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『な、なんでそんなに、楽しそうなの…』

「逆になまえちゃんは楽しくないの?七年ぶりだっけ?俺すげぇ嬉しいけど?」

『…そ、そうだね…』


マンションまでついてくると言っては聞いてもらえなくて洋平くんと並んで歩く。距離が近くてやけに身長差を感じてしまって…やっぱり男の子なんだなぁ…なんて、そんなことを思ってしまった。私の記憶にいる洋平くんとは比べ物にならないくらい「男」になったんだなぁ…と、そんな親戚のおばちゃんのようなことを考えていた。


「大学は、どの辺?」

『ここから少し行ったところの…』

「名前は?」

『海南大学…』


え、海南ってあの海南…?と聞かれて、洋平くんの言う「あの」とはどのことなのかわからずとりあえず頷いておく。聞くところによると附属の高校があるらしい。そこに知り合いがいるとかなんとか、曖昧な返事が返ってきた。


「学部は?」

『教育学部…』

「なに、先生になんの?」


そうだよ、と問えば「ふぅん」と興味があるんだかないんだかよくわからない返事が返ってきた。あっという間に契約したてのマンションへと辿り着き「またね」と言えば彼からは返事が返ってこなかった。


『…って、なんで入ってくるの!』

「ん?すげぇ綺麗なマンションだね。」


暗証番号を入力してロックを解除するなり当然のようについてくる洋平くん。エレベーターも自然と乗り込み気付けば五階へと共にたどり着いていた。


『まだなにも揃ってないよ…明日荷物届くし、本当に空っぽで…』

「…えっ、今日ここに泊まるの?どうやって寝るわけ?」

『…床で寝る。』

「まさか。」


空っぽの部屋を見るなり洋平くんは「体痛くなるよ」と当然のことを言ってくる。そんなのはわかってる…けれど…明日届く荷物を待つ以外に無いし、布団も台所用品も何もかも、今日は無しで生活することになっていた。


『大丈夫、一日くらい。』

「…この後は?何すんの?」

『適当に食べるものとか買いに…』

「っし、行こうぜ。」


えっ…と声を出す前に洋平くんは玄関先で靴を履き私の手を引っ張っていく。ズンズンと今来たはがりのエレベーターに乗り込み一階を押す。突然のことに戸惑う私を見るなりニコッと微笑んで「デートだな」と言ってくるから本当に困ったものだ。最近の中学生は…ませてるんだなぁ…


「どうする?手、繋ぐ?」

『繋がない…!』

「えぇー…俺はいつでもウェルカムだよ?」


何を言ってるの…とやりとりをしている間にドラッグストアへとたどり着き洋平くんは自然と店内へ足を運んでいる。置いていかれないよう必死についていくもどうして立ち寄ったのだろうか…


『ねぇ、何買うの?』

「何って、頭痛薬だろ?あと熱冷まし。」


あっけらかんと言い切って売り場へと進んでいく洋平くんについていくも、それって…と思う自分がいる。


『洋平くん、なんでも覚えてるんだね…』

「…当たり前だろ、忘れるわけねぇよ。」


こちらを見ずに薬を選ぶ洋平くん。私は昔から頭痛持ちで、よく熱を出す子供だった。どこかへ出かけるのなら必ずと言っていいほど持ち歩いていた常備品。洋平くんの中でそのイメージがいまだに根付いているのか、彼は当たり前のように私の愛用している常備薬を手に取り、あの頃とは違い大人用の熱冷ましを選んでいる。


『もう、そんなに熱は出ないけど…』

「んなこと言って、すぐ倒れるんだよ。新生活に慣れるのだって時間かかるだろうし、なまえちゃんすぐ溜め込むタイプだから、準備しておいて損はねぇだろ。」


なにそれ…と心がざわついた。見た目こそ変わってしまった洋平くん。リーゼント頭になるとは思いもしなかった。けれども中身はちっとも変わってないなぁって、昔から気が利くしっかりとした子だったもんなぁって、そんなことを思って「ありがとう」と口に出している自分がいた。


「別に感謝されるようなことは、してない。」

『してるよ、ありがとね。』

「…なんかあったら、すぐに言えよ。」


「俺がなんとかする」と小さな声でそう聞こえた。頼もしくて、格好良くて、男らしくって、たまらず笑みが溢れる。少し生意気で強引で、ませてるなぁって感じるけれど、やっぱり洋平くんは洋平くんだった。


『洋平くんも、高校生になって困ったことが出てきたら私に相談するんだよ。』

「…既に困ってる。」

『え、なに?どうしたの?』

「…なまえちゃんが、すげぇ可愛い。」


お会計を終えビニールに薬を詰めながらそう言ってこちらを見てくる洋平くん。グイグイと距離を縮められて彼の綺麗な顔が目の前にくる。慌てて彼のおでこ辺りを手で押さえ「からかうのはやめて」と言い放つ。なんとか冷静さを保つも容易にドキッとする自分がいてバレないように心を落ち着かせた。


ふぅ…ったく、うかうかしてられないなぁ…


「…やっぱさ、今日はうちに泊まったら?」

『そんなの悪いよ!せっかく一人暮らしが始まるんだし、今日は大丈夫だから!』

「…だったら、俺も泊まる。」

『いけません、外泊なんてダメです。』

「…ちぇっ、」












変わったもの、変わらないもの


(晩飯食ったら帰るから、まだいさせて)
(もう!ほんとに帰るんだよ?!)
(わーった、わーったから、落ち着け!)






Modoru Susumu
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