K






『…んっ…、』


目が覚めた。見慣れた天井。ぼやける視界が鮮明になるにつれ、意識もハッキリと蘇る。


『…バスケ…!』


そうだ、と辺りを見渡すもどうやってここへ辿り着いたのかさっぱりわからない。私は海南大の附属である高等部の体育館で神くんや信長くんが活躍する練習試合を観ていたはずだ。それで…どうなったんだっけ…確か海南が勝ってー…


「…目ぇ覚めた?」

『ハッ……、洋平くん……』


隣にはこちらを見つめる洋平くんがいて「どうして…」と頭の中が余計に混乱する。私と洋平くんは随分と長い間顔すら合わせていなかったはずだ。だって…だって…洋平くんがあの時…


「とりあえず、触るぞ。」

『へっ…?!』


混乱する私に有無を言わさずに洋平くんは私のおでこに手をやった。「まだあったかいな…」と言うあたりどうやら私には熱があるらしい。確かに頭が痛いような…いや、朝から痛かったんだ…


そういえば、体育館で洋平くんにー…


『おんぶ、してもらった…』


あれ、夢だったかな…とそう不安になり言葉が出てこない。おんぶしてもらって、薬飲めよって怒られて…あれ、夢だった…?


「うん、そう。体育館で倒れたからここまで運んできた。」

『やっぱり…?夢じゃなかったんだ…』


洋平くんは私の言葉を聞くなりハハッと笑った。「夢の方がよかった?」と聞かれてなんて答えるのが正解なのかわからずに黙り込む。体育館でバスケットを見て試合が終わったあたりであの場で倒れて…それで洋平くんがここまで運んでくれて…


起きるまでそばにいてくれた…?


『あ、あの…何から言えばいいのか、わからないんだけど…その、とりあえず…ありがとう…』


迷惑かけてごめん、と続けた私に洋平くんは「いいよ、いつものことだろ」と笑った。その笑顔があまりに綺麗で胸の奥がトクンと音を立てる。久しぶりに感じたこの感情。この温かさ。この…ときめき…


「俺の話、聞いてくれる?」


私やっぱり洋平くんのことが…だなんて、そんなことを再認識している最中、彼はそう言って私の隣に腰掛けた。布団の上に座る私とその隣に座る洋平くん。同じ方向を見て…なんだか変な感じだ。


「…本当にごめん。謝って済む問題じゃないってわかってはいるんだけど、それでもどうしても謝りたくて。」


それが何を意味しているのか具体的な説明がなくたってわかってしまう。瞬時に頭の中に「謝るということは…」とそんな考えが浮かぶ。


謝って、なかったことにしたいってこと…?


『なんで、なんで謝るの…?』


洋平くんの中での私へのあのキスは謝ってなかったことにするべきことだったのかな…私は、私はそうじゃなくて…


「違う、なまえちゃん…あれは俺の本心だよ、だから無かったことにするつもりはない。」

『…本心…、』


少しだけぼうっとする頭でそんなことを思っていた私の考えなんて彼にはお見通しらしく「謝ってるのはそれじゃなくて」と言った。


「怖がらせたよなって思ったんだよ、ちゃんと気持ちも確認せずにあんな力任せにしちまってさ…」

『……』

「キスしたこと自体はすげぇ良かったよ…言い方おかしいかもしんねぇし、かなり緊張したけど…」


やっぱり好きだからさ…と続けた洋平くんはゆっくりと私の方を見た。目が合うなり「ごめんな」と呟く。


「謝りに行くタイミングも逃して…もうどうしたらいいかわかんなかった。」

『…洋平くんの、馬鹿…』

「…ごめん、すげぇ可愛いって思っちゃった。」


馬鹿のタイミングでバシッと彼の肩を叩く私に少しだけにやけた顔の洋平くんがそう言う。あぁもう…なんなんだこの感情は…


『…私の方こそ、本当にごめんね。』

「なんでなまえちゃんが謝るの?」

『洋平くんのこと子供扱いするような発言したでしょ…』


元はと言えばそれがきっかけだったんだ。彼を好きだと認めて歳の差が気になって彼の言う「好き」がどの好きかわからなくて…挙げ句の果てに「からかわないで」と声を上げた後に洋平くんからあんなキスをされたんだから、原因を作ったのは私なのだ。


「いいよ、本当は餓鬼だからさ。でもひとつだけ言っておくけど…本気で言ってるんだ、なまえちゃんのことが…」


好きだって。


洋平くんはそう言って私に微笑んだ。その好きを疑うことはもうないだろう。「なまえちゃんは俺のこと、どう?」とそう聞かれあまりの彼の余裕さに若干悔しさすら感じるのだった。


『…好き。』

「…えっ、?」

『でも自分が嫌になるの…洋平くんが私だけを見ててくれたらいいなぁって、年上なのにそんなこと思ったりして…』


三歳年上の自分にあまりにも余裕がない。自分自身がそれを許せない。好きが溢れすぎてどうにかなりそうだった。会いたいとずっと思っていたしやっぱり彼のいない日々にはもう戻れないんだと心がそう叫んでいる。


『重くて洋平くんのお荷物になりそうだよ…』

「…俺のセリフだろ、それは…」


口元を手で押さえた洋平くんが「ずりぃよ」と呟く。心なしか顔が赤い彼と頭がぼうっとする私。このまま一緒に眠ってしまいたい…だなんてそんなことをぼやぼやと考えているうちに部屋のインターホンが鳴った。


『あ、はーい……』


小声でそう返事をしその場に立ち上がる…も、まだ体が熱いことに加え突然立ち上がったことに目眩がしてフラッと重心が揺れる。それを「おい!」と受け止めてくれたのは洋平くんだった。


「大丈夫…?!」

『あ、ありがと…誰かな…』


玄関へと向かう私よりも先にキッチン横のモニターから訪問者を確認する洋平くん。誰だろう、宅配便かな…とそんなことを考えているうちにピッと音が鳴り洋平くんはモニター画面の電源を落としていた。


『誰だった…?』

「…いい、出なくていい。」


相手が誰なのかも言わず洋平くんはそう呟く。確認もせずにそんなことをしては…と彼の言葉を無視して玄関に向かう私の腕は強い力でキュッと掴まれる。


『…?!』

「行くなって…いいから、ちゃんと確認させて。」


私を壁際に追い込み壁にそっと手をつく洋平くん。出ないからか部屋に再びインターホンが鳴り響く。私が動くことを許可しない洋平くんはジッと私を見つめるなり「俺のこと、好き?」と問うのだ。


「ちゃんと聞かせて、なまえちゃん。」

『…す、好き……好きです……』

「俺も好きです。キス…してもいいですか?」


その突然の敬語は私の体温をさらに上げるのには十分すぎるものであった。風邪だったらうつることを伝えても洋平くんは「いいから」と一言で片付ける。


「待てない、しちゃうよ…?」

『…馬鹿、…いいよ。』


彼の高校生離れした色気とこの場の雰囲気に飲み込まれすっかりと忘れていた訪問者。洋平くんの唇が触れる直前でもう一度インターホンが鳴ると今度は「なまえ先生ー?」と声がした。


『信長くんの声だ…!』


玄関の方へと視線をやりハッとした私に洋平くんは「ダメ」と言う。


「俺以外はダメ、こっち見て。」


グッと顔を正面に戻されゆっくりと近付いた彼の唇が重なった。次第に深くなっていくそれ。何度も何度も舌を絡めるうちに頭の中がクラクラとして足の力が抜けた。そんな私をガッチリと受け止めるなり洋平くんは布団へと私を寝かせてくれる。自分はその上に跨り私とのキスを止める気はないらしい。


「…っ、俺と、付き合おう…」


キスの合間から降ってきた告白に頷く暇さえ与えてもらえない。部屋に響くリップ音がやけにいやらしくてそれが余計に体を熱くさせる。


『…んっ、…はぁっ、……』


あまりの刺激に目が虚になってくる。瞬きが重たくて視界もぼやけてきた。ぼうっとする頭の中には洋平くんの荒っぽい息と繰り出されるリップ音だけが届き続けるのだった。








君への好きを抑えられない


(…洋平くん、もうギブ…)
(…おわっ、あっつ…!ごめん、熱あんの忘れてた…!)
(ひどいよ…洋平くん…)







Modoru Susumu
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