牧ver






「残り一週間、万全の状態で臨めるよう気を引き締めるように。」

「「 はい! 」」


海南大附属高校三年、バスケ部キャプテンの牧紳一は部員の前でそう声をかけるも心では悩んでいた。いよいよ本番が迫ってくるにつれ部員たちの気迫も感じ気持ちも高まってきている。そんな中、秩序を乱すようにバスケット以外に癒しを求めてはいけない気がしたのだ。後ろめたさを感じながらもそれでも心は男子高校生。脳内の半分はピンク色に染まっている。


「…おぉ、なまえ。」

『牧くん、お疲れ様!』


パタパタと駆け寄る同じ高校に通う恋人、みょうじなまえ。その屈託のない笑顔に心がグッと苦しくなる。彼女からの提案により「しばらくは共に帰らない」ことを約束している二人。牧のことを一番に考えるなまえは「インターハイに集中してほしいから」と自ら牧と距離をとっていたのだった。自分のことを考えてくれるのは嬉しい…だけれど…


『それじゃあ、また明日ね。』

「おう…」


ダメだとはわかっていても触れたいと思ってしまう。遠ざかる後ろ姿に手を伸ばしてみても掴むことなど出来やしない。キャプテンとしてあるべき姿でいなければならない。牧は自分自身と葛藤していた。











「ま〜た牧のこと見てるの?」

『あ、いや…』

「そんなに気になるんなら一緒に帰ればいいのに。」


友達はそう言うけれど…インターハイという大切な大会を控えたバスケ部に近寄ることさえいけない気がするのに、彼女だからって一緒に帰るなんてそんなの恐れ多いんだよ。しかも牧くんはキャプテンだしインターハイ前にうつつを抜かしている場合かとそう考えるのが普通だと思うし…だから彼から言われる前に自分から言ったわけだけど…


「にしてもよくもまぁ、飽きないよね。」

『飽きるなんてそんなことあるわけないよ…』

「牧もなまえも互いのこと好き過ぎ。」


もちろん私は牧くんのことが好きだ。だからこそ一緒に帰りたいだとかそんなことを考えてしまう。朝練が終わり校舎へと向かってくる牧くんは今日もまた隣に清田くんと神くんを引き連れていて。練習終わりとは思えないほどの爽やかさで颯爽と歩いてくる。


付き合いもそれなりに長く、ある程度のことは経験済みだ。牧くんの男らしい体も漏れる色気も知っている。彼のことが大好きだからこそ、こんな大切な時期に「触れたい」なんて思う私はなんて不謹慎なんだろう…と朝から罪悪感に苛まれるのだ。





















インターハイはもちろん応援に行った。試合が終わるたびに客席まで足を運んでくれた牧くんはやっぱり言葉では表せないほどにかっこよかった。もうなんていうか…どう伝えたらいいか…顔を合わせるたびに「もっと一緒にいたい」なんて捨てきれないそんな思いが浮かんではぶんぶんと首を横に振りかき消した。大会本番、負けたら終わりの真剣勝負に挑む彼相手になんて浮ついた心を持ち合わせているんだと自分が情けなくなった。


『彼女失格だ…』






なまえが観に来てくれる。ただそれだけでいつもの倍は力が出る気がした。別に普段から手を抜いているわけではなく、男としてそういう気持ちになるという意味だ。彼女の存在はとても大きく自分にとって支えになっている。だからこそ「癒し」を求めたい気持ちにもなるのだけれど…


『お疲れ様、明日も絶対勝ってね!』


純粋な気持ちで俺を応援に来てくれている彼女に対して大会中にも関わらず隙あらば手を出したいと思ってしまう俺はなんと不純なことか。「あぁ」と笑うのに精一杯で頭を撫でることすら出来なかった。触れた瞬間我慢が全て崩れ落ちると思ったから。


まだまだ情けないキャプテンだ…なまえがこんな俺の心の内を知ったらどう思うだろう…変態だと軽蔑するんだろうな…














「インターハイ、終わったな。」


ペラペラと話す監督の言葉が右から左へと流れていく。準優勝…喜ぶには後一歩足りなかった。それでも全てを出し切ったということだけは言える。不思議と悔いはなかった。


全てを出し切った俺に残されたのは「なまえ」という愛おしい人の名前だった。海南の体育館に着いた先程から頭の中には彼女の名前がぐるぐると回り柔らかく笑う笑顔や「牧くん」と俺を呼ぶ優しい声が浮かんでは消え浮かんでは消えて…


「よくここまでついてきてくれた。本当にありがとう。」


挨拶を終え解散となる。彼女は今家にいるだろうか。早々と体育館を出て帰ろうとする俺に清田が声をかけるも隣から神が「信長は俺と帰ろう」なんて呼び止めていた。俺を見るなりニコッと微笑む神には今度何かしらの礼をしたい。


向かうのは彼女の家の方面だ。会いたいという一心で行くのはいいけれど親御さんもいるだろうし迷惑にならないだろうか。それとどこでそういうことを…えぇっと、考えがまとまる前に来てしまった。


『…牧くん、!』

「…なまえ…、」


赤信号を待つ間不意に呼ばれた名前。ついに幻聴まで…と自分が怖くなる俺の前に現れたのは会いたいと願っていたなまえ本人なのだった。これは現実なのかと固まる俺に「会いたくて来ちゃった」と笑う彼女。


これは、これはー…


『ごめん…疲れてるし、そういう気分じゃない…よね…』

「…そういう気分だ。」

『…え、?』

「物凄く、そういう気分だ。」


一体俺は何を言っているんだとわかっていてもうまく言葉にならなかった。そんな俺の言葉を聞きなぜか照れたように「よかった」と笑うなまえ。そして俺の手を引き「家、来る?」なんて呟くのだ。


「…えっ…?」

『今誰もいなくて…牧くんがよければ…その…』

「行く。」


行かない選択肢などあるわけがない。それに彼女の方からそう言ってもらえたことに俺の頭は柄にもなく湧き上がりそうになっていた。これはその…


なまえも俺と同じ気持ちだったということで…いいのだろうか…?


少なくとも今は俺と同じ気持ち…だよな…?


『じゃ、じゃあ…行こうか…』

「ひとつ、確認しておく。」

『えっと…はい…』

「はっきりと伝えておくが、手加減は出来ない。今なら引き返せるけど…いいのか?」


俺の言葉に顔を真っ赤に染めて俯くなまえ。小さな声で「大丈夫です…」と答えてくれた。


「なら、行こう。」

『…お、お手柔らかに…お願いします…』

「それは無理だな。」


さてと頑張ったご褒美といこうか。目が合えば照れ臭そうに微笑まれる。今日は申し訳ないが体を壊さない程度にめちゃくちゃにさせてもらうと心の中で勝手に呟いてはなまえを握る手に力を込めた。









等身大男子高校生


(牧くんの意地悪っ…!)
(それはすまない。やめる気はないが。)
(もう…!)





むぎ様

この度はリクエストありがとうございました!お時間がかかり申し訳ありませんでした(;_;)今まで書いたことのないストーリーでとても楽しませていただきました!本当にありがとうございます( ; ; )いつも嬉しいコメントをくださりありがとうございます!これからもぜひ遊びに来てくださいね(^^)この度は本当にありがとうございました!





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