今日も私はあなたが好き!






「湘北には女子マネがいるんすね…」

「何、信長羨ましいの?」

「いや、まぁ少し…だって二人とも美人じゃないすか…」


そう言って俺が二人を見れば神さんは「まぁそうだけど」と呟いた。本音を言わせてもらえるのなら、少しどころか相当羨ましいっすよ…なんて言えやしないけれど。なんで赤毛猿のところにあんな綺麗なマネージャーが二人も…我が海南にはいねぇってのに…相変わらず色々なことを含めてムカツクぜ…


「特に右のお方がめちゃくちゃ綺麗っす。」

「…あぁ、なまえね。」

「神さん知り合いっすか?!う、羨ましい…」


かっこいい人の知り合いは美人さんなのか…?世の中はどこまで不公平なんだ?!と騒がしい俺だが神さんは「同じ中学だったんだ」とサラッと言ってのけた。二年の終わり頃に越してきた転校生で当時からとても可愛い女の子だった…と。


そんな会話をしたのがついこの間だったはずだ。初めて彼女を見たのが俺が神さんと観に行ったインターハイ予選だったから。あれからまだ日も経っていない。それなのに…それなのに…!


『き、清田くん、清田くん!』

「…あ、はい…!」

『今日も意味わかんないくらいかっこいいです…!』


えっ、えぇっ…?!と戸惑う俺に無理矢理手に持っていた袋を押し付けると彼女は照れた顔で俺を見上げ口を開いた。


『これ差し入れです、よかったら…午後も頑張ってね…!』


「うちも午後から練習だから、また」そう言って走って海南を出て行くなまえさんの後ろ姿を見えなくなるまでずっと眺めながら俺は考えた。何故だ。何故こうなった。どうしてこんなことに…そして気付く。周りからの視線が痛い、痛すぎる…この視線は、この冷たくて冷気を浴びているかのような視線は…


「また来たんだね、なまえ。」

「あ、はい….」


もちろん神さんだった。俺の手元にあるのは先ほど無理矢理手渡された紙袋で。中を覗けば綺麗な形をしたクッキーが入っていた。その一連の流れをジッと見た後「ふぅん」と呟いて神さんは去って行く。怖い、怖いよ…怖すぎるよ、神さん…


インターハイ予選で湘北と当たった時も。俺は相変わらず「綺麗だなぁ」なんて遠巻きにそう思っていたけれど。ところがインターハイ出場を決めた途端、海南にまでわざわざやってきて休憩中の俺に「清田くん!」と初めて声をかけてきた時は相当驚いたなぁ。


それ以来ちょくちょく合間を見ては今みたいに何か渡してきたり「かっこいい」だの「素敵!」だのそんな言葉をかけてくるなまえさん。いやぁ...そりゃね、あんな綺麗な人にそんなこと言われたら、嬉しい以外の何ものでもないんだけれど、周りからの視線がねぇ…特に神さんが、ね。


同じ中学と言ってはいたけれどそこまで仲は良かったわけじゃないようで。下の名前で呼ぶくらいだから、距離が近いのかと思いきや「みんなそう呼んでたから」という理由らしい。「友達」だと言っていたけれどありゃ友達以上に思ってるだろうなぁって俺はそんなことを考えては怯えているわけです。じゃなきゃあんなに怖くねーよ…


「清田はモテるなぁ、羨ましい限りだ。」

「な、何言ってるすか!牧さん!」

「湘北のマネージャーの、岸本だろ?」


あ、なまえさんって、名字岸本なんだ…って、そんな情報仕入れて少し喜んでる俺どうなんだよ?!またひとつあの人について知れたとかドキドキしちゃってる俺どうなんだよ!神さんにしばかれるだけの末路なんて見え見えだろうが!


「藤真が聞いたら泣くだろうなぁ。」

「藤真?藤真って、翔陽の…っすか?」

「あぁ。アイツ岸本にベタ惚れなんだよ。」


「既に何度も振られているらしいが」という牧さんの言葉を聞いてなんだかとても不思議な感情になる。あの藤真さんを振って俺に会いに来るってどんなんだよそれ…って、自分で言うのもおかしいけどそんなことを考えてしまう。普通はあんな美形に告られたら、どんな女でも落ちるもんじゃねぇのか?なのに藤真はだめで俺はいいってか?


な、なんか、なんなんだこの違和感は…


「岸本は清田みたいなのがタイプなんだな。勉強になる。」

「いやいやタイプなんて、そんな…」

「そうですよ、可愛い犬くらいでしょう。」


い、犬っ?!

突然そんな神さんの声が聞こえて、あまりの辛辣な言葉にひっくり返りそうになった。いやいや、まぁ確かに犬っぽいとか言われるけど!「尻尾振ってるよね、今」とかクラスメイトに言われたことあるけど!でもだからってそんなあっさりと吐き捨てなくても…


「そうか?俺には恋する乙女に見えたけどな。」

「牧さんはバスケのし過ぎです。」

「神が言うなら、そうかもしれんな…」


フンッと鼻を鳴らしてその場を去っていく神さんに俺はなんだか寒気がした。なまえさん、好いてくれるのはすげぇありがたいっす。たとえそれがどんな理由であれ。俺を「犬」として見ていたとしても…飼い犬を可愛がる感じだったとしても。でも、なんて言うか…自分がどれほどの美貌なのかをもう少し自覚してくれると尚ありがたいかなぁ…とも、思います。







好きでいてもらってこんなこと図々しいですが


(もう少しこそこそ会いに来てくれたら…)





不憫なノブちゃん物語です(笑)





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