通りですよ仁王さん。
大体、彼が不思議な顔をしてこっちを見てたから「今日もイイ天気だね」みたいな会話でやり過ごそうと考えて声を掛けただけ。その会話がある程度流れたら「バイバイ、気を付けてね」とさよならの挨拶をして終わらせようと思ってただけ。じゃないと天気予報を信じなくてぽつんと立ち往生してるって...何か恥ずかしいじゃない。そこは出来れば指摘して欲しくなかったなあ。

「なんで気付くかなあ」
「そんなの簡単じゃ。カレシもおらん志月がぼっちで待ちぼうけ。傘が無いことくらいすぐ推測出来るぜよ」
「.........言い過ぎ」
「でも間違うとらんじゃろ?」

ええ、確かに間違ってません。間違ってませんけども。
込み上げて来る感情を抑えつつ、キッと仁王を睨んでいるとニヤニヤしていた表情が柔らかくなった。

「駅まででいいか?」
「へ?」
「そこまでで良ければ入れちゃる」
「え?」
「そっから先はまあ濡れるじゃろうけどズブ濡れにはならんじゃろうて」

おいでおいで、と手招く仁王。それって...いいんだろうか。そんなことになるんなら傘貸してあげるから代わってよ!とか周りの女子に言われそうな気がするし、めちゃくちゃ視線を集めそうな気もするんだけど。

うーんうーんと本人を目の前に悩んでれば甘い笑顔、甘い声で彼は囁いた。

「いいから、こっち入りんしゃい」


の雨

2012.03.30.



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