03






「うん、美味いっす!」

「ほんっと食べっぷり良いわねぇ...。素直な子に育っておばさんも嬉しいわ!」

『なんでお母さんが喜んでんの......。』


いいじゃないの〜と響くおばさんの声。なまえはそんな母親を横目で見るなり俺へと視線を移し「おかわり言ってね」なんて笑いかけてくる。その笑顔がやっぱり可愛くて癒しで。「おう」と返事をすればなまえも再びムシャムシャとご飯を食べ始めた。


まさかこんな風に、一緒に食卓を囲む日が来るなんて思わなかった。5歳の頃の俺が必死で受け入れようとしたなまえの引越し。時が経つにつれどんどん流されていった記憶ではあったけれど、でもまたこうやって出会えたことがすごく嬉しくて二人を見るなり笑みが溢れてしまう。


「信長くん、バスケしてるんですってね。」

『しかもすっごい上手だった。』

「あらまぁ〜!本当にすごいわ!」


バスケは向こうでは日常的なスポーツだったのよ、だなんて続けたおばさんの言葉に、先ほどなまえが決めたシュートを思い出す。やはりアメリカにいればバスケするのなんて当たり前で、誰もがシュートを決められるくらい、「日常的」なものなのかもしれない。


そう思うと「教えてもらった」と答えたなまえにも納得がいった。友達やら知り合いにバスケ経験者はこれでもかという人数いたはずだからだ。


『ごちそうさま。信長くん、私の部屋来る?』

「えっ..........?!」

『昔の写真出てきたけど一緒に見ない?』


なまえの誘いに変に緊張して口をパクパクさせる俺におばさんは「二人で見ておいで」だなんて背中を押すようなことを言う。いやいや、そこは娘を心配して「リビングで見たら?」的なこと言わないのか....?


アメリカに住むと色々感覚が違うのかもしれねぇ...


「じゃ...じゃあ...行こうかな...。」

『よしっ。ついてきて!』


勢いよく立ち上がりリビングを出たなまえについていく。慌てておばさんに食べ終えた挨拶と美味しかったことを伝えたら、それはそれは嬉しそうな顔で返事を返してくれたのだから俺も嬉しかった。


けれどもやたらとドキドキと、心が騒がしい。まぁ無理もないんだけど。


『適当に座っていいよー。』


一歩、部屋に踏み入れた瞬間、ふわっと香るなまえの匂い。部屋に置かれたベッドが目に入った瞬間、ゾクゾクッと背筋に何かが走る感覚があった。

ここでなまえが寝起きしてるんだ.......

そんな当たり前な情報が俺の頭からは離れなくって隣でアルバムをめくりながら「ここおいで」なんて手招きしてくるなまえと距離を詰めることを妙に警戒してしまう。

平気だ...ただ普通にアルバム見ればいい...


『これとか覚えてる?お互いの誕生日よく祝ってたよね。』

「うわ........すげぇ懐かしいこれ.........!」


一冊のアルバムを一緒に見るため普段よりも距離が近くいよいよ爆発しそうになるのだけれど、それを冷ましてくれるほど懐かしい写真の数々。まさか離れる日が来るとは思いもせずに、楽しそうに笑ってる5歳の俺と相変わらず整った顔してる可愛いなまえ。こう見るとやっぱりちっとも変わってないし、本当にそのまま綺麗になったんだなって感心してしまう。


「この時俺が遅刻してめちゃくちゃ怒ってたよな、なまえ。」

『あー!覚えてる!信長くん寝癖ついたまま来るんだもん。』


こんな風に髪跳ねたまま。と自身の髪の毛で再現してくれるなまえが可愛くてたまらなくって「許して」とその頭に手が伸びる。ふわふわと優しく撫でればなまえはクスクス笑い「仕方ないなぁ」なんて楽しそうにしている。

つーか俺...何調子乗って頭撫でてんだよ、馬鹿。


『あ、そうだ。少し待ってて。』


ドキドキする自分を必死に落ち着かせようと深呼吸していたらなまえは楽しそうな顔して突然部屋を出て行った。残された俺はひとり、ふぅーと息を吐いて目を閉じた。


「意識しすぎだろ、俺.........」


こうしてる間にも、なまえの頭を撫でた感触や横に置かれているベッドが気になって仕方のない思春期真っ只中の俺。その場に立ち上がり気を紛らわそうとなまえの机に飾られた写真たてに注目してみる。

アメリカで撮ったのであろう、中学生くらいのなまえ、比較的最近であろうすっかり綺麗なお姉さんとなったなまえ、その全てに俺は写っていなくて。もちろんなまえと写っている相手も俺にはわからない人ばかりで。当たり前のことに突然距離を感じてしまうあたり、俺は相当なまえを意識しているらしい。


「.......あれ、これは.........。」


一番奥に、他と重なり隠すようにして置いてある写真たてを発見し、ついつい手にとってしまう。どんな写真が飾られているのだろうと軽く持ち上げて確認する俺。その写真を目にした瞬間、ドキッと心臓が鳴り不意に時間が止まったような、俺だけそこに取り残されたような、そんな感覚に陥った。


「........この人.........あっ........!!」


なまえの隣に写る背の高い男。片手にバスケットボールを持って穏やかに微笑んでいる。その隣で照れ臭そうに、ピースしてカメラを見るなまえ。見るからに完全高校に入ってからの写真であろう。飾られている写真の中で一番大人っぽい容姿のなまえ。


ドクドクドク...と音を立てる脈。どうしよう、なんでなんだ...?そんな自分だけじゃどうにもできない疑問が頭に浮かぶ。しばらくすると扉の外から足音が聞こえ俺は持っていた写真を元の位置に戻しなんてことなしにアルバムの前へと座り込んだ。


『お待たせ.....ケーキ食べる?』

「あ、おう....サンキュ.....。」


トレイにケーキと紅茶を乗せて運んできたなまえは俺の気なんて知らずに呑気にアルバムをめくっては笑っていた。


『信長くん本当に可愛い。これとか見てよ。』


何も知らずにおちゃらけている5歳の俺。見るなり「可愛い」を連呼するなまえ。


こんなに近くにいるってのに、どうして距離を感じてしまうのだろうか。


「あの写真の人、彼氏?」そう聞けたのならどれほど楽なのだろう。一度見てしまったものは取り消せない。無かったことにはできない。俺の胸はもう、見覚えのあるあの「男」の顔でいっぱいであった。













近くにいるのに遠い君


(...無理だ...会話が頭に入ってこねえ.......)









Modoru Susumu
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