飲み会編






「それじゃ、花道達の成人式を祝って…!」


「乾杯」という言葉が響き渡りグラス同士があらゆるところでコツンと音を鳴らす。宮城さんの一声でグラスを合わせるなりぐびぐびと一気にビールを煽ったのは三井さんで「うめぇなぁ」とかなんとかやたらと大人ぶっている。


「なまえ、酒飲めんのか?」

『何言ってんの花道、私はもう誕生日迎えたし立派に成人だよ。』


そう言いながらオレンジジュース片手に「そういう意味じゃなくて…」と呟く花道を無視して、手に持っていたカシスソーダに口をつける。あまさと爽やかさが一体となったそれはスッと体に染み渡りなんとも言えない美味しさで心が満たされた。くぅ…二十歳になって数ヶ月…ひとつ言えることは…


『みょうじなまえ、お酒が飲めるくらい大人になりました!』

「…何?お前もう酔ったの?」


ジッと見つめてくる三井さんがそう言うものの無視してカシスソーダに口をつける。くぅ、美味しい…昨日成人式を終えたこともあってか、控えめに言って最高です…


『ごめんね、花道。先に大人になっちゃってさ…』

「別に酒が飲めるから大人ってことはないぞ!」


四月一日だなんて、早生まれの最後尾に生まれた花道。まだ未成年の彼はお酒に手を出せずチビチビとオレンジジュースを飲みながら相変わらず片思い中らしい晴子の方へと視線を向けている。ったく、変わらないなぁ…この男は…


『チームの方はどうなの?試合出てるっぽいけど…』

「まぁこの天才には少し窮屈かもしれねーな、ぶっちゃけもっと上のチームでもやっていけるってのに…」

「…どあほう。」

「な…んだと…、ルカワめ!」


花道も流川も共に卒業後もバスケットを続けて、花道はBリーグ、流川は先日アメリカから帰国して何故だか二人は同じチームに所属しているのだった。もう、なんだかんだ言って仲良しなんだから…


『いやぁ、本当に嬉しい限りだよ…マネージャーとして言わせてもらうけれどねぇ、まさかこんな凄い代にマネージャーをやれるなんてねぇ、思いもしなかった!』

「…なまえ、酔っ払ったのか?もうやめておいた方が…」


何故だか私の手からグラスが無くなり、あぁ!カシスソーダ!と花道から奪い返す。ったく、何するんだこの泥棒め…


にしたって、成人式を祝ってくれる高校の部活の先輩たちって…前から思ってはいたけれど湘北ってやっぱり最高じゃないか…?あぁ、三井さんまたビール飲んでる…ギリギリ就職決まったからって浮かれてるなぁ…?


『三井さ〜ん、カシスソーダ飲みます〜?』

「っ、お前、たった一杯で酔っ払うなんて…」


わざわざ隣に来てあげたってのに、なんだか不満そうな呆れたような、そんな顔をしながら呟く三井さん。あぁもう…本当に…


『、みついさ〜ん……ふふっ……』

「…?!ちょ、おい!みょうじっ…!やめろ!!」












流川楓は不機嫌であった。同学年のマネージャーであったなまえが酒を飲みながらヘラヘラと桜木と共に笑っているからだった。恋人同士でも好き同士でもない二人だが、流川は密かになまえに良い印象を抱いていた。久しぶりに再会し美しさに磨きをかけたなまえはとても眩しく、高校時代よりも余裕のある今、流川はなまえから目が離せずにいたのだった。そして彼女は席を立つなり覚束ない足取りで三井の元へと向かった。そしてあろうことか顔を真っ赤にしながら彼に迫っていくではないか。


「お前っ、おい!やめろって…!」

『ふふっ…、みついさ〜ん……』


ふにゃふにゃとした笑顔で笑うなまえは三井へと抱きつくなり「ちゅー」と言いながら唇を尖らせて三井の頬へとそれを押し当てたのだった。


「……!」


目の前で起こった出来事に流川はガタッとその場に立ち上がった。しかしそんな彼に気付く者はひとりもおらず、みんなしてなまえと三井を見るなり目を丸くして固まっていた。


『やわらかーい……ねぇねぇ、三井さ〜ん!』

「……、やめろ………」


ふにふにと三井の頬を触るなり楽しそうに笑うなまえ。その光景にどう表現したらいいのかわからないモヤモヤが途端に心を支配しては三井への殺意が湧き上がる。コラコラ!と二人を引き離すのは木暮で、顔を赤く染めて完全にノックアウトされた三井はぼうっとした顔で木暮にされるがままになまえとの距離をとる。


『なんですかぁ、木暮先輩…』

「お、おいっ!みょうじ!やめっ…!」


二人の間に入りなんとかしようと試みた木暮に今度は抱きつくなまえ。そして唇を尖らせて木暮の頬に近づいていく。


「、どあほ…!」


流川はいてもたってもいられなかった。その場から長い腕を伸ばしなまえの着ていたニットを掴むとずりずりと引きずり寄せる。木暮から距離をとってどんどんと離れていくなまえは「あれぇ〜?」と言いながら楽しそうに笑っていた。


『あ、ルカワじゃーん!』

「…オメェ、ここにいろ。」

『なに〜?あぁ、なまえね、カシスおかわりする!』


ヘラヘラ〜と笑いながら頭の上にお花を飛ばすなまえ。彼女とお酒を飲むのは初めてであった流川。まさかこんなにもヘラヘラと笑いながらあろうことかキス魔になるだなんて思いもせず、つい何日か前に誕生日を迎え酒が飲めるよになった流川はなまえの持っていたグラスを一瞬で水が入ったものと入れ替え、残っていたカシスソーダを一気に飲み干した。


「ほら、これ、おかわり。」


気付かぬうちにスッと入れ替えた水をカシスだと勘違いしたなまえはゴクゴクと飲むなり「あれぇ?味薄くなったねぇ」だなんて楽しそうに笑っていた。


『ねぇねぇ、赤木先輩…、』

「…やめんか、みょうじ…」


流川の隣に来たなまえはあろうことか流川よりも通りがかった赤木の足に掴みかかりスリスリと頬を寄せている。離す気はないらしく「お酒美味しいですねぇ」とほぼ体重を預けるようにして寄りかかっている。自席に戻る途中であった赤木は仕方なくその場に留まり「離してくれ…」と懇願するもなまえは「嫌ですよう」と言っては聞かなかった。


「……チッ、」


流川の舌打ちは止まることを知らない。せっかく自分の元へ連れてきたっていうのに、先ほどから変わらずよそばっかりに目が行っている。モヤモヤとしたものに襲われて流川は手元の飲み物をグイッと飲み干す。さすがに赤木に対して殺意を覚えるわけにもいかず、なんとかなまえを剥がそうとする赤木に手助けするため、なまえの首根っこを掴み自分の方へと引き寄せた。


『おわっ…?!』

「いーから、ここにいろ…どあほ…」

『痛いよ〜流川〜…!』


ううっ…と泣き真似をしながらしょぼくれるなまえ。舌打ちが止まらない流川はピタリと自分の隣になまえを置きギロッと目を光らせる。「楽しいねぇ」「この間誕生日だったよね?」「お酒美味しいねぇ」とおしゃべりが止まらない彼女の話にコクコクと相槌を打ちながら顔を真っ赤にヘラヘラ笑うなまえの世話を焼く。流川にしては珍しいにも程があるレベルで穏やかな表情でなまえを見つめる為、察しのいい周りの先輩達は二人の空気を壊して彼女にロックオンされないようにと会話をヒソヒソ話に変えて、なるべく席を立ったり目立つような行為をしないようにと息を潜めていた。


『流川頑張ってるねぇ、かっこいいなぁっていつも見てるよ〜!』

「…今度、見に来れば?」

『えぇ〜?!いいの…?!』


ひょいとチケットを渡す流川。あまりのスマートさ、そして用意周到さに周りはヒソヒソと「おぉ…」と声を上げる。それは入手困難と言われるほど価値のある、今や日本の二大スターとなった「仙道 vs 流川」の戦いが行われる予定の仙道彰が所属するチームとの公式戦のチケットだったのだ。


『すごい…ありがとう…絶対見にいくよ!』

「うす、待ってる。」

「おい、キツネ!せっかくならもっといい席渡せよ!なまえ、俺からプレゼントしてやるからルカワから貰ったものなんか……」


先輩達の努力も虚しく大きな声で割り込んだのは桜木で、流川となまえの間に強引に入るなりなまえの手元にあるチケットを奪い取ると「待ってろ、最高の席を用意する!」と気合い充分に意気込む。そんな桜木を見て何を言っているのか理解不能ではあるが楽しそうなその様子になまえは「花道〜」と彼に抱きつくのであった。


「ぬっ……?!」

『花道〜、えへへ…会えて嬉しいんだぁ…』


ヘラヘラと笑いながらギュッと彼に抱きつくなまえは目の前でそんなものを見せられた流川に思いっきりで腕を掴まれて「痛い!」と声を上げる。


「どあほう…!何してんだ、オメェは…!」

『もー…流川ー…痛いでしょう…?!』


バランスを崩し流川の目の前で倒れ込むようになったなまえ。そのまま流川の胸に右手を置くと左手は流川の頬に当てられて…


『…もっと、優しくしてよ……』


思いっきりの上目遣いに酔っ払って紅潮した頬、うるうるとした涙目、そして鼻にかかったような色っぽい声、触れられた頬…


流川の中にピシャッと電流が流れその場に固まること数秒。ドサッと自分の胸に倒れ込んできたなまえを我に返って慌てて受け止めると彼女からはスヤスヤと寝息が聞こえてきたのだった。


「お、おい…なまえ…?」


桜木が軽く揺するも反応はなくグッタリと倒れ込み眠ってしまったなまえ。


「……クソどあほう……」


周りがすごいものを見たというような顔で流川を見つめる中、当の本人はどこへどう押しやったらいいのかわからない心のうちに彼にしては珍しく混乱し戸惑っていたのだった。








できることなら君を連れ去って


(めちゃくちゃに抱きてー……)














Modoru Main Susumu
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