06







「信長、卒業おめでとう。」

「神さん...ありがとうございます...。」

「そしてようこそ、海南大へ。」

「お待たせしました.....!」


別に待ってないけどね。と言った神さんは相変わらず悪気なさそうな顔をしていて。本当に可愛い顔して毒吐くなぁこの人は......。


卒業式に来てくれた神さんは相変わらずスタイルが良くスーツ姿でバッチリ決めていて男の俺でも付き合いたいと思うくらいだった。


「信長なんだか憂鬱そうだね。何?恋でもしてるの?」

「いやまさか...。寂しいんすよ。海南生活も終わりかぁ......。」


懐かしい。神さんの自転車の後ろに乗ってイキッてた日々。牧さんの卒業式でブレザーにシミになるくらい泣いた。神さんの卒業式では泣きながらしがみつき離れなかったら本気で蹴られた。キャプテンになり不安に押し潰されて毎日放課後が来なきゃいいと思ってた。


いろんなことがあったなぁ......。


そして今日もまた、俺のブレザーのポケットには小さな箱が眠っている。


『信長くん、写真撮ろう?』

「おう、いいよ!」


なまえはそう言ってカメラを持って俺の隣に立った。自分たちの方にレンズを向けて「いくよー」なんて楽しそうに笑っている。


もう会えないかもしれない。アメリカに行きアメリカで就職するのならもう二度と顔を合わせることはないのかもしれない。


だからこそ、最初で最後の贈り物をさせてほしい。


撮った写真を確認して満足そうにしているなまえに信長はそっと声をかけた。


君がどこの誰のものだろうと、これだけはもらってほしい。信長の心が溢れていく。伝えたい「好き」が溢れて転がって.......。


「なまえ、」

『うん?どうしたの?』














蘇る。クリスマスの後、俺に言い訳するみたいに「栄治くんは友達なの」と言ってきたなまえの顔。聞けば彼氏ではなく、アメリカに住んでいた頃、英語を教えていたのだと。


「家庭教師...?」

『うん。空港で困ってた所をたまたま助けたの。そしたら「アメリカでプレーするけど英語ができない」なんて無謀なこと言い出すから。』


放って置けなくて...と言ったなまえの横顔はやけに色っぽくて俺は息を飲んだ。この場にいなくともこの子にこんな顔させる沢北栄治が羨ましくて仕方ない。


「それで英語教えてたんだ...」

『うん。そのかわり栄治くんにはバスケを教えてもらってたの。』


さすがにお金は受け取れないから、と言ったなまえが以前俺に見せてくれたフローターシュートを思い出す。そうだ。あれは俺が一年の頃、赤毛猿んとこと山王が試合した時にインターハイの会場で見たんだった。沢北が披露してそれを流川が真似して......懐かしいな......


『急に帰っちゃってごめんね。また思い出の地巡りしようよ!』

「そうだな......!」




















きっともうそんな日はこない。なまえだってわかってて言ったのだろう。社交辞令みたいなもんだ。


「短い間だったけど...また会えてよかった...。」


今日卒業したら、俺はなまえとまた離れるんだ。もしかしたらまたどこかで出会える時が来るのかもしれない。でもその時もきっと、なまえは俺の隣には並んでくれないんだろうな。


何度巡り会っても...きっとまた俺となまえは......


『アメリカ行っちゃうけど遊びに戻ってくるし、そんな...永遠の別れみたいな、悲しい顔しないで?』


結ばれない運命なのだとしたら、いっそのこと...


「......なまえ、これ......」


俺があの時渡せなかったネックレスを今度こそなまえに渡そうと、意を決した瞬間だった。


「なまえ、卒業おめでとう。」

『...あれ?!栄治くん?!』


どこからともなく現れて「よっ」なんて笑っているスーツに身を包んだ沢北栄治。彼の存在に気づいた他の生徒たちが「沢北だ〜」なんて物珍しそうに集まってくる。ここ最近アメリカでの活躍が凄くてスポーツニュースなんかにも取り上げられていてすっかり有名人だ。


『どうしたの?また急に来て......!』

「サプライズってそんなもんだろ。あ、この間の幼馴染。」


卒業おめでとう。とにっこり笑った沢北に俺はゆっくり頭を下げた。手に持っていた箱はポケットに逆戻りだ。


「バスケは?続けるの?」

「はい...海南大で......。」

「そっか。頑張れよ。」


はい、と返事をする前になまえの手を引っ張り「行くぞ」と連れて行ってしまう沢北。「どこ行くの?」と聞き返し必死についていくなまえ。


『信長くん!またね!また会おうね!』


身動きが取れないまま、返事ができないまま、どんどんと遠ざかっていく二人を見つめていた。


「またなんて...もうこないでほしいよ......」















なまえの消息を聞いたのはそれから6年後であった。アメリカに行ったなまえと違い神奈川に残っていたなまえのご両親もあのあとすぐまたアメリカに戻った為、6年もの間、俺はなまえという存在を自分の中から消していた。普通に生活している分には思い出す機会も少ないし、人づてに噂を耳にするなんてこともまったくなかった。


「信長。なまえちゃんから届いたわよ。」

「え........」


6年ぶりに聞いた名前に体がビクッと反応した。母親から受け取ったエアメール。中身は開けてびっくり、なんと結婚式の招待状だったのだ。


「あらまぁ...結婚するのね。」


なまえの名前、その隣に並んだ名前、そこには俺の想像通り「沢北栄治」の文字。あぁそうか、君はとうとう他の誰かのものになってしまうんだね。


「ハワイで挙式だなんて...しかも交通費、宿泊費全部出してくれるのね...。」

「俺は行かないよ。」


祝ってやるものか。君の結婚式だなんて。


「あらま...もったいない子ねぇ...」


結婚式を不参加にしてから5年後、なまえは日本へと戻ってきた。沢北栄治が現役最後を日本でプレーすることに決めたからだ。「信長くん久しぶり」そう言って俺の前に現れたなまえの隣には小さな男の子が立っていて。


初めて会った時、君は俺の運命の相手だと思ったんだ。いつの日か旅立った君。まだ幼かった俺の前からいなくなった君。二度目に会った時は誰かに恋をしていて、三度目に会った時には人妻になり母親になっていて。


君と俺の運命が「絶対結ばれない」ものなのだとしたら、何度巡り会っても君には大切な人がいるんだとしたら、その大切な人が俺じゃないんだとしたら...それならいっそのこと、初めからなまえとは出会いたくなかったよ。馬鹿。




















君の心に触れてみたかった







あとがき

運命共同体があるんだとしたらその反対もあるんじゃないかなと思いました。タイトルを運命共同体の反対の意味になるものにしようと考えたんですがそもそも「運命」の対義語って無いんですよね。いろいろ考えた結果「運命分離体」にでもしようかと思ったけどやめました。甘い話ばかり書きがちなので最初から最後までずっと同じ感じで続く話を書こうと思ってこれを書き始めたんですが、4話まで書いてボツ作品にしてたんです。だけどせっかく書いたし最後まで続けてみようと決意して完結まで頑張って書いてみました。でも結局何のパンチもない作品になった......。つくづく才能がないなぁと落胆します。






Modoru Susumu
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