B







結局一週間は学校を休んだ。


久しぶりに行った教室に入ってくるなり流川くんは「....よくなったか」と声をかけてきた。それに「うん、ありがとう」と返した私。ドキドキとうるさい心を悟られまいと必死に隠す。


親衛隊に確実に目をつけられるのはもはや逃れられなかった。ただでさえ隣の席なのに倒れた私を流川くんがキャッチしてお姫様抱っこで保健室へ運んだというのだから、噂の的になるのは逃れられないだろう。そして何より.......


「...........」

『...........』


こんなんだけど、一応私、流川くんの「彼女」になりました。いやもうこれバレたら大変なことになるのはわかってるんだけどね.....。


あの日流川くんは病室で私に言った。「隣にいろ」と。まさかそんなことを言われるとは思わなくて混乱した私が「付き合うってこと?」とマヌケにも聞き返してしまった。それに対して流川くんはコクッと頷き「俺から離れんな」と。今にも沸騰しそうな私は「わ、わかった....」と呟いてはそれを了承したところで陽気な母が戻ってきたという展開だった。


そんなこんなで願っても無い流川くんの彼女になったわけですが、私の頭の中にはどうにもこうにもスッキリしないものがあるわけで。流川くんからは「好き」だと伝えられていない上に、自分がボールを当てて怪我させてしまったことをいつまでも引きずっているような気がするのだった。危なっかしくて見てられねー的なニュアンスにも聞こえたし、なんかあっても守りやすいから隣にいろみたいな、なんだかそんな感じだと思う。


隣にいるだけでドキドキと胸が高鳴る私とは違い、流川くんは既に机に伏せて夢の中へと旅立っていた。私にとっての流川くんは端から有名人であり、こんな出来事があれば容易にときめくのだけれど、流川くんが私のような平凡な生徒を好きになるきっかけが見当たらないのだ。


「....みょうじ」

『うんっ?』

「....離れんなよ」

『........っ、う、うん.......』


流川くんが隣にいる。流川くんの隣にいる。それは私にとってすごく幸せなことであり、綺麗な横顔を見るたびに「あぁ、かっこいいなぁ」って、ハッキリとした「好き」という気持ちが心を支配してくる。でもそれは私だけなんじゃないかなぁという不安が同じくらい心を支配して結局のところ答えは出なかった。














「みょうじ」

『うん?』

「帰るぞ、送る」

『えっ....部活は?!』


ある日の放課後。流川くんは立ち上がるなり「今日は休み」と言った。私をチラッと一目見ると「早くしろ」と言い捨てて先に教室を出て行ってしまう。慌てて荷物を持って追いかけるも廊下に出たところで流川くんは親衛隊の子たちに捕まっていた。


「流川くん.....みょうじさんと、付き合ってるの....?」


恐る恐るといった雰囲気で真ん中の子がそう口を開いた。彼の後ろにいる私は流川くんの表情は見えなくて。取り巻きの子たちからの視線が刺さる中流川くんは「あぁ」と一言簡潔な答えを述べた。


「嘘っ.....本当に......?!」

「あぁ、そこどけ」


ゆっくりと通り道を作った親衛隊を見向きもせずに流川くんは前へと進んでいく。それに合わせるように絶対に周りを見ないようにして後を追う。後ろから「なんで....」という声が聞こえたけれどそんなの私だって知りたいよ。


『る、流川くん......!』

「....なに」

『....ううん。』


なんて言葉にしたらいいのかわからない。本当に私のこと好き?だなんて、聞けるわけない。そばに置いておく理由が、私が危なっかしいことや以前ボールを当てたことが原因なのだとしたら、実質この交際は私の一方的な片思いになる。でもそれをわざわざ指摘するようなこともしたくない。だって....好きだから。


この夢みたいな時間が続いて欲しいって、心のどこかでそう思ってるから。どんな理由であれ、流川くんのそばにいられるんなら、それでいいって.....あぁもう、いつのまにこんなに好きになってしまったの....


「....じゃあな」

『あ、うん。ありがとう....また明日....!』


自転車の後ろに乗せられて家の前に着くなり流川くんは去っていった。その後ろ姿が見えなくなるまでぼうっと眺めてなんだか涙が溢れてくる。もう、泣きたくなんかないのに....


『流川くんの気持ちがわかんない......』


別にそれでいいって、付き合えるのならそれでいいって思ってるんだよ。でも...できることなら私のこともちゃんと好きになってくれたらいいな、なんて...片想いだとわかりきってるこの状況がつらいだなんて...やっぱり我儘だよね...










おはようと挨拶を交わしごくたまに、本当にたまに部活がない日に送ってくれる。私と流川くんの交際といえば本当にそれだけだ。ただ、周りに公言した流川くんのおかげで親衛隊からはコソコソと何かを言われてるのはわかっていた。それでも隣の席ということもあって常に流川くんがそばにいるせいか面と向かって何かを言われるようなこともなく、そばにいたところで甘い雰囲気すら醸し出さない私たちに「本当は付き合ってないんじゃ...?」と疑う親衛隊が出てきたということも噂として耳には入っていた。


「私のこと好き?」と聞いたらこの関係はバタバタバタと崩れてしまいそうで何もできずに時間だけが過ぎていく。私が倒れたことをきっかけに流川くんの彼女になってから早くもひと月が経っていた。


放課後、帰ろうと正門へ歩く間、私は「みょうじさん」と名前を呼ばれた。見たことあるようなないような男の子で「ちょっといい?」と体育館裏に連れていかれた。


「....流川と付き合ってるって....本当?」

『あ、.........うん、まぁ.........』

「.....でもみょうじさん、幸せそうに見えないよ。」


あまりにもストレートな言葉に何も返せなかった。


「....俺、みょうじさんのこと好きだったんだ、ずっと。」

『.........えっ、.........』

「幸せならそれでいいし、奪い取ろうなんて気はないけど、なんか....あんまりいい雰囲気に見えなくて....」


だから....と男の子はガシガシと頭をかいた。


「俺にもチャンスくれないかな?」

『えっ.......?』

「友達からでいい。みょうじさんが好きだから、いつか友達以上になれたらいいとは思うけど.....」


男の子は手を差し出してきた。それは握手を求めているようで同意するのなら手を重ねるべきなんだろう。しかし私の意識は彼の告白とは別のことに向いていた。


周りから見たって、「本当に付き合ってるの?」「幸せそうに見えない」と思われてる。そりゃそうだ、だって自分ですらわかんないんだもん。流川くんが私を好きになる理由だなんて。なんかもう、わかんないよ...


ジワジワと涙が溜まってくる。その時だった。


「....っ、俺の女だ.....」


ハァ、ハァ、と肩で息をした男の人の背中に隠されてあの男の子が見えなくなる。その声や後ろ姿でそれが流川くんであることがわかって、「俺の女」という言葉になんでそんなこと言うの....と溜まっていた涙が溢れ出た。


「....手ぇ出すな」


気付いたら男の子はその場を去っていて、流川くんが私の方を見つめていた。肩を揺らしての呼吸は続いていて慌てて走ってきたことがわかる。部活の格好してるし.....


「....断れよ、」

『....わかんないよ....流川くんの気持ちが、何にもわかんないんだよ....』


ポロポロとこぼれた涙は止まることを知らなくて、そのうち流川くんの綺麗な手によって優しく拭われた。「泣くな」と一言、そう聞こえた。


「....悪かった」

『....なんで、謝るの....?』

「みょうじのこと、めちゃくちゃ好きだ」


「好き」。たった一言に私の体は反応する。顔をあげれば少しだけ照れ臭そうにした流川くんがぷぃっと目を逸らす。


「....いつの間にか頭の中に...いつだってみょうじがいて....」


流川くんは言った。初めはボールを当ててしまった申し訳なさからだったと。お見舞いに来てくれたのも全部、私を傷つけたという後ろめたさから。けれども毎日挨拶を交わすうちに朝教室に入るなり私の姿があることに安心している自分がいた、と。私が倒れた日、朝から具合が悪そうだと気付きずっと気にかけていたんだと。もしかしたら俺が心配するかと思って無理矢理学校来たんじゃねーかって、そう思ったらお前が愛おしくて仕方なかったって。


「だからそばに置いておきたい、でも....」


流川くんは続けてこう言った。「もうお前を傷つけるのだけはごめんだ」と。


自分の欲望のままに私に手を出して、それで私が傷つくことを恐れていたと。私の静かな日常を、ぶち壊すことになってしまうんじゃないかと、それが怖くて中途半端になってしまった、と。


『そんなの....なんだっていいよ....。』

「............」

『私は流川くんが好き。だから、彼女になれて嬉しい。流川くんにも好きって言われたいし....何も傷ついたりしない....!』

「......いいのか?」


コクッと頷けば流川くんは「俺を怖いと思うかもしれねー」と言う。どうしてかと問えば流川くんは真剣な顔をして口を開いた。


「...好きすぎて、止めらんねーんだよ」


何を意味しているのかくらいわかる。それを恐れて流川くんは今まで交際しながらも私と距離を保ってきたのだから。でも構わない。私だって好きすぎるくらい流川くんが好きだ。


『....流川くんなら、いいよ。』

「....どあほ、」


ゆっくりと彼の綺麗な顔が近づいてきて柔らかい唇が私に触れる。初めてのその感覚にボワッと体が熱くなって失神しそうだ。しかし一度触れた途端流川くんは慌てて唇を離した。顔を見れば目を見開いて固まっている。


『ど、どうしたの....?』

「部活中だった.....」


たまたま体育館の窓から見えたらしくトイレに行くと慌てて出てきたらしい。流川くんは「明日、部活が終わったら家まで迎えに行く」と言い残して急いで体育館へと戻っていった。


『......も、もう.......!』


初めてのくせにもうちょっと触れていたかっただなんて、私はいつからこんなに我儘になってしまったんだろう.......







君だけは絶対譲らない

(流川!遅かったじゃん!)
(....っす)
(なぁんだ流川!腹の調子でも悪いのかぁ?!)
(....ハァ)
(ダァァ!テメェ先輩に向かってため息とはなんだ!)
(三井サンうるせぇ!!集中してやれよ!!)



上からアヤちゃん、ミッチー、リョーちんです。



たっぷり愛されましょう→






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