流川ver
高二の夏、インターハイに行くことが決まった。
「インターハイ二週間前になりました。怪我や体調管理に気をつけて生活しましょう。」
安西先生の穏やかな声が響く。返事をする部員の声。ツンツンと肘で突かれ隣を見ればニヤニヤとした彩子が意味ありげに私を見ていた。
「なまえ、今日からしばらくアレは禁止よ。」
『あれ…?なに?』
「アレはアレよ。流川との、激しい運動。」
『…えっ、?!』
大きな声が出て解散となった部員が何事かとこちらを見る。慌てて手をぶんぶんと振り彩子に「もう!」と怒れば顔が真っ赤だと指摘された。
「でもそうでしょ、怪我や体調管理に気をつけて。」
『怪我しないし体調も悪くはならないかと…って、別にしたいってわけじゃないんだけど!』
って…!私は何を言ってるんだ…慌てて彩子に弁解するもニヤニヤされて終わりだった。しまいには流川に「あんた愛されてるわね〜」なんて声をかけている。あぁもう!流川を刺激しないで欲しいのに!
「…なんすか?」
「激しい運動は控えた方がいいわ。アンタもなまえも体力無いし。」
「…??」
「だから、なまえとのアレよ、アレ。」
ピンと来ない流川の耳元でコソッと囁いた彩子。それを聞いた瞬間彼の表情はいつにも増して凍りついた。そして目だけ動かし私をとらえてくる。怖い、怖いよ流川楓…
「…いつまで?」
「今日から二週間は無理ね。インターハイ始まって勝ち進んだらその後もしばらく。」
「…センパイ、」
「何よ?」
「無理っす。」
俺そんなの耐えられねぇとどこまでも正直者な流川が彩子に文句を言っている。ちょっとやめて…恥ずかしいんだけど…
「だからなまえセンパイを抱く。」
「…ストレートねぇ。でもよく考えなさい。これからインターハイまで合宿もあるのよ?」
「…うす。」
「なまえのことを考えなさい。三日に一回のペースでなまえがぐったりして使い物にならない日がある。その理由、わかってるんだからね。」
彩子にはよく「また流川にやられたのね」と笑われるから慣れているものの、流川はそのことを指摘され目を大きく見開いて固まっている。
「アンタべらぼうに抱き過ぎなのよ。少しは考えてやりなさい。どうせクタクタになってからも欲望のままに付き合わせてるんでしょ。」
「むっ…」
あんまり大きい声でそんなこと言わないで…と二人に向かって歩み寄ろうとするもガシッと肩を掴まれる。後ろにはうんうんと頷いているリョータがいた。いや、うんうんじゃないし。あなたの大好きなアヤちゃん止めてよ…
「なまえが大切なら彼女の体も大切になさい。あの子はアンタの彼女でもあるけどここのマネージャーでもあるのよ?大事なインターハイ前の忙しい時期に業務に支障がきたすなんて私が許さないわ。」
「…うす。」
「わかったならよろしい。」
初めはからかわれているのかと思いきや、意外にも真剣にそんなことを言ってくれる彩子。あの流川も大人しくシュンとなっていた。流川が…あのオフェンスの塊が…二週間以上何もしてこないなんて…そんなの未だかつてなかったぞ…大丈夫なのか…?
それに私だって…大丈夫、なのかな…?
「…アヤちゃん、よくぞ言ってくれたぜ。」
『恥ずかしいよ、もうっ…』
「俺を叩くな、流川に言って!」
「…なまえセンパイ、」
『うん?…あ、流川…』
「………」
インターハイを二日後に控えた練習後、不意に腕を掴まれた。いかにも「つい掴んでしまった」といった顔をする流川とそれを理解した私。「もう少しだね、頑張ろうね」と色々な意味でとれそうな言葉を投げかけてしまった私に流川はあからさまに怒った顔をする。
「…無理。」
『流川、』
「抱けねぇなんて、しんどい。」
触りたい…そう顔に書いてある。それでも私はここまでの努力を水に流すものかと必死に彼の手を振り解いた。だって…今日まで毎日顔合わせたのに、隙あらばキスしてくるあの流川楓が私に指一本触れなかったんだよ?
「センパイは、俺のこと…」
『好きだから…我慢するよ!』
「あっ、おい…!」
彩子、これじゃ逆に流川の体が心配だよ…だけどね、せっかくここまで頑張ったんだから私、最後まで走り抜くよ!こんなことで負けたり折れたりしないんだから。
『インターハイだって絶対勝ち進むんだから!』
勝手に走り去りマネージャー室へと駆け込んだ。ここなら追ってこれまいとホッと肩を撫で下ろす。先に帰った彩子の姿はない。あぁもう…今まで三日に一回のペースで彩子に負担をかけていたことも、心配させてしまったことも、流川に我慢させている今も、モヤモヤして仕方がない。だけれど湘北高校バスケ部、初めてのインターハイ…そんなことに気を取られている場合かと身を引き締めた。
『やってやるぞ…見てろよ、全国…!うちの流川が大暴れするからなぁ!』
インターハイは結局三回戦で負けたのだけれど私の頭の中はもはやそれどころではなかった。流川がやられ目を潰されそれでも根性で試合に出た。花道は怪我をし入院することになった。
優勝候補を破ったはいいけれど、あまりにも代償が大き過ぎたのだ。
「なまえ…また来年必ずリベンジよ。」
『もちろんだよ…このままで終わらない。』
インターハイを終え帰宅した湘北高校の体育館。マネージャー室で私と彩子は決意を固めた。この借りは必ず返す。このままでは終わらない…絶対に。
用具を片付け解散となる。新チームでの体制がスタートするのは三日後となった。やりきったというよりかはまだまだ悔いが残る状態なのは私だけじゃないはずだ。体力的にもそうだけれどそれ以上に精神的に疲労困憊だと何も考えずに体育館を出ようとした時だった。
「…センパイ。」
『…あっ、流川…目はどう?』
「なまえセンパイ、」
『うん?痛む?』
「俺ん家、来てください。」
…すっかりと忘れていました。それどころじゃなかった…のは、私だけだったみたいだ…流川の顔には「もういいだろう」と全面に大きく大きく書いてある。疲労が溜まっているようにも見えるけれど、それ以上にとにかく掴まれた手が熱い。
『わ、わかった…お邪魔します。』
「…早く。」
『寝ないで漕いでよ?お願いしますよ…?』
危なっかしい自転車の後ろに乗せられていつもより速いスピードで流川家へと辿り着く。自転車を止めるなり私の腕を引きズカズカと入っていく流川。ご両親は不在のようだった。
『…る、るかわ…っ、』
ドサッと荷物を床に置くなり当たり前のように私をベッドへと押し倒す。フワッと彼の香りに包まれた時には既に唇を奪われていた。早く…早く…と言いたげな彼の素早い手つきによりあっという間に服や下着はめくられてしまった。勢いよくバサッと目の前で服を脱がれて綺麗に引き締まった腹筋が目の前に現れる。何度見たって慣れないその美しい体に目がチカチカした。
「なまえ、」
『…なに、?』
「今日は優しくできねぇ。」
『…じゃあ、しない。』
「そんな選択肢はねぇよ。」
もはや黙れと言わんばかりに口を塞がれ遠慮なく彼の舌が侵入してくる。先程から私の太腿あたりに当たっている硬いものが何なのかはわかっているつもりだ。彼と体を重ねるようになってからこんなに長い期間しなかったことはなかったから私だって少なからず抱かれたい欲はあったけれど…
「…はぁっ…、もう出そう…なまえの体のせい…」
まだ挿れてもないのに既に余裕がないようで言い訳してくる流川。そんなにも必死に求められるとやっぱり恋人としては嬉しかったりするわけで。
『私はなにも、してない…』
「綺麗だから、ずりぃ…挿れる…」
久しぶりにひとつになるなり早々果てる流川は彩子に言われたことを気にしているのか「しばらくオフだから…」と私に確認を求めてきた。しばらくオフだからクタクタになるまで抱いてもいいよな?という意味だろう。彼なりに配慮しようとしてくれるのがなんだか愛おしくてたまらなくてついつい「いいよ」と言ってしまうのだった。
オフェンスの鬼、現る(だからって何回戦目なの…ひどい…)
(足りねぇ…抱かせろ…)
(もう無理だよー…ギブアップ…)