B




** 付き合う前の二人 A






修学旅行が海外だなんて流石私立だよ…流石すぎるよ…しかも私服なんて…私服なんて…!本当に本当にっ!


『ありがたや〜…』

「でもなまえ、頑張らないと他の女子に負けるよ?神くんさっきからずっと写真頼まれてるし。」

『うっ…痛いところ突かないで…』


神くんのスタイル抜群な私服姿を三日間も拝めるなんてどんなご褒美ですか…と手を合わせている場合じゃないらしい。そんなことを思っているのは私だけではないようで。先ほどから至る所で神くんと写真を撮りたいと女子たちのキャッキャした声が聞こえてくる。えぇっと…あそこにまざってこっそりお願いしてこようかな…


「この間相合い傘したくらいじゃ油断ならないわね。」

『相合い傘…』


蘇る記憶。あれは本当に幸せすぎてこの雨に打たれて流されるのかと思ったくらいだ。だけど友人の言う通り油断なんてとんでもない。きっとあれは教室に残っていたのが私じゃなかったとしても優しい神くんのことだから同じような対応をしたんだろう。早く帰らなきゃダメだって言ったんだろうな…


私以外の女の子だったとしても…


「今度はなに落ち込んでんの。」

『いや…とりあえず目標としては一枚くらいツーショットを…』

「同じクラスだし機会はあるはず。頑張ろう。」

『はいっ…!』














「なぁ、神…」

「ん?」

「お前、好きな奴とかいんの?」


修学旅行という非日常的なこの感じは本当に素晴らしいと思う。普段見たことのない景色を見られるなんて。だけれどバスケットボールを持ってくるわけにはいかなかったしゴールも見当たらない。仕方ないから目を閉じて感覚を思い出しながらシュートフォームをおさらいしてみる。百回ほど腕を振ったところでやめておいた。明日の朝はランニングにでも行ってみたい。


いや、ぶっちゃけると正直バスケットのことよりも俺の頭を支配するものがある。それは制服姿ではないみょうじさんだ。なんだか特別な気がしてならなくて、自分が少しいけないことをしている気になってはドキドキしている。こんなんで三日持つのだろうか。とりあえず初日は写真も撮れないまま終わってしまった。


「うわぁ、気になる!めちゃくちゃモテるもんな!」

「とりあえず、彼女はいないんだろ?」

「うん、いないよ。」


同じ部屋になったサッカー部とハンドボール部の奴らがニヤニヤしながら俺の前に座る。他人の恋愛にそんなに興味があるのかと不思議に思いながらも嘘をつく理由が見当たらない。


「じゃあ、好きな人は?」

「いるよ。」

「えっ、いんの?!誰?!」

「…誰だろう。」


今サラッと言おうかと思ったけれどなんだかグッと出かけた言葉を飲み込んでしまった。なんだ、すごく恥ずかしい…俺なんかめっちゃ照れてるんだけど、なにこれ…


「うわ、めちゃくちゃ顔赤い!」

「こりゃ相当惚れ込んでんな?誰なんだよ、海南?」

「…うん。」


なんでこんなに、彼女の名前を出すことすら緊張するんだろう…今までこんな感情になったことがなかったからなんかよくわからない…


「あ、わかった!みょうじだ!」


あーでもないこーでもないと散々二人して学校中の女子生徒の名前を出してきて最後にようやくたどり着いた名前。出た瞬間自分でも驚くほどにビクッと反応してしまい二人は途端に「マジかー!」と楽しげな声を上げた。


「みょうじかー!わかる、可愛いよな。」

「神と似合ってる!いいじゃん、告れよ!」

「…そんなことが出来たら苦労してないんだよ。」


そんなあっさりと言うけれどそれが出来たら苦労してないんだよ、もう。途端に自分を惨めに感じてしまい今度はドキドキから落ち込むわかりやすい自分。なんだここは…海外っていう非現実的な場所は俺の心さえ自由自在に操ってくるのか…?


「俺はモテない、つまんない男だよ…」

「ハァ?何言ってんだ、神のくせに!」

「そうだぞ!お前でモテない部類なら俺らどうなんだよ、ゴミ以下か?!」


他人と比べる必要なんてないだろ…俺は好きな子にモテないつまんない男なんだよ…自分で言っててなんか虚しくなってきた…もう…


「…おいおい、そんなに落ち込むなよ!」

「神ってこんなキャラだった?!」

「俺なんか…これといった特技もないし…」


背は高いけどひょろっとしてるし、不細工ではないだろうけど誰もが振り向く格好良さを持ち合わせてはないし、勉強は苦手じゃないけど物凄く出来るわけでもないし、バスケットは好きだけど全日本に選ばれるほど秀でているわけでもない。なんだか全部中途半端だ…


「何言ってんだ、全部持ってるだろ。しかも全て努力で勝ち取ってることくらい俺らでもわかるぞ?」

「落ち込むなよ神、ほら。これやるからぶん投げろ!」


そう言って差し出されたのは枕だった。白くフワフワの大きい枕。枕投げ?そっか、修学旅行の定番?いや、でも…


「〜〜っ、みょうじさんっ…!」


むぎゅぎゅっと音が鳴るくらい抱きしめてベッドに飛び込んでみた。二人からは「おぉ!」なんて変な声が上がる。


「すげぇ、こんな神見たことねぇよ…」

「なんだかすげぇ勘違いしてたな、神のこと。」


うわぁぁ〜…と声を出してもベッドに全部吸収される。どうやったら伝わるんだ、いや、どうやったら伝えられるんだ…言うのは簡単だけど…勇気も自信も…全くない…


「みょうじさーん…」


好きです、本当におかしくなるくらい…


「明日は頑張って話しかけてみろよ!」

「そうだぞ、頑張れよ。応援してるから!」












「…みょうじさん、!」

『じ、神くん…!』


振り向くタイミング、声…全てが被り互いにハッと顔を見合わせる。どちらが先に用件を言うかタイミングをはかりながら「よかったら、写真…!」という次のセリフさえもぴったりと重なった。え、俺と…?!


「あ…またかぶったね…」

『ほんと…よかったら、お願いします。』

「ぜひ。」


あぁ、今のセリフなんだか素っ気なかった気がする。もっと幸せな顔で話したいのに、そう思えば思うほどに顔が引きつってしまうのだから。


「おー、もっとくっつけー!」

「そうだー、入んねぇぞー!」


なんであいつらがシャッター切ってんだ?と疑問に思う。どこからか湧いてきた同部屋の二人。ニヤニヤしながらそう指示を出し真面目なみょうじさんは「ここらへんでいいかな?」と俺に近づいた。そっと肩が触れ一気に体温が上がる。うまく笑えないままシャッター音が聞こえ「おー、撮れたぞー!」と楽しそうな声が聞こえた。


『ありがとう、撮ってくれて…』

「みょうじさん、!」

『…は、はい…!』


俺から離れていく彼女につい声をかけてしまった。どうしよう、何を言う?あぁ!纏まらない!あぁもう…今日の私服も可愛いな…


「お、おれ…」

『うん、?』

「昨日…」


昨日、君を思って君の名前を呼んだんだ…だなんて、言えるわけないのに…俺は何を…


「…ま、まくら投げ…したんだ。」

『枕投げ?凄い、神くんなら遠くまで飛びそうだね!』

「…う、うん…」

『五百本、打った?』


悪戯っ子のように俺に向かって笑うみょうじさんがあまりにも可愛くてあまりにも眩しくて、俺はついついこの非日常的な空間に流され背中を押され、「好きです」なんて伝えてしまったのだった。









自分の心に嘘はつけない


(わ、わたしも、です…!)
(えっ…ほんと?)







ふゆ様


この度はリクエストをしてくださりありがとうございました( ; ; )!十五年も神くんを想う方からリクエストを頂けたことは本当に嬉しく幸せな気持ちになりましたし私もこの先も長く藤真くんを愛していこうと思いました!本当に素晴らしいです(^^)(^^)
好きすぎて恥ずかしい行動を取る神くん、うまく書けてるかどうか不安なのですが、時間がある時に読んでもらえたら嬉しいです。付き合う前は挙動不審な点が多い愛が大きい神くんですが付き合うと少し落ち着いた様子にまとまりました(^^)!可愛らしくて高校生らしい素敵なリクエストをありがとうございました(^^)今後とも当サイトをよろしくお願いします(^^)!







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