あたしが守りたかったものも、もう駄目なんだと、手遅れだったんだと気づいたら、なにもかもがどうでもよくなった。ただ目の前で異形の姿に変わり果ててしまったさやかとこうして指を絡めるのも不思議と安心する。
さやかの脚は人間のそれではなくなった。深く暗い海の底を静かに見張る人魚。声を失って、心を失って、すべてを閉ざしたさやかにはもうなにも届かない、聞こえやしない。
腹を貫いた剣は見た目を裏切らない冷たいく固い鉛。ただの重い金属だった。
倒すべき存在、もしくはあたしたちの果ての存在、魔女。魔法少女の最期の姿。それすらも綺麗だって、お姫様みたいだって、ああ、やっぱりさやかだよって。敵だって魔女だって、さやかはさやかだよ。
「さやか、」
連れてってよ。一人はやだよ。『寂しいもんな』なんて大きく出たよな。本当に寂しいのはあたしなのに。さやかがどう感じてるかなんて、あたしには全然わかっていないのに。何も届かないんだもんな。
「なあ」
聞こえてないのはわかるけど、これだけは言わせて。
「これからも側にいさせてくれる?」
了解なんて得られる筈がないから、ただの一方的なんだけどさ。魔女でもいいからいさせてよ。友達なんて押し付けみたいな関係じゃなくていいから、側にいさせてよ。
寂しくて一人ぼっちだったのは、きっとあたしなんだから。
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