触れるか触れないか。温もりを肌越しに感じるのさえむず痒くって、空気を吸い込む二つの空き部屋も重たいそれは受け付けたくないみたいだ。底無しの海に飲み込まれて沈んでいくみたいに息苦しい。水を吸い込んだ服が邪魔でしかないのならいっそ脱いでしまおうか。もちろん本当に溺れている訳ではないし、残念ながら露出狂の仲間入りはしたくないから、これはただの冗談として受け止めてほしい。しかしキミに剥ぎ取られてしまうなら、また別の話になるけれど。健全を装いたい性格だからきっとよほどのことがない限りは、そんなことしないだろうけれど、もしかして今のボクたちはボクが想像しているよほどのことかもしれない。ピンチだ。
身体を預けるキミとの体温も、ようやく同じくらいになった。ボクより少し熱かった服越しに触れあう肌は、もうすっかり馴染んで服がなかったら混ざってしまえるのではないかという錯覚さえ起こしてしまっている。
短い息を奪われそうになって体を強ばらせれば、距離を置かれてしまう。すぐ近くまでやって来るくせに、望めば逃げてしまう。
キミもきっとボクと同じだよ。こわいよ。貰えないかもしれない、なんて仮定と、あとはキミと息を共有したあとのこと、とか。考え出したって、結果を見たことがないボクたちには未知のことなんだって。だからボクは先のことなんて考えていないつもりだよ。なるようになっちゃうよ。
「大丈夫だよ」
「しかし……、」
「逃げてるのはキミだけじゃないでしょう?」
「情けなくてごめん」
ボクだって、そう紡ぐはずだった言葉が謝罪で打ち消される。不安に押し潰されそうな豪炎寺くんなんて、きっと雷門のみんなやクラスメイトたちには想像もつかないんだろうな。
望むものは同じはずなのに、手に入らないのはお互い変に慎重だからだと思う。
情けないなんて言うキミは真っ直ぐにボクを見つめるし、逃がす気なんてさらさらないよね。両手首を押さえつけてる手に力が込もって少し痛い。
ボクだってきっとここで解放されたら、全力疾走しちゃいそうだから今のくらいが調度いいんだろうけど。
「いたいよ、」
「ごめん、絶対離さない」
「ありがとう、でいいのかな」
張りつまった空気を緩めるみたいにへらへら笑って見せると、眉間の小刻みだった山が一瞬消えた。ただたゆんだのは頬の筋肉と眉間だけで、ボクを捕らえる両の腕は力強いままだ。痛いけど、なんだか少し安心しちゃう。それでもまだボクは仕掛けていない。受け身のままでは終わらせたくはなかった。
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