テニスの王子様 [DREAM] | ナノ

思いかげないハプニング
(短編シリーズ 赤也)

.........人生初の無断欠席、サボリとやらをしてしまった。
次のバス停でも切原くんは降りるとは言ってくれなくて、次の次の次の次の...と着いたのは最終停車地点。
スーツの人たちも皆降りてしまった。制服の私たちだけ此処まで来てしまった。
運転手さんは涼しい顔で「長らくのご乗車お疲れ様でした」と言って回送車として去ってった。

「結構辺鄙なとこまで来たなあ」
「.........折り返しは、あ、あと二時間後!?」
「志月すっげえ声。叫んだり出来るんじゃん」

と、切原くんは特に気にした様子もなくケタケタと笑う。
二時間、今から二時間待ってバスに乗り込んでも午後の授業にしか間に合わないってこと気付いてるのかな。
こうしてる間にも授業は進んじゃうし、先生からのお説教も確定して大変なことになっちゃうんだよ?
でもタクシー代は無いし...歩いて戻るにもそれこそ時間が掛かりそうなとこまで来ちゃって...どうしよう。

「大丈夫、ちゃんと言い訳は俺がしてやるって」
「.........そういう問題じゃ、」
「じゃあ話戻すか?」
「え?」
「バスの中で言ったこと、マジだから」

ニッと笑って目の前に立ってる切原くん、何故か私は後退りしてしまった。

「あ、そういうのって地味に傷付くんスけど」
「ご、ごめん...」

さっきのバスの中、驚くくらいしれっと告げられた言葉は俄かには信じられなかった。
だって、停留所を過ぎたら手は普通に離されて「結構イイ天気だな」くらいの独り事を彼はこっちを見ながら呟いてただけ。その言葉が嘘なのか本当なのか、冗談なのか本気なのかも分からないまま此処まで来たんだ。ある意味、こっちは聞かなかった事にしようくらいの感覚でいたのに...

「ごめんも傷付く。そんなに俺が怖い?」

.........正直、今は結構怖いです。よく知らないんだけど植え付けられた恐怖もあるし。

「強引だったのは確かに悪かったけどさ、やっぱチャンスは活かしたかったし」
「.........チャンス?」
「言ったろ?いつも同じバスに乗って会えるの待ってたって」
「.........でも、会ったこと、あったっけ?」

立海の生徒は時々見掛けた気はしないでもないけど少なくとも切原くんを見掛けたことはない気がする。
それに...確かテニス部に入ってるから朝練あってるんだよね。だったら余計に会える機会はない気がするんだけど。

「そこなんだ!」
「え?」

よくぞ聞いてくれた!と言わんばかりに切原くんの目に光が宿った。

「朝練ある時は真田副部長怖すぎて無理なんだけど、ない時は結構イイトコ来てたはずなんだ」
「は、はあ...」
「けどあの時間帯ってバス多いじゃん。だから同じバスに乗れてなかったんだ」

.........やっぱり会ったことなかったんだ。

「でも今日は会えた。だからチャンスだと思ったんだ」

いや、でもそこで「志月の寝坊に感謝だな」と言われても困るんですけど。
個人的には色々慌てたくないから寝坊はしたくないし、落ち着いて学校には行きたい。寝癖もない状態で行きたいし。
というより...何か色々変なんだけど...そこって敢えて聞いてもいいのかなあ。

「.........あの、素朴な疑問、なんですけど、」
「ん?」
「私たち、同じクラス、ですけど」
「おう。去年から一緒のクラスだよな」

そうです。そうなんです。でも、今遠回しに聞きたかったことがあるっていうことは彼には分からなかったらしい。
要は学校にさえ行ければ毎日顔を合わせるのでチャンスとかそういうのは別に...と言いたかったんです。

「多分、成績順でクラス編成されてんだぜ」
「あ、まあ...専攻が同じなら大体そうだと...」
「そう。志月と俺の成績、足して÷2したら平均になるんだ絶対」
「いや、そこまでは...」
「何なら今度試してみるか?絶対平均だって」

うーん...何かこう、色々ズレてる気はするけど、でも...こういう人だったんだ。
関われる人じゃなくて関わることもなかったから知らなかった。天真爛漫というか何というかそういう人だったんだ。
そう見えたら...少しだけ可笑しくて笑ったら彼も釣られて笑った。

「お腹空いてね?」
「そうだね」
「よし、どっかに何かあんだろうから行こうぜ」
「うん」

少しだけ苦手じゃなくなった。だから...そこから始めさせてもらってもいいのだろうか。


※2012年もの、赤也


(4/5)
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