強心臓彼女 (海南)







『だーかーらー!高頭先生にはこっちの方が似合うって!』

「いいや、絶対にこっちだ。そんな若者じみたものは好かんだろ。」

『牧より先生の方が若いもん!黙っててよ!老け顔!』


今日も今日とてなまえさんは容赦がない。高頭先生への誕生日プレゼントを買いに来たデパートでいつものように言い争いになるマネージャーのなまえさんとキャプテンの牧さん。神奈川ナンバーワンの呼び名も高く巷では「帝王」とすら称される牧さんが唯一敵わない相手である。


「老け顔って......」

『これでお会計お願いします。贈り物で。』


部員から集めた微々たる徴収金で買った夏にぴったりのポロシャツ。どちらの色にするかで口論になった二人は結局なまえさんの勝ちといういつものパターンで幕を閉じた。ガックリと肩を落とした帝王牧さんは俺の元へやってくるなり「神、お前のような綺麗な顔に生まれてきたかったよ...」と泣き言を呟いた。牧さん、バスケットでは誰よりも信頼してますから。


「もう...二人とも。ここはデパートだよ?あんな大声で喧嘩しないで。部室じゃないんだから。」

『宮益、それは悪かったけど。牧のセンスがおっさんすぎて話にならないの。』

「みょうじ.....それくらいにしといてやれよ.....」

『高砂、牧に甘すぎるんだよ。みんなのお金を背負ってるわけだよ。変な色の服買ってる場合じゃないの。』


なまえさんはそう言うとお会計を済ませ綺麗にラッピングされた袋を持って俺達の元へと戻ってきた。牧さんの周りには負のオーラが漂っていてどんよりと肩を落としている。あんなにすごくて色々な意味で高校生離れしたこの人が、ここまで年相応の男子高校生の顔をするなんて本当にレアだし、この顔をさせるなまえさんはある意味牧さんの自然体を引き出す天才なのかなってそんなことばかり考えてしまう。


『神、なんか今変なこと考えてたよね。』

「いやぁ...なんのことかさっぱり...」

『ふぅん。そう。』


やっぱりなんでもかんでもお見通しで、キレ気味に発された「そう」に俺の背筋は寒気がするわけだ。怖い。この人は本当に怖い。


「まぁまぁ。牧、元気出せよ。なんだかんだお前らがお似合いなのはわかってるからさ。」

『武藤.....今なんて言った......』


相変わらず変なところで天然を炸裂させる武藤さんの呟きによってなまえさんのこめかみにはピキッと筋が入った。


「ま、まぁまぁ!牧とみょうじの仲が良いのは事実なわけだし。そんな怒ることじゃないよ。ね、みょうじ!」

『何さ宮益....仲良いなんて言葉で片付けないでよね。』


なまえさんはやたらと牧さんとの仲を否定する。二人とも良い意味で目立つため、校内や他校のバスケ部員にも「付き合ってるのか」とよく噂されるらしい。その度に半ギレで「んなわけあるか」と相手を潰しにかかろうとするなまえさんと肯定も否定もしない苦笑いの牧さん。好きの裏返しかと思ったりもしたけど、真相は本人にしかわからないようだ。ちなみに翔陽の藤真さんはやたらと二人の仲を疑っては毎度なまえさんにブチ切れられているらしい。


「ま、これでプレゼントも買えたし。せっかくだから飯でも食ってこうぜ!」

『いいねぇ、武藤。たまにはいいこと言う。こういう時食べたいのは.......』


「「お好み焼き!」」とピッタリ声を重ねたのはなまえさんと牧さんで。二人は顔を見合わせるなりなまえさんは目を点にして、牧さんは軽くドヤ顔でフッと笑っている。


「気が合うじゃん。さすが夫婦漫才!」

「む、武藤...!黙ろうか。いやみょうじ、違うんだよ。今のは事故で...二人のこと夫婦だなんて言ってないし....!」


相変わらず空気の読めない武藤さんと間に入ってやたらと汗をかく宮さん。いつものことだと気にもしない高砂さんに意見が重なったことが嬉しいのか上機嫌の牧さん。なまえさんは気持ちを切り替えたのか「エビが入ってるやつ〜」と軽くスキップして歩いている。


「....神、そんな楽しそうな顔してないで助けてよ...いつまた喧嘩が始まるか怖くて....」

「宮さん、いつも大変ですね....」

「他人事みたいに.....。」












『牧ー!男だろー!年齢詐称のついでに1位獲れー!』

「なまえさん....そんな大きな声で......」

「本当だよ、みょうじ......」


俺と宮さんが苦笑いする中、なまえさんは自身のハチマキを握りしめて牧さんを応援していた。今日は海南の体育祭で、クラスのくじ引きにより借り物競走に出ることになった牧さんを同じクラスのなまえさんが本気で応援している。やるからには絶対に負けないという根性論は二人の間で共通らしい。応援する方も走る方も本気すぎて怖いくらいだ。


『牧ー!さっさと借りてこい!』

「お題がなんなのかわからないってのに....」


宮さんの言う通りこちらからはお題はわからないのになまえさんは引いた紙を見るなり立ち止まって固まった牧さんに叫び続けている。次第に牧さんはバッとこっちを見ると、全力で走ってくるではないか。


「なんだろう....こっちに来てるね....?」

「そうですね....」

『なんかすごい勢いで来てるけど....あれじゃない?同じ部活の人とか....』


なまえさんが最後まで喋ったかどうかのところで牧さんは走りながら「みょうじ!」と叫んだ。


『うえっ...わ、わたし...?!』

「来い!早くしろ!!」

『あ、う.....うん.....』


牧さんはなまえさんの腕を引くとゴールテープに向かって突っ走った。ダントツで1位を獲った二人は同じクラスの仲間からかなりの拍手で迎えられていた。


「....なんだったんですかね、お題は....」

「俺聞いてくる....気になるし....!」

「あ、宮さん.....!」


遠巻きに喜び合う二人の様子を見ていた俺と宮さんだったけどそう言って牧さんのクラスへと駆けて行った宮さん。しばらくして戻ってくるなり「クラスメイトだって」と言った。


「異性の、クラスメイトってさ。」

「なんだ...案外普通でしたね。」

「本当だよ。もしかするともしかするかもなんて思い過ぎだったね。」


宮さんと「そうですね」なんて分かり合っている間に今度は続けて部活対抗リレーが始まるとのアナウンスがあり、俺は宮さんの元を離れ集合場所へと向かった。










『神!もっと差つけて!神!!走れ!!』


言われなくても走ってるよ....走りながらでもハッキリと耳に入るなまえさんの大声。俺が牧さんにバトンを渡すなり今度は標的が牧さんへとチェンジしてさらに大声へと変わった。


『牧ー!!行けよー!!走れ、ジイー!!』


ジイって.....。本当にめちゃくちゃなんだから......。牧さんはそのままぶっちぎりでゴールテープを切りバスケ部は何年連続かの部活対抗リレー優勝を飾った。


『やったぁー!!さすが!!帝王!!』

「ったく...調子がいいな、みょうじは......」


ワーキャー騒ぎ出すなまえさんにハグをされたと思ったら今度は一走を走った信長の元へと駆け寄っていっていた。賑やかな人だ、本当に.......


「お疲れ、神。」

「あぁ、宮さん、高砂さん。お疲れ様です。」


労いのため駆け寄ってきてくれた二人は俺の前に立つなり「聞いたか?」と小声で言ってくる。


「何を、ですか?」

「さっきの牧の借り物競走。違ったんだよ。」


宮さんはそう言うと高砂さんへと視線を移した。


「どういうことですか?」

「高砂が確認したんだって。直接紙を見たらしい。」

「おかしいと思ったんだ。いくらみょうじと仲が良いとはいえ牧の近くに同じクラスの女子はたくさんいた。」


続けて高砂さんは「牧の奴、紙見た後しばらく動かなかったのも変だったし」と続けた。


「それで、確認してきた。」

「なんて書いてあったんですか?」


俺の問いに高砂さんは表情ひとつ変えないが隣の宮さんはニコニコと優しい顔で笑っていた。


「 ” 大切な相手 “ ってさ。」


それを聞いて俺は瞬時に牧さんに視線を向けた。信長と喜び合うなまえさんを少し離れたところから穏やかな笑みで眺めている。


「牧さん.........」

「性別は指定されてなかった。男だってよかったはずだ。」

「牧も普通の男子高校生だってことだよね。」


宮さんはそう言って牧さんを見つめて笑っていた。いつかあの人の想いが、ちゃんとなまえさんに届くと良いなぁ、なんて、余計なお世話であろうことばかり考えてしまう俺はいつの間にかお節介な男になっていたらしい。








素顔は恋する17歳


(なまえさぁぁぁん!やったぁぁあ!)
(信長〜〜!!やったね〜!!)

(....いつまでハグし合ってんだ、アイツら....)
(....あれ?俺なんか牧さんからすげぇ視線感じるっす....)
















Modoru Susumu
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