愛で全部乗り越えてみせる






「今日の練習はここまで。」


田岡監督の声にその場に座り込んだり寝転がったりする皆。俺はカラッカラに渇いた喉を潤しにドリンクへと向かえば「お疲れ様」なんて可愛い声が聞こえてきた。


『はい、これ。』

「なまえさん、ありがとうございます!」


ドリンクと共に渡された俺のタオル。綺麗に畳んである。照れ臭そうなその表情があまりにも可愛くてついつい頬が緩んでしまう。しかし今は国体の合宿中なんだと思い出し、自分に喝を入れるようにして表情を元に戻した。いやダメだよ俺。後が怖いからニヤけるな。


『清田くん本当に運動能力が高いっていうか…見ててワクワクしてくるの。』

「いやぁ、そんな…」


神さんも藤真さんも見てるから!って自分自身に言い聞かせたのにも関わらず、そんなこと言ってくれるのだから嬉しい以外他ない。ついつい顔が熱くなるのが自分でもわかって、どうにかせねばと視線を周りへ移した。案の定ジトッとした目でこちらを見る藤真さんと目が合って、途端にここは北極かってくらい寒くなる。


『よし、彩子。私これ持って行くから!』


目の前のなまえさんはバタバタと片付けを始めて、とてもじゃないがひとりでは持ちきれ無さそうな量を抱え出した。咄嗟に俺が手を差し出せば少しよろめいたなまえさんが俺の腕へとダイブしてくる。


『うっ、わぁ?!…あ、ごめっ…!』


いえ、なんて言いかけたところでお互いに動きが止まった。


あまりにも至近距離で目が合いなまえさんの顔が目の前にある。鼻息が少しかかるくらいの近さで目の前にある艶々な唇に俺はゴクッと息を飲んだ。


や、やばいんだけど…いい匂いする…ど、どうしたら…


どうすることもできなくて呼吸が速くなる俺は、とりあえず距離を取るべきだと少し後ろへ…離れようとした瞬間、ものすごい衝撃が体全身にかかり勢いで地面へと吹っ飛んだ。


…いやいや!痛すぎる!何だよ!


「…ふざけんな、馬鹿野郎。」


地球上が凍りつきそうな、そんな恐ろしい声色の台詞が聞こえて顔を上げればそこには心配そうな顔でなまえさんを覗き込む藤真がいた。


「大丈夫か?これ、俺が持つから。」

『あ、はい…き、清田くん、大丈夫?』


どこかぎこちなく、そして顔を真っ赤にしながら俺に駆け寄ってくるなまえさん。倒れ込んだ俺と目が合うと綺麗な瞳の奥がゆらゆらと揺れているように見える。俺もつられるようにして顔が熱くなるのがわかる。さっきまで、この顔があんな目の前にあったんだ…息がかかるような距離で。もう少しで、触れちゃいそうな、そんな距離で…


『本当にごめんねっ…』

「だ、大丈夫…っす、」


「よかった」なんて照れながら笑うなまえさん。荷物を持って俺らを見下すようにして無表情で立っている藤真さんの元へ駆け寄ると「なんてことするんですか」と怒っていた。別に?軽くぶつかっただけだよ、なんて王子様スマイルで笑う藤真恐ろしすぎだろ。役者になれるくらいの演技力だ。恐ろしい…











「はい、これ信長の分。」

「…神さん、俺これ…」

「食べるよね?食べれるよね?そうだよね?」


今日は練習が遅かったからと駆けつけた父兄が作ってくれた夕飯。俺の嫌いな食べ物をこれでもかと皿に盛りつけて運んできてくれた神さん何なんですか…鬼畜にも程があるし、なんかやることがこまごましてる!


圧により食べる以外選択肢をもらえなかった俺は、どうやら相当神さんを怒らせてしまったらしい。体にいいからとみんなは果汁100%のジュースがコップに注がれているのに俺のには水道水が入っていた。いや、酷すぎる…やることが汚いぞ、神さんめ!


『清田くん食べてる?おかわりあるからね!』

「は、はい!」


様子を見にやってきてくれるなまえさんはエプロンをつけていて本当に可愛い。気にかけてくれるのは本当にありがたくて幸せなんですが、なんせ周りからの…いや、でももう慣れました。こんな幸せを周りに邪魔されてる場合じゃないっす!


「余計なこと考えないでね。食べて?」


拳をぐっと握りしめて、誰が何と言おうと俺はなまえさんのことが…!と思っていたら隣からしらっとした神さんの声が聞こえて一瞬で心が冷めました。も、もう!神さん、ほんっとに…


「お前ほんっと無茶しすぎ。休んでろ、変わるから。」

『大丈夫ですよ、三井さん!あ、…もう。』


台所の方からそんな声が聞こえて思わず視線がいってしまう。食べ終わったらしい三井さんがなまえさんの手から強引にもスポンジを奪い取り皿を洗い始めた。


「飯まだだろ?食べてこいよ、倒れるぞ。」


そんなやりとりをしている2人が、台所にいるってこともあってなんだか「夫婦」みたいに見えてきて自分の胸が痛くなる。あぁ、もう…モヤモヤしながら食べる自分の苦手な食べ物たちはそれはそれはもう中々喉を通りません。


「ノブナガくんは敵が多くて大変だね。」


ハァ、とため息混じりに下を向いていたらいきなり隣に誰かが座る音がした。それと同時に聞こえてくる台詞。楽しそうな顔の仙道が俺の隣に座りながら皿洗いをどっちがやるか揉め始めたなまえさんと三井さんに視線を向けて「楽しそうだなあの二人」と呟いた。


「な、何だよ。別に仙道には関係ねーよ。」

「まぁ怒るなよ。俺はノブナガくん推しだから。」


応援してるんだよ、これでも…なんて意味わかんないことを言われた俺とそんな仙道をジトッと睨む神さん。


「仙道、余計なこと言わないでくれる?」

「余計なことかな?邪魔者は静かにしてないとね。」


仙道と神さんの睨み合いには何故だか火花まで散りそうな勢いで。その間に揉まれて居心地の悪さを感じたのだった。











ちっとも心が休まらない

(とりあえずエプロン姿のなまえさん可愛すぎ。)










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