祭り編
▽ 牧 神 清田と夏祭り
「なまえ、夏祭り一緒に行かないか?」
ある日の放課後、それは突然やってきた。
今考えてもやっぱり私の反応は正常であったと思う。だって牧さんから夏祭りに誘われるなんてそんなこと普通に考えて起こり得ると思わないし、それに誘い方もストレートでイケメンかよ...って思わずにいられないじゃん!!
『あ、はい...!』
でもよく考えなくともやっぱり私はアホだ。何を「はい」なんて返事したんだろう。
「ありがとう。神も声かけたんだが断られて清田と二人で行こうかと話してたんだが...楽しくなりそうだ。」
出てきた「神」という単語に私は「あっ...」と声を出した。牧さんは不思議そうな顔でこちらを見てくる。
「どうした?」
........宗ちゃんに夏祭り「二人で」行こうって誘われてたのすっかり忘れてました........
「牧さんも大概にしてほしいけどな。俺が断った時点でなまえのこと連想しなかったかな。」
『...............』
「ま、1番のアホは.......キミだよね。」
『痛っ.......その通りでござんす.......』
あの段階でまだ望みはあったはず。牧さんに「実は用事が...」とか言えばよかったものの何故だか私は「宗ちゃんに誘われてて....」なんて超正直に口にしてしまったのだった。それを聞いた牧さん「じゃあ四人で行こう」なんて提案して結局のところ四人で行く方向で落ち着いてしまったのだ。
宗ちゃんにどれだけしばかれたかは秘密にしておくけれどとにかくイベント大好き人間にとっては夏祭りなんて最高でございます!!さぁて綿菓子食べるぞ!!
『あ、清田ー!牧さーん!.....痛っ、』
「呑気に手振ってる場合か。このアホめ。」
『痛すぎる......いや、叩かれた頭じゃなくて自分の不甲斐なさで心の方が.......』
ギロッと宗ちゃんに睨まれてそう呟けば「チッ」と舌打ちされてしまった。けれども陽気にやってきた信長には「信長甚平似合うね」なんて声をかけているいつもの先輩宗ちゃん。
「遅くなってすまない。花火の前に何か食うか。」
牧さんと宗ちゃんが浴衣で信長が甚平。私ももちろん浴衣で歩きながら牧さんに「似合うな。可愛い。」と褒められた。信長にも「最高っすねー!マジ可愛いっす!」とかなんとか言われてニヤニヤしてたらやっぱり宗ちゃんは黒いオーラを放っていたし.....私が間抜けなのは認めるけどどんだけ根に持つんだよ........。
『あ、りんご飴.........ぬっ?ぶどう飴........?』
何それめっちゃ美味しそうじゃん!!なんて思いながら引き寄せられるようにぶどう飴の屋台へと歩いていく。ありがたいことに人が並んでいなくって優しそうなおじさんにひとつ頼めば刺さってるのから好きなの選んでいいよと言われた。んーどれにしようかな......
『これにします。ありがとうございました!』
ぶどう飴...可愛い...!
宗ちゃんに見せたくって「どう?!」なんて振り向けばそこには宗ちゃんどころか牧さんも信長もいなくてゾロゾロと人の流れがあるだけだった。
『.....、そ、宗ちゃん.......?!』
やばいこれ...もしかしてはぐれた?!
急いで来た道を戻るけどそこには3人の姿は無くて気持ちが焦ってくる。確か適当に何か食べようって屋台を回っていたし向こうのほうにいるかも...なんて駆け出したい気持ちになるけれど人混みの中を走るわけにもいかなくて。どうしよう...と考えているうちにどんどん行きたい方とは逆方向へ流されていく。
『宗ちゃん.....どうしよう......!!』
人の群れを抜け出しポツンとひとりで土手に座る。むやみに動いても見つからないだろうし宗ちゃん怒ってるんだろうな...やっぱり間抜けだってアホだって言うんだろうなって考えていたら、もはやどれだけ罵られても構わないから宗ちゃんに会いたくなってきて涙が溢れてくる。
ごめん宗ちゃん...怒ってくれていいから...だから早く会いたいよ...。
『.....っ、ぐすっ.......、』
「...なまえ、見つけた...」
『.....っ、?!』
どれくらい時間が経ったのだろう。寂しさを紛らわそうと持っていたぶどう飴を涙目でかじっていたら後ろからそんな声が聞こえてきた。宗ちゃん!と思って振り返るとそこには肩で息をした牧さんが立っていた。
『牧さん....!!』
「よかったよ...無事で...」
ゆっくりと近づいてきた牧さんに立ち上がって駆け寄ればふわふわと優しく頭を撫でてくれた。
「何もなかったか?誰かに声かけられたりとか...」
『大丈夫です...ずっとここに居ました...私が勝手にはぐれたから...すみませんでしたっ...!』
大丈夫だ、と笑ってくれる。その優しさが心に染みて安心感も相まってやっぱり涙が溢れてしまった。
「俺はいいんだが...神が.........、」
『へっ....宗ちゃん....どうかしたんですか、?』
あ、いや.......と言葉を濁した牧さん。もしかして宗ちゃんに何かあったのかと慌て始める私の耳に「なまえ!」と叫び声が聞こえてきた。
『そ、宗ちゃん......っ!!』
少し離れたところからこっちへ走ってくる宗ちゃん。涙であまり前が見えてない状態で駆け寄れば一瞬にして目の前が真っ暗になった。
『うわっ、.....?』
フワッと香る匂いでそこが宗ちゃんの腕の中だとわかりもうなんて言ったらいいかわからない思いでどんどんと涙が溢れてくる。
「........なまえ、」
『はい.......』
怒られる....と思った瞬間宗ちゃんは腕の力をギュッと強くして口を開いた。
「無事で本当によかった........」
その声はあまりにも優しくてでもなんだか泣きそうな感じがしてビックリして顔をあげれば心の底から心配しているような、そんな不安そうな顔した宗ちゃんと目があった。
『.....ご、ごめんなさい!!!』
宗ちゃんの顔を見て罪悪感でたまらなくなって頭を下げれば無理矢理顔を上げさせられて再び腕の中に閉じ込められた。
「......なまえの馬鹿さにはもう慣れてる」
『......宗ちゃん....ごめん......』
「でも、今回は本当に焦った」
その言葉が胸に突き刺さりどれだけ心配させてしまったのだと自分が信じられなくなる。まさかぶどう飴欲しさにフラフラしたことが原因だなんて...情けなくって.......
「.....なまえはどれだけ俺の寿命を縮める気なんだろうね」
『...ごめんね、宗ちゃん...本当にごめん、』
「毎回毎回...俺で遊んでんのって感じだもんね」
いえ、そんなことは滅相も....と言いかけた瞬間、にっこりと笑った宗ちゃんと目があった。さっきまでの不安そうな顔はもうそこにはない。笑った顔の目の奥はとっても冷めていてちっとも笑えていない宗ちゃんのその顔はどう見てもいつもの彼であり「あ、戻ってきた」と思ってしまった。.........いやいやそんなこと考えてないよ!私今反省中だし!!
落ち着いてくると怒りが沸いてくるなんてのは日常の出来事にもよくあることだとは思うけど、今回ばかりはそうであってほしくないなぁ...なんて思ってないよ!!私反省してるから!!
「さてと......」
な、なんのさてと?!
「あ、なまえさーん!!無事でよかったぁー!!」
『信長...本当にごめんね、ありがとう.......』
「信長も戻ってきたことだし......」
遠くから走ってくる信長を見て宗ちゃんはそう続けた。
「.......花火、見に行くよ。」
すみません、別行動で
牧さんにそう言うと宗ちゃんは私の手を取ってズカズカと歩き始めた。
『そ、宗ちゃん.......』
「ごめん。歩くの早かったよね」
足平気?なんて聞いてくる宗ちゃんに「大丈夫」と返せば私の頭を撫でた後地面に座った。同じようにすれば宗ちゃんはどこからか小さなタオルを取り出し私の下に敷いてくれる。
『あ、ありがとう....でもタオルが....』
「いいよ、座りな。」
うん...と控えめに並んで座れば程なくして花火が打ち上がる。うわぁ........綺麗.........!
『すごい....綺麗.....』
「そうだね」
休む間も無く打ち上がる色とりどりの花火に、さっきまで宗ちゃん達を振り回してしまっていたことなんて忘れて釘付けになってしまう。
「...なまえ」
なんとなく呼ばれたような気がして隣を向けば優しくて穏やかな顔をした宗ちゃんが私を見ていた。
『....どうしたの....?』
この距離でもきっと花火のせいで私の声は届いていない。
宗ちゃんはフッと微笑むと口を動かした。
『.........?!』
ビックリして固まる私に宗ちゃんは何事もなかったかのように花火を見上げては綺麗だなと笑っていた。
花火の音に紛れながら 「 好 き だ よ 」と言われた気がする。(...さてと、帰ろっか)
(..........うん............)
あすか様 (^O^)☆
この度は企画に参加してくださりありがとうございました!そしてもしもの同じ高校シリーズでリクエスト頂きありがとうございます!とても嬉しかったです☆何よりあんなに氷点下な宗ちゃんを好きでいてくださるのが嬉しくて、頼まれてもないのに夏祭りverまで描いちゃいました。。とほほ。。二万はまだまだ通過点ですので!これからも頑張りますのでまた遊びにきてくださいね!!今回の企画への参加本当にありがとうございました☆