『ねぇ〜仙道くん重たいよ〜…』
「えぇ〜?だって抱き心地良くて。」
『ちょっとは協力してよね〜…』
そもそも謎解きとは一体…高校生の私たちがやる必要が?親睦を深めるってもう高校も二年目なのにどういうことなんだろう…納得がいかないとやる気になれないんだよなぁ。
そして先ほどから私に抱きつくような形で後ろから寄りかかってくる脱力したこの大男、なんとかしてくれないかなぁ…重たい上に暑いし時たまいい匂いするしで色々と問題なんですけど。
『もう、バスケ以外もやる気出して。』
「えぇ〜なまえちゃんと二人きりなんて珍しいから幸せなんだよ。」
『…あぁもう、離れてよ〜…』
これじゃ謎解きどころじゃない。すみませんがもう諦めます、試合終了です…とその場に座り込む。このどっ広い敷地のどこかにヒントがあるとかなんとか言ってたけどみんなどこにいるんだ?さっきから全然見当たらないし。
「ごめんね、疲れちゃった?」
『ううん、平気。もう謎解きは諦めて戻ろっか。』
「…ねぇ、なまえちゃん。」
不意に名前を呼ばれて隣を向けばすぐ近い距離で仙道くんと目が合った。吸い込まれそうな瞳に慌てて目を逸らすもグイッと顔を持たれ再び彼と目を合わされる。
『うぐっ…』
「たまには俺も見て?こんなすぐ近くにいるのに。なまえちゃんの目が俺以外映さなきゃいいのになぁ。」
そんなことを言われ柔らかい笑みで微笑まれる。なにそれ…と顔が赤くなるのがわかって下を向くも仙道くんは私の手をギュッと握って離さない。次第に指と指が一本ずつ絡み合い恋人繋ぎになってしまって…うわぁぁ〜!
「なまえちゃん顔真っ赤。」
『うううっ…』
これは一体なんなのかしら…いつものようにからかわれてるんだけだよね…?どうしよう、それなのにこんなにドキドキしてて…いやでも当たり前か。だって普段こんな経験ないじゃん、私彼氏いたことないし…
『ね、ねぇ…』
「うん?」
『い、いつもどうして、教科書に落書きするの…?』
何か話題を探さなきゃ、このままじゃ気まずい…と思い浮かんだのはそれだった。もっとマシな話題なかった?と自分に呆れるけど仕方ない。
「相合い傘って可愛いじゃん。こんな可愛い好きの表し方、ないと思うんだよね。」
『……』
それはつまり、「俺」「なまえちゃん」ってことだから、仙道くんが私のことを好きだと言いたいわけだ。あぁもう、わかってるよ。友達としての好きなんでしょ、マネージャーと選手としての。わかってるのにどうにも胸がザワッとするんだよ、もう…
『わからなくはないけど…できれば控えて欲しいなぁ…一応私のものだし。』
「うーん…」
『私が使う分には構わないけど他の人にも貸したりするからさぁ…』
いつも宗ちゃんに貸す時、落書きがないかどうか探すのが大変なんだよ…と落胆していれば仙道くんは「うーん」と再びはっきりしない声を出す。
「だからこそ、なんだけどな。」
『え…?あ、わざと手間を増やしてるってことか…!』
「あ、いや…そんな捻くれた愛情表現はしないけど。」
そうか、わざとか…とひどく納得した私に向かって仙道くんが困ったような顔で笑っていることなど気付くはずもなかった。
「まぁいい。なまえちゃんとこうしてられるならなんだって。」
本来の目的である謎解きをするわけでもなくただただ穏やかな時間が流れる。いつもの日常があまりにも騒がしく賑やかで、同じ時間、同じスピードなのにこんなにもゆっくり流れるものかと驚きさえある。仙道くんといるこののんびりとした空気感がたまに恋しくなったり、癒されたりするんだよなぁ…非日常っていうのかな…この感覚がなぁ…
「…ねぇ、なまえちゃん。」
『…どうしたの?』
「これからもずっと、俺の隣にいてくれる?」
『…えっ…、?』
空を見上げる仙道くんに倣い共に首を上へと向けていた私。その言葉の意味がわかりかねる為そっと視線を横へと移す。相変わらず穏やかな笑みで空を見上げる仙道くんと目が合うことはなかった。
これからも…ずっと…?
『もちろん、私はマネージャーだし…それに高校を卒業してもずっと仲間だよ。』
「…うん、じゃあそういうことにしておいて。」
ハハッと笑った仙道くんは「時間切れだ」と呟いた。何のことかと戸惑う私の目の前にゼェゼェと肩で息をする人物が現れた。
『そっ、宗ちゃん…?!』
「…おい、間抜けヅラ。」
突如吐かれた暴言。息が上がり汗ばんだ宗ちゃん。ジッと私を見下ろすなりグッと腕を引かれ立たされた。
『宗ちゃん…、ど、どうしたの…?』
「…チッ、…チッ、…チッ。」
『いや、怖いよ!』
ジッと睨むように私を見つめ舌打ち、再び睨み舌打ち、再び…と無言でそれを繰り返す宗ちゃん。怖すぎる…なんだろう、この不穏な空気…ひぃっ…
「来い、アホ。」
『痛っ…ちょっ、宗ちゃん!』
座ったまま動く気配のない仙道くんを置いてスタスタと歩き出す宗ちゃん。人が多いところへと到着した頃には既に謎解きの時間は終わっていたようで答え合わせをするなりワーキャーと歓声が上がっていた。
「…困らせるなよ、同じ班の人が探してた。」
『やばっ…ごめんなさい…!』
「本当に本当にアホが過ぎてて言葉にならないね。」
ベシッとデコピンを決められ何故だか肩や腕の辺りをパシパシとはたかれた。あれ、ホコリでもついていただろうか?
「…手。」
『うん?』
「いいから、手、出せ。」
突然の命令!と慌てて右手を差し出せば目の前から宗ちゃんの腕が伸びてくる。綺麗で細い指に見惚れていたらそっとその綺麗な手のひらに包まれてしまった。
『…はっ、?』
「本当に出直してこい、隙だらけもいいとこだ。」
言葉とは裏腹に穏やかな表情を向けられて手のひらは包まれて。軽くパニックになる私をよそに校外学習は幕を閉じたわけだ。ちなみに超戦力外になってしまったことは同じ班だった他クラスの子にしっかりと謝っておいた。なんやかんやで話が弾み友達になるというミラクルまで起きてなんだか頭がいっぱいだ。
それはバチバチと音をたてて
(おぉ〜い、なまえどこ行ってたんだよ〜…って、あぁ!!)
(沢北、ちょっと、うるさいんだけど…)
(な、なななんで??なんで神と手繋いでんの?!)
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