■ あの日の俺が気付いた想い
「...なまえ」
『ん?どうしたの楓』
「部活、見に来い」
聞き慣れた声で名前を呼ばれたから振り向けば用件だけ伝えるとさっさと廊下へと引き返す幼馴染の姿を見て相変わらずだなぁと笑いが溢れた。前の席の花道がワーワー騒いでいるもののそんなの軽く無視だ。楓はどうしてあそこまで愛想がないものか。
「なまえさんはあんな奴と幼馴染なんて災難ですね」
『いいや、そうでもないんだなこれが』
ハテナを浮かべる花道に微笑めば相変わらず仲良しだなぁ〜なんて洋平がからかいにやってくる。それが私と花道をさしているわけじゃないことくらいわかっているつもりだ。
「まぁな洋平、キツネよりもこの天才の方がなまえさんと仲良しだ!ハッハッハ!」
「...まぁそういうことにしといてやるよ」
私に向かって軽くウインクしてくる洋平には私の気持ちなんてとっくの昔にバレている。どうも勘が良くて鋭いからこういうタイプの人には隠し事なんて通用しないんだろうなぁ。楓のことを幼馴染なんて言葉じゃ片付かないくらい特別で大切な人なんだと認識し始めたのはもはやいつからなのか定かではない。それくらい昔から気が付けば隣にいる存在だった。
実際にはただの幼馴染止まりなんだけれど。
「にしてもなまえさんが見に来るのならより気合いを入れてだな...」
『天才のスーパープレーに期待しよっと』
「なぬっ...任せてください!この天才桜木!」
体育館へ練習を見に行けば当然のように彩子さんに下で見ていいわよって通されて、親衛隊が締め出される中優越感を感じながら動き回る楓を眺めていた。あぁ、もう。本当に心の底からかっこよくてイライラしてくるくらいだ。そりゃ晴子ちゃんだって惚れるよ。ごめんね花道、楓はそれくらい魅力的でバスケが世界一似合う男なんだ...
「...なまえ、帰るぞ」
『あぁうん、彩子さんありがとうございました!』
「流川、しっかり送るのよ!また見に来なさいね」
コクリと頷く楓に腕を引かれて体育館を後にした。後ろから三井さんがヒューヒューとか冷やかしてくるけれど軽く無視だ。どうもあの人は私に突っかかってきたり無駄に絡んでくることが多い。校内で会ってもだるいだけだから他人のフリして視界から消すことにももう慣れた。以前しつこく絡まれてる姿を楓に見られて超不機嫌にさせてしまったこともあったし。あの時は怖かった。
『それで?何手伝えばいいの?』
「...プリント、出さねーと補習になる」
『あ、もしかして数学の?あれ結構難しいんだよ...』
「なまえには余裕だろ」
『私がわかっても楓が理解しなきゃ意味ないでしょう』
放課後部活に誘う時はそのまま楓の自転車に乗って楓の家に直行だ。ま、家も近いし親同士も仲が良いためそんなのは日常茶飯事。何か手伝って欲しい時とか今日みたいに勉強に困った時、必ずこうして召集される。勉強は正直得意だ。楓に唯一足りないものだからそんなのは私が補えばいいってだけ。ただそれだけの理由で小さい頃からこれでもかというくらい勉強を頑張ってきた。恋の力は恐ろしい。
湘北に行くと言った時のガッカリしたようなでも理由がわかって仕方ないと諦めたような両親の顔を今でも忘れていない。そもそも良い大学を目指すわけでも夢があるわけでもない。楓のためになりたくて頑張ってきただけだ。勉強なんか。
「...ねみぃ」
『ほら起きて、ここ、こうしてこうなるから...』
「...むずい」
夕飯をご馳走になって当たり前のように楓の部屋についていく。この優越感と幼馴染という現実に挟まれてなんとも言えない気持ちになる。
『あー違う、ここがこうで...そうそう!わかる?』
「これならわかる」
『いいじゃん!よく出来てるよ、さすが!』
「...わかりやすい」
なまえの説明はいつだってわかりやすいとかそんなこと言われて顔が赤くなるのが自分でもわかった。やめてほしい、そうやってサラッと嬉しいこと言うの...まぁ慣れてるけどさ。それに期待したところで何もないってことも。
「...できた」
『あってる、今日はなんだか進み具合がいいね』
「さっさと終わらせる」
『うん、わかった。あと3枚あるしね...』
さっさと終わらせたら私は家に帰らないといけないんだから悲しいけれどあと3枚分楓が解いている間、この時間を幸せに過ごさせてもらおう。相変わらず殺風景な部屋だけれど昔から変わらず置いてある写真たてに飾ってある幼稚園の入園式に参加した時の私と楓の写真。なんであの写真なのかいつも疑問だけど聞いたことによって楓のご機嫌を損ねてしまって片付けられたら悲しいからって聞けていないままだ。
「懐かしいか?」
『うん?』
「あの写真、幼稚園」
『あぁ...ずっと飾ってあるよねあれ』
プリントを解きながらリラックスしたような表情で笑ってる楓。私がボーッと見つめていたのがバレたらしい。長年の疑問をサラッと口にしてしまったけれどよかったのだろうか...
「...あのなまえ可愛いだろ」
『え?...あ、そう?かな?』
「気に入ってる」
『えぇ...楓の方が十分可愛いと思うけどなぁ』
寝癖がピョンとついてて相変わらず無愛想な表情でカメラを見ている小さい楓。本当に可愛い。
「...なまえ可愛いけど今は変わった」
『何、ブサイクになったって言いたいの...』
「ちげー」
そうじゃねーと言いながらもペンを走らせている楓。順調に解いているみたいだ。いや待って、今は変わったとか何その言い方は...全く、いいよ正直に言って。
「キレイになった」
『......えっ?』
「可愛いからキレイになった」
なっ?!な、なんでそんなこと言いながらこっち見るの...?!顔を上げてジッと私を見る楓と目が合ってそらせないでいたらフッと笑って再び視線をプリントに向ける楓。な、なにそれっ...?!
『そ、そそそ、そんなことないと思うけど...』
全く〜〜!!この男は人の気も知らないでなんでそういうこと平気で言うかな?長年ずっと一緒にいすぎて楓にそういう感情がないのはわかってるしだからこそ平気で言えちゃうんだろうけどこっちは、そうですか?ありがとうなんて簡単に片付けられないんだからぁぁあ!
「...俺が自分の気持ちを自覚した思い出の写真」
『...え?』
「その写真」
だから飾ってる、ってプリントを解きながら言う楓。自分の気持ちを自覚した...?よくわからなくて再び写真たてを見つめる。ニコッと笑う私と同じ制服を着た無愛想な楓。
「入園式の日になまえが他の男に可愛いって言われてた」
『...ほ、他の男って...』
「覚えてねーの?小学校まで同じだった...」
名前聞いてあぁ確かにそんな子いたかもなんて思ったけど逆になんでそんなこと覚えてるんだ楓は...
「そん時俺思ったんだよ」
『何を?』
「俺だけのなまえだから手出すなって」
好きだと思った思い出の日だから飾ってる
『...あの、楓...』
「...なまえだけだから。俺たち幼馴染だと思ってるの」
『えっ...』
「周りも俺も、なまえは俺の彼女だと」
そう思われてるけど?って真剣な顔で見つめられた。あまりに突然のことにしっかりと理解できていないけれど...楓の顔からそれが真実なんだということは痛いくらい伝わってくる。
『楓の彼女なんて...そんな贅沢な...』
「何言ってんだ」
『だって...』
「他に誰がいんだよなまえ以外ありえねー」
ゆっくりと楓の顔が近づいてきて目を閉じれば柔らかい感覚が唇に触れた。あぁもう...キャパオーバーでパンクしそうだ...顔をあげれば見たこともないくらい優しい顔をした楓が私の頭を撫でてくれた。む、無理...かっこいいよバカ...何年経っても見慣れないくらいかっこいいんだよバカやろう...
「いつ気付くかと思ってた」
『私の気持ちには気付いてたってこと?』
「あたりめーだろ」
そう言いながら再び噛みつくように唇に触れてきた楓にとうとう目眩がしそうだ。無理だ、かっこいい、でも、なんて言ったらいいかわからないくらい...
『楓、苦しいよ...』
「わりぃ、つい」
『...こんな幸せでいいのかなぁ』
「もっと幸せにしてやる」
俺の隣にいろって指示が出て涙がジワジワ滲みながら頷けば満足そうな顔した楓が再び近づいてきた。あぁもう...!せめてプリントが終わってからに...
大好きな人に同じように愛してもらえる奇跡
(今日泊まってけ)
(こ、心の準備が...)
(んなもんいらねー)
天地柳花様リクエスト!ありがとうございました(^o^)vご希望に添えてるか微妙で申し訳ないです( ;_; )( ;_; )
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