Eternally (牧)






「みょうじに告白しようと思って、だな.....」

「......へぇ、まんまと落ちたってか......」


俺の言葉に藤真はそう言うと「アイツ悪くねーもんな」と一言呟いた。アイツとは俺の言うみょうじであり、それが藤真にとって「ただの後輩」じゃないということも俺なりにわかっているつもりだ。


「いいんじゃね?アイツ、牧に馬鹿みてぇに惚れてるわけだし。」

「.....あぁ、そうだな。」


みょうじはとても良い子だ。初めて会った時からずっとその印象は変わらなくて、翔陽出身な上にこの藤真とも交流がありながらも他校に通っていた俺のことを慕って好いてくれている。自分で言うのも何だが凄く貴重な存在だと思うし、この子を逃してしまうなんてことはしたくない。


「藤真、俺今度の試合の後、みょうじに....」


別に藤真に許可を取る必要なんてない。そんなの自分でもわかっている。しかし、言っておかなきゃいけない使命のようなものを感じて口を開いた俺の声に被せるようにして藤真もまた口を開いた。


「好きにしろよ。俺は応援してる。」

「あ、あぁ....助かるよ...」


二十数年生きてきて、人生とは全て真実を伝えればいいというものじゃないことはわかっている。時には嘘をつかなければいけない場面だってあるし、それが誰かを守るための物ならばなおさらだ。だからこそ「お前は本当にそれでいいのか」と問いただすつもりはない。藤真が決めたことなら、俺はそれでいい。むしろまたお前と戦うことにならなくて済むんだったらその方がいい。


「試合負けんなよ。負け試合になりゃ告れねーだろ?」

「あぁ....必ず勝つさ。」
















『牧さん、お疲れ様でした!』


今日も抜群にかっこよかったです!


みょうじは少しだけ照れながらもそう言うと俺に向かって「乾杯!」とグラスを差し出した。反復するように「乾杯」と言いコツンとグラスを合わせる俺にニコニコ笑いかけながらゴクッと喉を鳴らしている。


「悪かったな、突然食事に誘ったりして。」

『いえいえ!凄く嬉しいです!』


お疲れでしょうから、私に気を遣わないでたくさん食べてくださいね。


みょうじはそう言って小分けの皿にサラダを盛ると俺に差し出してくれる。次々運ばれてくる料理を器用に、そして綺麗に皿に盛り付け「どうぞ」と俺の前にはひとつ、またひとつと皿が増えていく。


『....うん、美味しい!これ、凄く美味しいですよ!』


....可愛い。今まで恋愛にさほど興味もなく、バスケットが忙しいこともあって、女の子と付き合う回数は片手で十分余るほどしかなかった。そんな恋愛経験が少ない俺ですらみょうじはとても「いい女」だということをひしひしと感じるし、逃すわけにはいかないと本能がそう叫んでいるような気もする。


「....みょうじ、確認だが....」


もうここらで決着をつけてしまおう。


『はい、なんでしょう?』

「彼氏は、いないんだったよな?」

『へっ......あっ.....い、いませんけど.......』


その照れた顔も、可愛い笑顔も、全てを一刻も早く俺だけのものにしてしまいたい。藤真の気が変わらないうちに。


「俺と、付き合う気はないか?」

『.......えっ、?!』


みょうじは一瞬でフリーズするとそのまま数分固まったままちっとも動かなかった。しばらく時間が経つなりようやく俺の方を向いたみょうじは俺の目を見つめると「あります...許されるのなら...ぜひ...」と呟いた。


「許されるも何も、こちらからお願いしたんだ。」

『な、何をっ、おっしゃるやら....っ!』


よろしく、と頭を撫でればみょうじは顔を真っ赤にして俯いた。「無理だぁ...」と呟き耳まで真っ赤になる姿がどうにもこうにも可愛くてたまらない。チラッと俺を盗み見するような形で見ると「牧さんの、彼女...」と自分の立ち位置を確認するかのように呟いていた。


「どうだ?嫌だったか?」

『そんなわけっ....!も、もう!私で遊ばないでくださいっ!』

「ごめん、ごめん。可愛いから...つい.......」


答えがわかり切っている質問で虐めてみたら、頬っぺたを膨らませて怒ってくる。


特別なことは何も求めないし、いらない。スポーツ選手を支える為に何か資格を取ってほしいとかそんなこと、俺はみょうじに望まない。ただ、そばにいてくれたらそれでいい。それだけで俺はなんだってできてしまう気がするのだから。












3月14日は、俺の大嫌いな日だ。


「藤真さん、おはようございます!」


出勤するなり大勢の女子社員が俺にここぞとばかりにアピールするよう挨拶してくる。それに「今日はホワイトデーだからお返しがもらえるかも」という魂胆があることは見え見えだし、俺は好きでもない女にお返しを贈るほど出来た男じゃない。だっていちいち返してたらキリがないし、いくら貰ったかももう数えてないけど、簡単にひと月分の給料の半分は持っていかれそうな勢いだったのは確かだから。


それともうひとつ、今日を嫌う理由がある。


「....もしもし?テメェ朝から電話なんかかけてくんじゃねぇよ。どうせ” 今日で牧さんと付き合って三年になるんです “とか惚気んだろ?」

『よくご存知じゃないですかぁ!さすが藤真さん!今日も抜群に暴君ですね!』


朝から女子社員にお返し期待されてイライラMAXだなぁ〜だと?....お見通しってか、うぜぇな。


「...で?俺今出勤したばっかなの。うぜぇ電話はさっさと切るぞ。」

『待って。それともうひとつ、話があります!』

「...は?実は喧嘩してて俺に乗り換えるとかそんな冗談は...」


嫌な予感がした俺がそう誤魔化せば、今まで聞いたこともないくらいの真剣な声で一言、みょうじは言い放った。


『結婚することになりました。』

「........誰と?」

『えぇっ?!そこ?!』


俺の渾身のボケに「牧さんですよ!」と笑いながら答えてくれる。


「....へぇ、貰い手が見つかって良かったじゃねぇか。」

『本当にそれです!藤真さん、ありがとうございました!』













あの日、君を紹介するんじゃなかった。


「俺の後輩」だなんて、「牧のファン」だなんて、俺にとって君はすぐそんな存在じゃなくなるってのに。どうして格好つけて「連れてってやる」なんてほざいたんだろう。その先の可能性を考えなかったんだろう。


『結婚式はまだ先ですけど、来てくださいね。』

「スピーチしてやるよ。なんてったって仲介人だからな。」

『翔陽の友達驚きますよ!私と藤真さんが仲良くなってたなんて知ったら。』


おめでとうなんて言ってやるものか。


3月14日はやっぱり、俺にとって大嫌いな日だ。













隠した想いが見つからぬように


(婚姻届にサインしてもらえますか?)
(....は?!テメェ牧と結婚すんだろ?変な冗談はよせって!)
(....え?保証人の欄ですよ?)
(....おっと、今から急に出張になって....悪い!切るわ!)

(....何勘違いしてんだよ俺の馬鹿野郎!ドキドキを返せ!)



牧と藤真のコンビに挟まれた話をいつか書いてみたいという自分の願望を叶えた作品になりました!結局この二人の間では牧さんが勝つんだと思います。。でも牧さんは牧さんで自分の容姿に悩んだりして藤真くんを「羨ましい」と思っていたらいいなぁというね。

ホワイトデー遅くなって申し訳ないです...以上で全て終了です!!お付き合い頂きありがとうございました!







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