『さてと、次の授業は化学.....い、痛っ!』
「あぁごめん、サンドバッグかと思って、つい。」
休み時間になり廊下へと飛び出したのはロッカーへ教科書を取りに行こうとしたからで。それなのに、なぜだか横からパンチが飛んできて私の脇腹に見事に突き刺さった。
『どんな間違いなの、それ....』
「よくあるでしょ、何その変なものでも見る目は。」
『痛っ.......』
犯人は相変わらずの宗ちゃんであり、理解しがたい言い訳を述べながら私のお腹へのパンチを止める気配はない。いやいや、痛いですから。私普通にか弱い乙女よ!
「まぁ、にしちゃあ柔らかすぎるか。」
『ちょっと!やめてください!』
ふにゃふにゃだもんなぁ...と悪びれた様子もなく平気でお腹周りのお肉をつまんでくる宗ちゃん一体何事なんですか!慌ててその場を離れれば「日本史、貸してくれない?」と突然ものすごい怖い笑顔で微笑んだ宗ちゃんがヌッと私の前に現れて。いやいや、怖すぎるよその顔....
『わかったから、貸すから。絶対貸すから。』
だからその笑顔やめて?と言えば今度は頬っぺたを引っ張られる。なぜ、なぜ......!
『いひゃいっ....!』
「あぁごめんごめん、スクイーズかと。」
『ちゃっかり時代に乗ってやがる.....』
私の手から日本史の教科書をとると「ありがとう」と言い宗ちゃんはその場を去っていった。絶対頬っぺた赤くなってるよ.....本気で痛かったもん.....
「....って、待った。騙されないよ。」
『へ...?まだ何か...?』
「まだ何か?じゃない。よく見ろこのマヌケ。」
『ひどっ......あ、これ古典の教科書じゃん。』
宗ちゃんが廊下を引き返して私の元へ戻ってきたのには理由があって。どうやら話しながら探していたせいでなぜだか古典の教科書を渡していたらしい。ジッと私を見下ろして「早くしろ」と言わんばかりの冷たい視線が怖すぎてマッハでロッカーの中を探し始める。うわぁ、色が似てるんだよ...!日本史と古典!
『あ、あれ......、確かここらへんに......』
「......無いなんてこと、ないよね?」
『そんなことはないですっ!絶対ありますから、落ち着いて.....!』
やめて、お願い。もう少し時間を頂戴....!そう懇願すれば「いいから早くしろ」とキレられた。あぁもう。一体どこ行ったんだ私の日本史.....
『....って、あぁ!思い出した!』
「....とりあえず聞いてあげる。」
『仙道くんに貸したままだった!』
そうだよ、この間仙道くんに貸したんだよ。それから戻ってきてないし絶対あの人だよ。すっかり忘れられてるんだろうなぁ...貸した私ですらこんな感じなんだから。
「.....ふぅん、」
『だから仙道くんから借りて!宗ちゃん同じクラスじゃん!』
「.....へぇ、」
なぜだかいつもの氷点下宗ちゃんの表情になり私の頬を両側から引っ張ってくる宗ちゃん。しかも結構力が強くて声を出すこともできずに涙目になってくる私の頬をようやく離して「仙道ね....」と呟いた。
『痛すぎた.....そう、仙道くん.....』
「わかった、じゃあね。」
今度はあっさりと私の元を離れた宗ちゃんの後ろ姿を見てハッと気付く。仙道くんに貸したということは、だよ?仙道くんに貸した時って、いつも.....
『ま、待った!私も行く!』
相合い傘だよ、相合い傘。なんだかいっつも相合い傘の落書きがされて返ってくるんだよ、私の教科書。「オレ」「なまえちゃん」とか書いてあってさ、そんなの宗ちゃんにバレたら....なんていうか、宗ちゃんすごく真面目だし....そうだよ、絶対怒られるよ!こんなんで勉強できるかって暴れられたら困る!
「...?」
『いいから、行こう。』
グイグイ宗ちゃんの背中を押して宗ちゃんのクラスへと向かえばちょうどタイミングよく起きていた仙道くんの元に越野くんが遊びにきているところであった。
『ちょっと、仙道くん!』
「....お、なまえちゃん。どうしたの?」
『どうしたもこうしたもありません。私の日本史の教科書、返して欲しいんですけど.......』
「....あぁ!あったね、そんなの。」
そんなのって....と苦笑いが漏れた私に「はい、ありがとう」と差し出された日本史の教科書。宗ちゃんが自席に戻り何か支度をしている間にペラペラと教科書を巡ってみる。案の定次のテスト範囲のページにびっしりと落書きされており、中には安定の相合い傘も含まれていた。仙道くん、人の教科書だよ?これ。
『....っし、こんな感じでいいかな?』
ゴシゴシと消しゴムで落書きを消す。綺麗になったそれを宗ちゃんの席まで持っていくと「ありがとう、借りるね」と返事が聞こえた。
『どういたしま.....って、次移動教室だった!』
「....走り方がどんくさいんだよなぁ。」
宗ちゃんの呟きなんて聞こえるはずもなく私は大慌てで教室へと戻った。必要な教科書や筆記用具のみ持参して廊下を走り一気に階段を駆け上がる。チャイムギリギリのタイミングで実験室へと駆け込めばいつも同じ班の宮城が「マジでギリギリじゃん」と笑ってくれた。
『いやぁ、焦ったわ....間に合ってよかった....』
「何してたの?トイレ?お腹壊した?」
『あのさぁ、沢北ってデリカシーないよね。』
え、俺?どこらへんが?
化学を無事に終えた休み時間、教室へと帰る道のりをいつものように同じクラスの沢北と共に歩く。相変わらず乙女に向かっていわゆる「下痢だった?」と聞いてくるこの人は本当に女の子の扱いがなってないと思う。バスケに関してはスーパーエースなんだけどね...
「ねぇ、それで大丈夫だったわけ?変なもん食った?消費期限切れの生卵とか?」
『消費期限切れの生卵朝から食べてこないよ....』
なんで生卵なんだ...と相変わらずの沢北にため息をついていれば突然「おい」と声をかけられて頭の上にポンと何かが乗った。
『えっ、........』
「日本史、ありがとう。」
『あ、あぁ!宗ちゃんね!』
頭の上に乗せられたのが日本史の教科書だったことを確認してから後ろを振り向けば宗ちゃんは「相変わらず仲良いね」と沢北に向かって笑いかけていた。あれ?なんか笑顔怖くない?
『いまちょうど席も隣だしね。ね、沢北。』
「まぁなんつーか、腐れ縁でな。」
なぁ!と同意を求めてくる沢北はなんだか勝ち誇ったように嬉しそうな顔してて。変なやつ...と軽蔑した目で見ていれば宗ちゃんは「本気で腐って散ればいいのにね」と言い残して教室へと入って行ってしまった。
「....腐らせねーよ、消費期限切れの生卵じゃねーんだから。」
『....だからさ、私別に食べてないから。生卵。』
私の声など届かない沢北はぶつぶつ何かを呟きながら私の前を歩いていく。ついていくようにして歩きながら貸した日本史の教科書をペラペラとめくればそこには細かく何かが書き込んであった。
『....テスト範囲のページだ!』
宗ちゃんによって何か書き込まれたのは共通して今度のテスト範囲のページ。止まってじっくり見てみればそこにはテストに出そうな細かな出来事や教科書には載っていない小話などが宗ちゃんの綺麗な字で書き込まれていた。
『....うわぁ....!これはありがたい....!』
仙道くんに貸したら相合い傘と魚の落書きなのに、宗ちゃんに貸すと教科書が資料集になって返ってくるのね....!
『宗ちゃん!ありがとう!』
タイミングよく教室から出てきた宗ちゃんに廊下の端からそう叫べば相変わらず落ち着いた雰囲気で「肉まん二個でいいよ」と言われてしまった。
たまに優しい時もある
(はい、肉まん!二個!)
(ありがとう。.....って、これピザまんじゃん)
(えっ?!嘘?!うわぁ、ごごごごめんっ!)
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