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いつか、またいつか…時が経てばまた会えると思ってた。いつの日か、なんてことなしに「久しぶり」だなんて笑って、また私の前に現れるって…

そう信じて… やまなかったのに…














『…っ、はあっ、…はぁっ……』


荒い息を整えながら汗ばむ掌で枕元を探る。目当てであったものを掴むなり慌てて履歴を開いて発信ボタンを押すと同時にそれを耳元に当てた。


今何時なのかもわからない。でも怖くてたまらなくて気付いたら「もしもし?なまえ?」という機械の向こう側からの声に震えて泣いている自分がいた。


「おい、どうした…?!」

『諸星くん……っ、』

「うん、なまえ、落ち着いて…」


その声を聞き、名前を呼ばれるだけで、随分と心が温かくなり落ち着く自分がいた。「なんでもない」と呟けばそれ以上詮索してくることのない諸星くんが「よかった…大丈夫だからな」と私の大好きな柔らかい声でそう言うのだった。


「にしても驚いたよ…何してた?」

『変な夢、見ちゃって…』

「あ、寝てたのか。」


俺はさっき帰ってきて飯食ったばかりなんだよ。彼はそう言って学校でおきた出来事を話すなり楽しそうに笑っていた。その場にいなくともつられて笑ってしまう自分がいて、彼は話がうまい上に、私はやっぱり彼のことが好きなのだとそう思い知らされる。


「飯まだなのか?しっかり食べねぇと倒れるぞ、なまえすげぇ細いしさ。」

『うん…行ってくる。ありがとうね。』

「おう。また何かあったら電話して。」


ツーツーという機械音が響きホッと肩を撫で下ろす。よかった…諸星くんが電話に出てくれて…


最近になって再び嫌な夢にうなされるようになった。酷い時には隣の部屋で寝起きする兄に「おい、起きろ!」と揺さぶられて起こされる時だってある。隣の部屋に聞こえるくらい自分がひどくうなされていると思うと夢というものは侮れないとつくづくそう思っては怖くなるのだけれど。夜がまともに眠れないせいで、もうすぐ卒業を控えた高校の授業中に眠くなってしまったり、こうして帰ってきてから気付いたら眠っていることも少なくなかった。


「なまえ、起きたの?紳一も食べてるから一緒に食べなさい。」

『はーい…』

「どうした…また変な夢でも見たか…?なんだか疲れてるな…」


渋い声を出しながら湯呑みをすする兄はちょうどご飯を食べ終えたらしく「大丈夫か?茶でも飲むか?」と何も言わない私の急須に勝手にお茶を注ぎ始めた。


『なんだかね…寝ても寝た気になれないし…寝ること自体怖くなってきて…ハァ…』

「そういう時もある。あまり心配しないでも平気だ。」


ほら、と差し出された湯呑みからは湯気が出ていてぼうっとその白いモヤを眺めるなり母が夕飯を用意してくれる。いただきますと手を合わせて食べ始めれば「よっこらしょ」と立ち上がった兄が「諸星ももうすぐ来るし、あまり思いつめるなよ」と言い残して部屋へ戻っていく。


『わかってるよ…』


二月に入れば三年生は登校する日数もなく卒業を迎えるまで自由な時間が続く。それを使って愛知県から諸星くんが一週間程度神奈川へ遊びに来ることとなっていて、それは最近の私の唯一の楽しみであった。


ひとりでご飯を食べながらぼんやりと考える。中学二年生の頃、兄である紳一が神奈川県選抜に選ばれ全国大会へと出場した時だ。双子として生まれ、どんな時でも一緒であった兄がメキメキと才能を伸ばし始めたことは自分のことのように嬉しくて、母と共に観に行ったのだ。


その頃の私は失意のどん底にいてキラキラと輝く兄は自分の生きる糧のように思えた。試合を終えるなり他県のユニフォームを着た男の子と並んで私の元へとやってきた兄は隣に立つ男の子を「友達が出来た」と紹介してくれた。


「初めまして。愛知県代表の諸星大です。」


その声を聞いた途端私の上には雷が落ちた。一瞬何が起こったのかわからなくて眉をひそめていたらしく名前も名乗らずそんな顔をする私に「なまえちゃん、だよね?」と諸星くんはそう言って顔をのぞいてきた。隣に立つ兄は全てを見抜いていたようで「挨拶したらどうだ」と穏やかな顔でそう声をかけてきた。


『牧なまえです…よろしくお願いします…』

「よろしくね、なまえちゃん。」


それ以降会うたびに胸を高鳴らせる自分がいて高校に入る直前に諸星くんからの告白で交際をスタートさせることとなった。あれから三年。彼の隣にいる自分がとても落ち着き穏やかでいられる理由はわかっている。彼を「好き」だけじゃない、他にまだ理由があるということも。それでもそれを踏まえた上であっても、私は諸星くんを手離すことなど出来ないし、そんなつもりもない。


そして先ほど見た悪夢。私の前から彼が突然消えていなくなるという、私自身が一番恐れていることが夢となって現れた。彼はもうすぐ私の元へ遊びに来るし、大学は関東圏へと来てくれる為、今までよりもずっと距離も近くなるはずだ。それなのにここ最近はやけに変な夢にうなされて、もしかしたら諸星くんが私の前からいなくなるではないかという恐怖が頭のどこかによぎっては消えてくれない。


「どうしたの?食欲ないみたいね。」

『うーん…なんだかあんまり…お腹がすかなくて…』

「そう?体調でも悪いの?」


心配する母に大丈夫だと伝えて自室に戻る。残してしまった夕飯は「後で紳一が食べると思うからいいわよ」と言っていたし、ゴミになってしまうことはないだろう。階段を上り部屋の前へと着くなり中から筋トレをしている兄の声が聞こえてきて何故だか「ハァ…」とため息が漏れた。






悪夢は幸運の兆しか

(それとも不幸の前兆か…)
















Modoru Main Susumu
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